PEGASUS~天馬が空を飛んだ日(執筆時中学一年生)

プロローグ

「あーっ!ネタが思いつかない・・・て言うかない!」


試行錯誤しても何も思いつかない。どうしよう。このまま原稿が書き終わらなかったら。


「担当さーん・・・ヘルプ・ミー!・・・はあ」


クーラーは壊れているし、扇風機は古くて涼しくないし、おまけにクソ暑い夏だし。涼しくない。


「新人作家って一体・・・」


頭を抱える。暑い。今にも体中が溶解して溶けてしまいそうだ。せめて一人暮らしはオンボロアパートじゃなくて世田谷高級マンションにすればよかった・・・なんて考えている自分が悲しい。いっそのこと釧路でのんびり漁師の跡継ぎにでもなっておけばよかったと思うこのごろ。とかなりくだらないことを考えていると、


ピーンポーン


「ああ?誰だよ・・・」


暑くて暑くて、ちょっと動くだけでも暑くて、次は昇華しそうで、玄関のオンボロい木の戸を開けたら、


「よお、ゆーじくん!」


友人だった。自転車の荷台にクーラーボックスを載せている。前かごには段ボール箱に入った何かがある。


「あー、何の用だよ・・・・・・部屋が暑くなるから用が済んだら帰れよー・・・」


「カキ氷マシーン、2000円でどう?」


「・・・・・・」


暑いからカキ氷。暑い。食いたい。でも2000円。彼、隆、俺の友人の持ってきたカキ氷マシーン・・・


「いる」


気づいたときには即答していた。よほど自分の体が限界だったんだろう。


「あ、その前に俺こいつでカキ氷作って食うわ。かき氷マシーン嫁入り直前お別れ会」


「はあ?」


玄関先でこんな話をしているのがなんか情けない。


「いや、おまえも食っていいぜ」


「おまえって・・・どうせ俺のもんになるんだろ?」


「いやあねえ・・・」


「すみません、片山悠司さんのお宅は・・・この辺だと伺ったのですが」


突然、見慣れない若い女に声をかけられた。誰だ、この人。白いワンピースに麦藁帽子・・・って、いつの時代のファッションだよ。俺も隆もとぼけた顔になった。


「は?俺ですか?」


「あ、あなたでしたか。あの、実はちょっと個人的な用がありまして・・・」


「おい、結構綺麗じゃん、あの人」


隆が俺に耳打ちした。


「・・・で、それは二人で話し合いたいことでして」


また彼に耳打ちされた。


「おいおい、二人だってよ」


「あ、今友人来てるんで・・・また後で・・・」


「あ、いいじゃんいいじゃん、あ、そうだ、カキ氷食べませんか?」


「・・・?」


女は目が点になった。まるで、何ですかそれはと言いたげな・・・そういえばこの人金髪に深い緑の目。この星の人類のにおいがしない。


「カキ氷。暑い中来られたようですし、さ、あがってください」


「・・・お前何処のうちだと思っているんだよ」


「いいじゃねーか、友よ」


「・・・いいんですか?本当に?じゃあ・・・だいじょうぶですね」


「いいけど、涼しくないですよ」


何が大丈夫なんだか、そのときはわからなかったけど。






部屋の中のテーブルの上は原稿用紙が散乱していて、彼女の目から見たらなんかすごい・・・というような状態だった。


「あの・・・それで」


「何・・・」


「・・・私たちの星を助けていただけませんか?」


「は?」


「実は私、エリーといって、この地球の人間とアリウル星の人間のハーフなんです・・・今、私たちの星が危ないんです」


「なして俺に頼みに来た?」


「道端であった人に、あなたが心やさしい人だとお聞きしましたから。あ、行くならワープします・・・」


アリウル星って何だ?そのネーミング、しかも何処なんだ?それになんだか話早くないか?在りうる星か?それになんで俺に・・・と、俺はふと思いついた。今はスランプだ・・・小説のネタにさせてもらおう!よし、これはいけるぞ・・・!


と思ったと同時に、俺は即答していた。


「わかった、行こう」


「えぇ!?そんな安受けあいしちゃっていいのか?おい、ちょっとは・・・」


「ごたごた言わずに、行くぜ」


俺は自分の生活のためのようなものだと思って、そこで唖然として話を聞いていた隆の腕をつかんだ。


「それでは・・・・・・ラ イット エスタ プレメント・・・」


エリーが何語かをつぶやき終わった瞬間、急に周りが渦巻いて景色が消えた。ぐるぐるとした灰色の物質が猛スピードで過ぎ去っていく。


「うえっ」


隆が呻いた。程なくして自分も少々気分が悪くなってきたので目を閉じた。


ワープだって!それに地球外生命体だって!このことをノンフィクションで売り出しても誰も信じてくれないに決まってる。世間のやつらは夢がない。だからこそ、フィクションとして売り出せば・・・儲かる!


俺はそんなことを考えながらぐるぐる回っていた。






すどーん!と地面にぶつかって、隆が俺の上に落ちてきた。エリーは普通にすとんと着地した。一瞬、ワンピースの中を期待してしまってそちらの方向を向いたが、ちょっと遅かったみたいだ。


「あー・・・ひろーいですーね・・・・・・」


隆が俺の上から降りて言った。俺は身を起こしてズボンに付いた砂をパサパサとはたく。ただたんに、砂漠が広がっているだけ。何もない。しかし、驚いた。地球以外にもこんな命の宿る星があったこと。


「ちょっとゆーじくん、ここ何処」隆が言った。おそらく彼は一刻も早くここから帰りたいと思ったに違いない。


「しょーがねー、行くしかねえだろ」


この星は未来の地球を俺たちに見せているような気がする。発展しすぎた文明の臨終を見ているような気がする。そんなことを考えていると、エリーがピーっと指笛を吹いた。


何かが羽ばたく音が聞こえる。俺も隆も上を見た。見上げた空に点が見えて、だんだん近づいてくる。大きくも小さくも見えて、それは鳥のようなシルエットになる。でも、鳥じゃない。


ひとつの点が3つに分かれた。そして、それはシルエットを馬に変え、3頭はエリーの前に着地した。


「すっげー、本当にいたんだ・・・ペガサス。カメラもってこればよかった」


隆はかなり感動しているようだ。でも、カメラはないだろ、おい。


「あ、悠司さんも、えー・・・」


「隆」彼は自分の名前をかなりぶっきらぼうに言った。


「あ、すいません、隆さんも乗ってください、早く。急いでください」


見ると、ペガサスが乗りやすいように座り込んでいた。ちょっとお辞儀をして俺はその背中にまたがる。ウィリンという名の彼は、金色をした優しそうな目で俺を見返した。


「さ、ちょっと急ぎますよ。上空でネガサスたちが・・・旋回しています。落ちないように気をつけてくださいね、手綱があるからそれをもって」


天馬たちが飛び立った。と、地面を蹴るときの衝撃とともに、エレベーターがあがるときのようなふわりとした感覚が自分の体を襲った。そしてエリーの言ったとおり、上空を見るとペガサスの暗黒色バージョンの生き物が自分たちをつけるように上空で旋回していた。


不安になった。いったいここは何が渦巻いている場所なんだろう?ネガサスといったっけ・・・俺たちの何が目的なんだ?

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