2 依頼

「・・・なんだいそれ」


タカシがまた突っ込むと、ジルは少々口元をゆがめてからこういった。


「そなた、名はなんと?」


「・・・タカシ。正式にはタカシ・サワダ」


タカシはジルのオーラを感じ取ったらしく、ちょっと謙虚にこう答えた。


「・・・そうか。ではその隣の君は」


「・・・ユウジ・カタヤマ。あの・・・エリーとレギュラスはどこに?」


ユウジは名前と一緒に質問を吐き出した。答えてくれるかどうか・・・?と、彼は淡々とした口調でこう答えた。


「なるほど・・・さっき言ったはずだ、エリーは寝室。私の力が効きすぎたようだ・・・レギュラスはいましがた空へ放った」


「空へ放ったって・・・本当にレギュラスに何もせずに?」


どうやらジルはここで核心をつかれたらしく、2、3回瞬きをして小さなため息をついてからこう言った。


「・・・私のために黒に変えてから、な。ただ色を変えただけだが・・・」


「・・・・・・・・・」


「どうやらエリー・シルダは少々しゃべりすぎたようだ」


ジルのこの言葉を聞いて思わずユウジは身を乗り出して彼に言った。・・・もし殺すなら・・・殺すなら。


「でも、まさか殺すわけでは?」


するといきなり彼はあははははっと笑い出し、笑顔で後にこうつけた。


「そんなわけはない。私は無駄な殺生はしない・・・一部を除いて。それで本題に入るが、そなたたちにはラライの町へ行ってもらいたいのだ」


ラライ?エリーが言っていた・・・彼女が両親妹と昔4人で暮らしていたラライへ・・・何があるのだろうか。


「そこには反王国軍を指揮している黒の騎士がいる。女だ、それもかなりの実力の。特徴は黒髪を二つに分けくくり、深緑の目、服装は全身黒ずくめ・・・多分年は私より下だろう。生け捕りにしてきていただきたいのだが」


「それが俺たちにできると?危険な女を生け捕り?」


タカシがまたまた突っ込んだ。ジルが真顔になって言った。


「話の腰を折るな・・・とにかく、奴はラライの女だ。反王国軍は私が王として即位したあたりからできた・・・名はアルジョスタ反王国組織軍」


・・・いかにもレジスタンスをかなり変えたようなネーミングだ。ユウジは心の中でそう思ったがタカシのように口には出さなかった。何を言われるかわからないからだ。ジルはまだ話を続ける。


「アルジョスタとは本来指導者に反対し、自由を求めるという意味だ・・・これもラライの言葉だ。・・・できるか?そなたたちに。その女・・・少女といったほうがいいな。もう一度言うが生け捕りにしてもらいたい。これは私からの頼みだと考えてくれればいいのだが」


どうも言葉遣いがおかしい奴だ、このジル・クロウという奴は。それで、その少女の名前は?肝心なことも教えてくれないじゃないか。ユウジは話を聞きながらまだまだ心の中で考え続ける。気がついたら言っていた。


「で、その少女・・・の、名前は?」


「・・・アミリア・シルダ」


ジルは喉の奥から搾り出すように声を出した。そしてまた続けた。


「・・・とにかく、我が王国に刃向かう輩は排除しなければいけないのだ・・・この国の今に続く平和のために」






「なあ、おかしいと思わないか?」


タカシが、メイドの案内でジルから提供されたと思われる寝室に入り、ユウジにこう言った。ラライへ行くのは明日らしい。彼らはジルから先ほどまた説明を受けた。鎧、盾、兜をつけていけ。最高級のをすぐさま作らせるから。剣も2本ほど装備しろ。短剣と長剣、2種類だ。


「・・・何が?」


「一体俺たちは何のためにここに来た?エリーのためじゃなかったか?」


確かに言われて見ればそうである。それがいつの間にかエリーじゃなくジルの頼みになっている。2人は2つあるベッドにそれぞれ腰掛けながら互いに向き合ってしゃべりはじめた。そばにはガラス張りの大きな窓がある。


