何かと楽しい修学旅行
その日、K小の6年生全員は修学旅行へ出発。奈良へバスで行って、東大寺の大仏を見た。
2組のでかいやつが大仏の鼻の穴を通り抜けようとしたところ、抜けなくなって友人に腕を引っ張られてスポッと抜けた。そのときの写真を撮った先生はすごく面白い人だ。
紹介させていただきます。私、真里奈は転校生。今回の小遣いは4000円。でも基準まで500円足りないので悔しい。
すったもんだやっているうちに旅館に着いた。先生達は
「立派な建物ですね」
とほめている。でも私達にとってはただ気味が悪いだけである。
そして、そこで夕食をとることになったのはいいものの、立派な旅館の割には悲しいまずい食事だった。
「あたし刺身無理だよ~・・・」
「まずーい!のこそう」すると、
「残さずに食べろよー」
先生の声が聞こえたので断念した。
私達は、出来るだけ味わわないようにしておかずとご飯をかっ込み、厨房にいる化粧の濃いおばさんたちのところへ持っていった。
「ご馳走様でした」と、まずかったくせにこんなことまで言わなければならない。
「はいはい、おそまつさまです」
1組の金澤が「本当にお粗末でした」と小声で言ったのが聞こえて、おばさんの顔は歪んで余計に老けて見えた。
「まずかったねえ、今日の夕食」
「明日もこれだよ?もーいや」
私達は泊室の畳の上に寝転びながら噂話をしていた。
「2組のデブは全部食べたらしいよ」
「へえ、普段よっぽど生ごみみたいなの食べているのかなあ」
こういうときの噂は尽きないのである。
風呂に入った後、すでに部屋には布団が敷かれていた。
「あ、これ蕎麦殻じゃん」
私は枕を見つけて言った。自分の枕を手にとって、友美のほうへ投げつけた。
「いったー、何すんのよ!」
「ただいまから枕投げ開始!」
「やったなー、もう!」
「ねらえーっ、集中攻撃!」
「ぎゃーーーっ!」
あたりはワーワーと戦争並みにうるさくなり、枕が飛び交って蕎麦殻が零れ落ちた。すると、どこかで足音がする。
「引けーっ、退散!」
私達はいっせいに布団にもぐりこみ、寝ているふりをした。
がらり、先生が戸を開ける。
「・・・あれ、なんで一人ひとつ枕持っていないんだ?・・・さては枕投げ・・・」
私は寝かけている。そして、耳から先生の声が聞こえてくる。
「まったくもう何時だと思っているんだ・・・」
まだ10時である。
「ほかのお客様に迷惑じゃないか。ホントに・・・男子でもこんな遊びしないぞ・・・」
悪かったな、ガキで。
私の肩にはあつこの頭が乗っている。そのあつこの肩には晶子の頭、そして晶子はイビキをかきだしているようだ。一方、友美の頭は前につんのめっている。
「こらーっ!てめえら何考えてんだーー!!」
最大級の雷が落ちて、全員50センチ飛び上がった。
「バツとして・・・何にしよう」
思いつかないらしい。5秒ほど沈黙が続き、最後に先生はこう言った。
「・・・うーん・・・みんなで考えて決めろ」
「はーい、徹夜でトランプ!!」と友美。
「・・・ま、寝ないんだからいいか」
これでいいのか、教師ども。
さて、その教師は自分の部屋に戻った後すべての教師達を呼び集めた。
「よっしゃー、今日はみんなで飲もう!これもってくるの大変だったんだぞ」
「いいですねー、他の先生たちも呼んできましょう!」
「何々、ビールに焼酎ですか!いいですね」
とたちまち大宴会に発展していった。踊っている先生もいる。合いの手が入り、酒はますます大人の体を侵食していく。しかしその時、
「あー、先生なにやってんだー!!」
1組の吉川が目ざとくドアの隙間からのぞいて、油断している隙に走っていってしまった。
「しまった・・・あいつはチクリだからなあ・・・」
その知らせは野火のように広がり、私の耳にも入った。
翌朝。みんなはカンカンに怒っていた。教師が食堂に入ってくるなりみんなは一斉に怒鳴り始めた。
「ちょっと先生、何で自分たちだけ宴会してたの?」
「せこいよー、あたしたちも呼んでくれたらいいのに!」
「なんでジュース用意してくれなかったんだよ!」
「いい加減にしてよね!」
みんなの言葉に押されて教師はたじたじと返す言葉がなくなってしまった。こうなったら・・・
「はいはい、昨日のことは悪かったからみんな気を取り直して朝食!」
まったくこれを言わなければ収集つかない自分のクラスっていったい・・・俺は何を教えてきたんだろう?
