最終話

「えぇ! 彼とよりを取り戻したの? その人やっぱおかしいよ。優しすぎるって」


 年が明けて、僕らは何ともない日常の中にいた。人生の半分ほどを呪われて過ごしてきた僕だったけど、問題はない。むしろ、良いなってきている。他人と話すことができるようになり、部屋の色合いも少し変わった。


 リオも雑貨屋のバイトを辞めて、飲食店で新しくバイトを始めた。たまに、バイトの子たちと飲みに行ったりなんかもして、楽しそうだ。


「聞いてよルイ、ミレイ半年前に分かれて全く話してもなかった彼とまた付き合い始めたんだって、やっぱり最低な女だよね」

「どうだろう? 他人のことは良くわからないや」


 そういえば、年が明けは成人式があって実家に帰っていた。リオはこっちでバイトをやっていてから一人での帰省。いつかは両親に紹介するべきなのかもしれないが、彼女はなかなか複雑な事情を持っている。もう少しだけ、様子を見てからでもいい気がする。慌てるようなことでもないし。


 でも、僕が夏に帰ってきた時よりも明るくなっているのを見て、「女ができたな」と言われたときは少し驚いた。一応、できたとだけは言っておいて質問攻めはかわし続けた。


 成人式では、皆から『変わった』と言われた。どこがと訊くと、何となく話しやすくなった。とほぼ全員が言ってきた。


 梶田とも、あの件以来での再開となった。お互い何処か決まずかったけど、どうやら結末はナオミさんから伝わっていたようで、僕とリオのことを少しからかってきたくらいでその後は、過去の話で笑いあった。お互い自分の孤独を笑い話に出来るくらいにはなっていたのだ。


 僕もリオもお互いの認識の中では、過去の自分は今の自分とは別人ということになっている。その方が気が楽なのだ、過去に縛られてばかりだと呪われているのとなんも変わらない。


「どこか、行こうか」

「そうだね、バイトないからってだらだらし過ぎた」

「明日も休みだっけ?」

「明後日もね。正月に出た人たちはその分休みをくれるんだって。別に良かったんだけど、平等にしないとって店長がね」

「じゃぁさ。どっか遠くに行かない? 泊って帰っるくらいの」

「今から……? ん、まぁいっか。行こうか」


 差し出してきた彼女の手を握って起き上げさせる。クローゼットは一つしかなく、僕とリオで半々に使っている。全身写る鏡をもう一つ新しく買ってクローゼットの両サイドに鏡を設置している。


 二人で、クローゼットの中を漁りながら端々の鏡で確認する。彼女が「これでいいかな?」って聞いてくるのに返事をして、今度は僕が彼女に訊く。


 楽しい時間だ。服が決まれば後は、そこまで準備はしない。リオの方は大体の私物が小さなバックの中に入っていて、いつも身に着けているから、こういったときお準備は早い。僕も、特に持っていくものもないし、お互い軽装備で支度は終わり外に出た。


「どこに行こうか?」

「泉旅館とか行ってみたい。寒いし、行ったことないから」

「あぁ、いいね。どこかいいとこあるかな?」


 調べると簡単に出てきた。近くに海がある温泉街。ここからは遠く電車で3時間以上はかかる。でも、丁度いい遠さだと思う。


「どうして、急に旅行みたいなことやろうとしたの?」

「なんかさ、新しい場所で思い出を作りたくて。この場所とかって、前の僕らがもういろんな思い出を作っていたからさ」

「あぁ、なるほど。いいね。すごくいい」


 僕自身不安に思っていることがある。それは、やっぱり僕らはいつか死ぬってことだ。当たり前のことなんだけど、不老不死を目の前で見ていただけあって、その現実が恐ろしく思えてくる。


 もし、ここであの日のように彼女が振り返って道路に飛び出したら。家にいるときも彼女が包丁を取り出して自身の胸を切り裂くんじゃないか。そんな風に思ってしまうことが多くある。


 だから、僕らは前とは違う。変わったということをこの身にわからせたかった。この場所にいるとほぼ毎日いつかの記憶に苦しめられる。だから、末子の名場所に生きたかった。真っ白な場所で思い出を塗り固めていくことで、あの頃から少し離れることができる。


 進んでいくってそういうことだと思う。同じ場所で上書きを続けるだけじゃだめだ。こうやって、ゆっくりとゆっくりと世界を広げていくことが大切なんだと。





 

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蛇に呪われた僕は不老不死の君に殺されない 岩咲ゼゼ @sinsibou-r

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