「・・・俺はもう帰りたいよ」


タカシが言った。


「・・・どうやって?エリーは俺たちを連れてこられたけど・・・」


「だから、エリーの力で・・・」


「エリーは一応囚われの身だぞ。どっちにしても無理、ムリ」


忘れているのか?タカシ。俺たちはエリーの力でここに来たんだからエリーがいないと帰ることはできない。ましてや彼女は今ジルに監視されているようなもんだからなおさら、無、理。


「そうか・・・そういえばそうか・・・あ、でも」


「まだ何かあるのか?」


タカシがそう言って窓の外を見たから、ユウジも答えて窓の外を見た。この国は・・・この星は地球と似ている。日が昇り、沈み・・・ちょうど今窓枠から茜色の光が差し込んでいる。日没・・・地球と同じように、夜というものがくるらしい。


「例の少女・・・アミリア・・・後のほうの名前、確かジルは『シルダ』って言ってなかった?」


「あ・・・エリーの苗字と一緒・・・ということはエリーの妹?というかそうだろ!本人妹がいるって自分で言っていたし!しかも失踪した自分の腹違いの妹は失踪したはずの土地で軍隊率いているんだぜ!」


「・・・エリー、そのこと聞いたら安心するだろうかな」


熱く語ったユウジのそばで、タカシは夕焼けを見ながら疑問文でつぶやいた。ユウジはトーンの落ちた声でぼそっとつぶやいた。


「・・・同時に複雑な気持ちになるだろうな」


自分の妹が・・・2人の異邦人によって捕らえられようとしている。もしエリーがそれを聞いたら・・・?


「・・・行くしかないのか?」


「え?」


「どうしても・・・だめなのか?」


タカシの問いは難しかった。答えることができない。


「さあ・・・まあ、きたもんは受け止めなきゃ行けねえべ、タカシ君」


「北海道弁でそんなこと言っている場合じゃないだろ」


「・・・北海道・・・懐かしいな・・・オヤジ・・・どうしているかな」


熱くも寒くもないこのすごしやすい土地。地球から遠く離れた、見知らぬ土地。


「ホームシックかよ・・・」


「はあ・・・」


ユウジがため息をついた。いまや外は闇に包まれていた。少し光が残っているあたりがこの土地でいう太陽のようなものの存在をあらわしている。


「きたものは受けて立つしかない、か・・・そのとおりかもな」


「いつ帰れるかわからないし」


「帰るためにはアイツの言うことを聞くしかないよな」


「・・・どうやらそれしかないみたいだな」


日は落ち、あとには闇だけが残される。


明日は・・・来るんだろうか?来るんだろうな・・・。






「ていうかさあ・・・」


タカシがつまらなそうにぼやいた。なにせこの道が・・・道とはいえないからだ。そして・・・揺れるからだ。


「なんでこの星に地球からパクってきたような馬がいるんだ?」


「しらねえよ。こんな世界なんだから別にいいだろ?」


「でもなんか理不尽だって!太陽はあるし、月はないけど星はあるし、言葉通じるし、年齢の数え方まで一緒だし!」


それには一理ある。


ジルが言った。ラライの町はこの城を出て北の方角にある。この地図で言うとまあ、上だな。馬を2頭用意してある、それに乗っていくといい。わざわざネガサスを差し向けなくてもいいだろう。奴らは困ったことに凶暴でな・・・そこだけは私の意思に反しているのだ。


横から見てみればなんとも普通の人間のような奴だったな。タカシはそう思いながら馬を進める。遅い。もうちょっと早く進めよ、コラ。ただ・・・目だけは違ったな・・・恐るべき虹色。あんな虹彩見たことねえぜ。いっぺん見たら忘れられねえ。


「まったく・・・確かにあほみたいな道だな。ラライはどんな町なんだ?」


ジルは出がけにまた言った。そなたたちを王国将軍に任命する。給料はちゃんと出すから・・・


ああ、この国にも貨幣はあったんだ・・・これは知らなかったな。ユウジはそんなことを考えながら馬上で揺れる。というかなんで俺たちが将軍になるんだ!?他に人がいるだろうが!


