ファウナの考察
生態多様性地域調査 中間報告。
■調査の目的
ウェルゴス大戦前後に発生した生態系破壊における人類社会への影響の調査。
■調査地点
イール地方。トゥアール村を中心に調査。
里地里山域。
水田域。
河川域。
※現時点では原生林――現地の言葉で神域――まで到達していない。
■動物相
※個別で資料作成予定。
今のところ新種は目撃されていないが、他地方からの動物の移入が確認される。
■植物相
添付。フローラ担当。
調査協力の名目で居候しているのだから、ちゃんと仕事すること。
■以下、書きなぐられた推論
個体単位ではあるが習性の変化、体格の巨大化が見らる。従来の体格を大きく上回る異常成長だ。
自然界ではそういった事例もなくはない。気温の変化や食糧事情、天敵の有無などの環境的な要因で、従来よりも大型化することは十分あり得る。戦場で野晒しにされた戦死者を食べて、野犬が大型化したなどはよく聞く話だ。
しかし、わたしが出会った巨大化傾向生物にはこれといった規則性がない。
野猪、蜥蜴、食虫植物、馬陸。生物相の上下の問題でもないし、さりとて種族的な傾向でもない。
たまたま。偶然。考えすぎ。そんな言葉が頭をよぎる。
だが、この件はそういった安易な言葉で片付けてはならない気がするのだ。
だって、よく考えれば不可解なことばかりじゃないか。
――超大型のセトゲイノシシは、なぜこの森にやってきた?
人間に棲み処を追われたのだとしても、イール地方でなければならなかったのか?
――戦略的価値のない土地に、どうしてあの恐るべき魔犬は棲み着いた?
騎士への復讐心から生じた怪物なら、もっと大きな駐屯地を標的にすればいいのに、どうしてこんな辺境を選んだ?
――おおくちが狩猟方法をより狡猾に、知的に変化させなければならなかったのはどういうわけだ?
今までのやり方で十分に生きてこられたはずなのに。
――カネオトシが獣や人を狙うまでに発達したのは?
フローラは栄養源を土地の外に求めるほど痩せているからだ推測かして言っていたが、むしろ土壌を肥やす馬陸などの分解者は増加している。辻褄が合わない。
わからない。強力な外部の生物がこの土地を選び、既存の生物が変化しなければならなかった理由がさっぱりわからない。
見当がつかないからこそ、逆説的に何かあるような気がするのだ。
それを大戦による環境破壊の影響だと決めつけるのは簡単だ。
有史最大の戦争ということは、資源確保のための環境破壊も最大だということ。人間には推し量れない事態が起こってもおかしくはない。
でも、本当にそうなのだろうか。大戦のせいだと思い込み、何か重大な事柄を見落としている可能性はないだろうか。
――今はまだ結論は出せない。
わたしがここに滞在している間に、何らかの答えを得られればいいのだが……。
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