「・・・まあ先生だからなあ・・・」
なんとなく、なんとなくだけど教師だからだろうか、みんなは素直に納得したようだった。
「げ、また朝から・・・ご飯、海苔、だしまき・・・あ、ほうれんそうとかあった。最悪・・・」
「はあ、いつまでたってもこれだけは変わらないのかなあ」
その日の夜。
今日は法隆寺と長谷寺に行って、お土産も買ったし、写真も撮ったし、たくさん歩いたので疲れた。
「ね、今日は早く寝ようね」
友美が言った。まったく、昨日は徹夜トランプで一睡もしてないので眠くて仕方がない。
「うん」あつ子が相槌をうった。
「あ、ちょっと私歯磨きしてくる」
私は立ち上がった。
「・・・あんなまずい食事、歯磨きしないといつまでも後味に残って体に悪いからね」
独り言を言いながら洗面所に行く。一通り歯磨きを終えて私は帰路に付いた。その途中、また1組の由良と出会った。そいつは結構もてていたけれど、私は興味がなかった。私は無視してそのまま自分たちの部屋へ向かって直進していった。と、
「・・・あのー、ちょっと、待って?」
「え?」
と、彼は何か目をそらして少々赤くなりながら何かつぶやいた。何かあるな、と思って聞いたけど、聞き取れない。
「何?聞こえない」
「あ・・・あのさ」
そこで彼ははっきりと私の目を見て言った。
「あの・・・あの、俺、あのさ?え・・・あ・・・えーっと・・・あの、好きですっ」
私は少々ビビリながら問い返した。
「で、何・・・?」
「あ・・・あ、だから・・・あの、つ・・・付き合ってく・・・ださ・・・い」
「・・・・・・・・・・・・」
いきなりのことなので何を言っていいのかわからない。
「・・・返事は?」
彼はそこで私を目の奥を見ていった。
「別に今は好きな人いないから」
「え・・・でも」
「付き合わないって言ってるの」
「・・・お願い、なんでもいいから付き合ってください!」
と、いきなり由良は私の両肩をつかんで頭を下げて大声で言った。
「いやあぁぁ変態!やめろー!」
いきなりそんなことをされたので私は叫んで部屋に走って戻った。後ろを見ると、由良は私の走っていく方向に手を差し伸べている。
「うそ・・・俺、振られた?」
上げていた手を下ろし、彼は廊下の真ん中に放心状態でぼやっと立っていた。すると、
「やったね、由良!お前、聞こえているぞ、回り一帯に!」
がららっとひとつのドアが開いて一人の男子の頭がのぞいた。
「えええ!?」
「噂で流してやるから、心配するな」
「何どうしたの?」
ばたばたという音とともに部屋に駆け込んできた私を見て、友美が言った。
「由良に告白された!」
「うそぉ、何で?転校してきたばっかりなのに!」
知美がうらやましそうに叫んだ。
「知らないけど、断っといた」
「あーあ・・・惜しいことしたなあ真里奈。・・・あたし今あいつのこと好きなんだけど、よかったら譲って?」
友美が言う。私はあくびをしながらそれに答えた。
「もうとっくに譲っているよ・・・ふあーぁ・・・眠い、昨日徹夜でトランプしていたから・・・」
「じゃあ、寝ようか」
「うん」
「よーし、消灯!」
「えー、まだ10時だよ?」
あつこが異議を唱える。
「いいから寝るの、昨日は徹夜だったんだから」
「・・・そうだね、昨日は・・・ふわーぁぁぁ」
あつこもあくびをした。
「消すよー?」
友美がいつの間にかスイッチのところに立っている。
「いいよー」
カチッと音がして、あたりは真っ暗になる。
「ふふふ、何か楽しい」
「ふふっ」
何かくすぐったくて私たちは小声で笑った。
「あー・・・あたしちょっと明るくないと眠れないんだ・・・」
「あ、懐中電灯つける?持ってきているんだ」
パチっとまた音がして、晶子が懐中電灯をつけた。あたりがほんのり明るくなる。
「じゃあ、お休み」
「お休みー」
余談なんだけど、由良は私に告白したという噂を流されていた。もっとも私はべつに恥ずかしくなんかなかったけど、彼はかなり赤面していた。
それから彼は私とあまり目をあわさなくなったような気がする。時々私と目があっても、すぐ恥ずかしそうにそらしてしまう。今私はそれが気になってしょうがないのである。
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