「きっとちっこい町なんだろう・・・1ヘクタールぐらいか」


「しっかし何にもでてこないなあ・・・普通は生き物ってものがいるだろ?」


ユウジは退屈しながらぼやいた。普通は何か出てくるはずだ。


「いままで俺がやったゲームでは道中必ず何か変なモンスターが出てきたけど・・・しっかしこの鎧は重いし・・・短剣はいいんだけど長剣が重い」


「そうか?別に俺はなんともないけど」


「お前は剣道やってたからいいの。俺は柔道しかやってません」


「といってもさ、相手って・・・武器持ってるよな」


「はあ、いまさら何言ってるのユウジ君!ジルはああ言ってたけど・・・持ってないわけがない!」


ジルはまた言った。相手は最初は武器を持っていないが、戦いとなると長剣が2本どこからか出てくるので要注意だ。詳細はわかっていない。


・・・それは竜のペンダントのせいなんだろうか・・・。


「なあタカシ、竜のペンダントについて何も聞いてなかったよな」


「え?ユウジ、それってシルダ妹がつけてるとされるシルダ家に伝わる伝説のやつ?」


「ああ・・・どこからか出てくる武器がそれの力だとしたら」


「・・・城の図書館にでも行っておけばよかった」


「何かあったかもしれないって?」


「多分・・・俺の予想ではそこに何かが書いてあるはず」


「タカシ、お宝探し?」


「いや、相手が武器を出す前にペンダントを奪って力ずくでやっつける、とまあそんな作戦を」


「それで奪ってきたもののいわれを調べるってわけか」


「いい方法だろ、ユウジ」


「あ、さえぎって悪いけどあれ、ラライの町じゃ?」


「おっ、ついたみたいだ」


茶色の屋根に壁は黄土色。何か懐かしいような感じの町だ。確かに小さい町・・・どの家にも戸がなく、開放的でいい。馬をおそらく中心部と思われる位置まで広い道に沿って進めてみると、地面にレンガを敷き詰めたと思われる広場で子供が遊んでいる。町の人たちは2人の騎士の姿を見るとはっとした顔をしてその場に固まった。


「なんだ、怖がってるのか?」


「俺らのせいだろう。何もしゃべりかけるな、タカシ」


馬から下りながらユウジが言った。そしてあたりを見回してから相棒に言った。


「なあ、これからどこを探せばその少女が・・・」


「あたしのこと?」


不意に自分たちの背後から声がして2人は振り返った。


「捕らえにきたのね。もう王国のやっていることはあたしに筒抜けだから。やっても無駄、無、駄」


黒髪を二つに分けくくり、深緑の目、黒ずくめ、年はジルより若く・・・凛としたオーラを発している。胸元には青と赤の玉がはめ込んである小さなペンダント。よく見たらペンダントの土台にあと2つくぼみがついている。アミリア・シルダ本人のようだ。


「さあ、どうするユウジ」


「・・・やるしかないだろ」


シャリン、とユウジは長剣のほうを抜いた。隣でシュっと音がして、タカシが短剣のほうを抜いたのがわかった。


「おい、何でお前短剣・・・」


「いいから相手に集中しろ」


見ると、アミリアは右手を斜め右上に振り、長剣を生み出した。あっけに取られている間に左もいつの間にか剣を握っていた。そして、本当にいつの間にか、黒い鎧をまとっていた。おい、それはどこから生み出した?お前は生み出し系か!


「さあ、きなさい」


「・・・どうやらタイミングを間違っちまったようだな」


「仕方ない、行くぞユウジ!」


2人は剣を構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る