2-2
最近爪を切っていなかった。伸び切ったその爪で相手の腕を引っ掻いた
怯えた目でこちらを写す少女の姿がそこにはあった。左の手のひらで右の腕を握っている少女は声を震わせて言ってくる。
「あっ、あの! 信じてもらえるか、わからないんですけど……。私、
そう言って、少女は僕の肩らへんを指さす。
「何かに、取り
この子は何を言っているのだろう? 憑かれている? オーラ?
頭が理解する前に、結論を出した。
逃げよう。
彼女が本気でも、何かしらの商法だとしても、関わらないのが一番だし、そもそもこの場にいることが僕にとって限界だった。
少女のうわずった声はよく響き、下校中の他の学生達が何気無しにこちらを見ている。話の内容を聞かれていたなら、頭がおかしい人達だと思われるかもしれない。
そう、人達。
でも、この少女を巻き込んでいるのがダメだ。変なことを言っているのはこの子だし、絡んで来たのもこの子。でも、僕がここを通らなければ彼女が怯えることもなかっただろう。
そんな風に
だから、逃げ出した。それでも、少女は「待ってください」といって二、三歩足を進めたが、そこで足を止めた。
走りながらそれを確認して、僕はそのままのスピードを維持して自宅までたどり着く。扉を閉めて、一度は付けた電気をフラッシュの様にまた消す。ベッドに倒れこんで、掛け布団にくるまった。
体が熱くなっていくのがわかる。
来る……ッ!
両手で頭を押さえ込んで、深呼吸を一回……二回……。
来た……キタキタキタ。
背筋を冷やし、嫌な汗を吐き出すために身体中の穴という穴が開いていく気持ち悪さ。そして、全身を駆け巡る何か。
夜中、寝ようとするときにふと思いだして、
一言で条件を言うなら『
叫び声をあげたいと
この変な
固くなっていた力がややほぐれだして、ゆっくりと深呼吸する。意外と今回は早く
「死にたくない……」
ポツンと呟くのも毎度のことだ。悶絶している間、僕の意思など関係なしに頭の中で「死にたい」を連呼してしまう。我に返った後にしっかり訂正をすることで、なんだか
これが僕を苦しめ続ける
布団の中で汗をかきながら、動けずただただ震えていた。声を出したくても出さなくて、助けも呼べなくて。気がつけば気を失っていて、朝になっていた。
高熱を出して学校を休み、その次の日には学校に戻った。話しかけていたこともあり、多くの生徒から心配されたけど、その全ての会話が苦痛でならなかった。また、あの気持ち悪い時間を過ごすことになるかもしれない。僕は、完全に他人との関わり合いに恐怖してしまったのだ。
唯一友達と呼べる存在の男も、余り者同士であらゆる活動をする中でいつの間にか話せるようになっていた。だから、やっぱり僕は苦手なんだと思う。ああいう
でも、少し後悔している自分もいたりする。だって、彼女は僕が何かに
考えてみても、その容姿や顔は思い出せない。当然かもしれない、一瞬だけ目に移しただけで後は周りの視線が怖くて彼女自身を見ていなかったのだから。
完全にチャンスを逃したということだ。
汗を洗い流すためにシャワーを浴びる。
冷たいシャワーを浴びながら、自分の現状について考える。アズサの自殺の理由を探そうにも、やっぱり僕は他人を頼れない。多分限界は近いところにあるのだろう。僕は諦めるだろうか、呪いを恐れず他人を頼るか。
とりあえず、近々例の唯一の友達と会う約束をしている。勢いで約束を入れたが、今となっては少し億劫だ。場の雰囲気的に大丈夫そうなら、彼に相談してみるのもいいかもしれない。まぁ、孤独はゼロだ。ゼロがいくら集またって進歩はないのかもしれないけど。
シャワーを終えて、着替えを済ませると、もう僕の中にある後悔や、不快感は薄れている。いくら、慣れても繰り返しても、こういったマイナス思考は完全に消すことができない。いちいち受け入れる余裕もないし、できる限り考えるときに全力で考えて、その後は置いておくようにしている。
その夜、僕は久々にいい夢を見た。
中学のあの日、呪いがかかっていない僕が、クラスの皆と仲良くなって、次の日もその次の日も仲良く話している夢。一日ごとに孤独になるんじゃないかと不安になる僕なんだけど、教室のドアを開けると皆があいさつしてくれて、昨日のテレビの話題とかを投げかけてくる。
朝、目が
人が平等なら、それは可能なんだろう。だから、僕はそれを信じて生き続ける。
――幸福は、僕のもとに戻ってくる。もし、呪いがなければ僕はこの
その時僕はやっと、死んでもいいって思えたんだ。
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