3
もらったのは、ペンダントだった。
今日のような満天の星空にある星を取ってきてつけたようなシルバーの。
「・・・・・・・・・・・・」
それより気になるのはカードのほうだ。
佳代子はしばらく放心状態になってカードの文字を見つめた。
洗い物がたまっている。皿、グラス、皿、ナイフにフォーク、皿・・・
とにかくこれらを片付けよう。
佳代子はキッチンへと向かった。
「手伝おうか?」
母が顔を出す。
「ううん、いい。自分でやる」
今日は呼びすぎた。
自分でもそう思った。
程なくして超大量の水の流れる音がする。
洗っても皿、スプーン、皿、あっ食べ残しだ捨てなきゃ、皿、・・・
今日一日でどれだけ水を流しただろう。
小倉君・・・・・・いや、やめとこう。考えるな。
今月の水道代に響く。
隆之はやっとベッドの上に座って腰を落ち着けた。
かちゃり
「お兄ちゃん一緒に寝よう・・・」
そこには枕を持った9歳になる妹が・・・
「はあ!?」
「こわいよ」
「・・・しょうがないな」
そういえば、隆之は友人からのお泊り提案を断った。
(こいつのせい、か・・・)
そう思って、彼はベッドの中に退散した。
「お兄ちゃーん!」
「ほら来い」
いらいらするので引っ張りこんでやった。ふん、後は勝手にしろ。
寒い。
佳代子はそう思った。
こう言う日の翌日は足が吊りやすくなる。
「こんな時に暖めてくれるような人がいたらなあ・・・」
と言ったところで、気がついた。
小倉君だ。
(ひぃぃ~~~・・・)
何考えてくれるんだ私の脳みそは!!
でも悪くないかもしれない。
むしろいいかもしれない。
付き合ってみようかな・・・
げ!また変なこと考えちゃった!!
落ち着きません。
体はともかく、心が落ち着きません。
何か重いものが肩に乗っかったような気がします。
私はどうしたらいいのでしょうか。
佳代子も隆之も、場所は違うけどそれぞれ考えながら眠りについた。
翌朝。
「ふあぁぁぁ~ぁぁ・・・おひゃよう」
「あら早いね」
佳代子の目覚めと早起き。
「昨日は足吊らなかったの?」
「うん」
そこで思い出した。昨日何があったかを。
(あまり深く考えないほうがいいや)
「ん・・・」
隣に妹が寝こけている。
思い出した。昨日は林ん家行ってそれから・・・
「はぁ~」
深く考えないようにしよう、と隆之は思った。
木々の間から木漏れ日の漏れる昼下がり。
村の大きな木の下で佳代子は考えていた。
そこは幼い時からの思い出の場所だった。
この木に登ったときも。
この木の下でサンドイッチをほおばった時も。
いつも自分を見守ってくれた木。
今日、私は恋愛相談をしに来ました。
佳代子には今まで好きな人もいなかったし、付き合っていた人もいなかった。
さらに告白されたこともなかった。
どうすればいいのか分からない。
「ほんっとにどうしよう・・・」
ましてや隆之に・・・こんなこと。
こんなことをしていたら、いつまでたっても心の中の重いしこりは取れない。
「ねえ」
空中に向かってつぶやいてみる。
自分が今は純粋であることを確かめてきたように。
でも大人にならなければいけない。
少女時代に別れを告げなければいけない。
隆之はあるところへ向かっていった。
昔よく友人達と遊んだ神社の境内。
鬼ごっこをした時。
たまに賽銭箱をいじっては住職の爺さんに怒られた時。
すべてが懐かしい。
あれから両親が交通事故で死ぬまでは幸せだった。
隆之は8歳の時小倉家の養子になった。
親がいなくなってからいじめられるようになった。
今は友人や林佳代子という存在がが一筋の光のように。
階段に腰掛けた。
「おや君は島田隆之君じゃないのかい?」
声のほうを振り返ると住職の爺さんがいた。
「・・・まだ生きていたんですか」
「なんと!ワシみたいな老人は納豆のように粘って生きているんじゃよ」
このジジイ・・・隆之は思った。
「俺は・・・もう島田じゃありませんよ」
「そうじゃったかのう・・・わしの頭にはそう記憶してあるんじゃがのう」
「親は・・・死にました」
「・・・・・・・・・」
「交通事故で・・・」
「何か悩みがあるね」
このジジイは人の話を聞いていない。隆之の頬が火照った。
「・・・はい」
「恋愛相談じゃの」
「・・・・・・」
こんちきしょう・・・このジジイめ!!何で見破るんだ・・・
「ワシはそんなことしたこともない。自分で解決しなされ」
「別にジ・・・あなたに相談しようとも思っていませんでした・・・」
「ジジイ、と言いそうになったじゃろ、島田君」
「もう一回言いますが、俺は島田じゃあありません!」
「ははははは・・・そうムキになるな。しかし若いってのはいいわい」
隆之は、あきれた。
この爺さんは人のいうことをあんまり聞いていない。
木は教えてくれました。
自分で立ち向かっていきなさい。
運命です。
小倉君と・・・付き合うことにしました。
これでよかったのでしょうか!?
その時、佳代子が首にかけていたペンダントが日の光を受けてきらりと光った。
正月は母の実家に帰ることになっています。
その前にあなたに言いたい事があります。
付き合いましょうか、私達。
小倉君、いや隆之君。
私はそう決断しました。
私はあなたに告白されてから大人になったような気がします。
佳代子は始終そのことを考えて1日を過ごすようになった。
気になる。
心が船のように揺れる。
気になる。
どうしよう。
いつ言おう。
あっちへ、こっちへ、そっちへ。
どっちへ?
私はどうすればいいの!?
またの昼下がり、佳代子は例の木の下で数学の宿題をしていた。
でも集中できない。
「そこ、間違えてるよ」
え。
見上げると・・・
「おっ・・・・・・小倉君・・・」
分かる。自分は今猛烈に緊張している。
「脅かして、ごめん」
ちょっと微笑んだ。
よく照れずに、緊張せずにこんなこと言えるな・・・
「あのさ、ここらへん、全部間違ってるから」
「え!?」
見ると、見事に全部間違っていた。
「俺、なんか余計に気になることしちゃったかな・・・」
「いや別に・・・そんなこと・・・な、ないよ」
「ごめん」
言おうか。
言うまいか。
「あー・・・あの、えーっと・・・小倉君」
「ん?」
さあ、言え!
「・・・ここ教えて」
言えなかった。
「いいよ。でも佳代子ちゃんなら出来るんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・!!」
ひぃぃぃ―――!!
「あ・・・また・・・ごめん」
「い・・・いや・・・別に・・・」
「こう呼んでもいい?」
「・・・緊張・・・しないの・・・?」
「しないよ」
佳代子は赤くなっている。
余計なこと言っちゃったかな・・・?
「・・・もしかして俺、余計なこと言ったかな」
「・・・もういいじゃん、ここ教えて」
遮られた。
「あ・・・うん。まずここから。これは・・・」
隆之の家庭教師ごっこが始まった。
「はぁ~・・・終わったぁ~・・・」
「役に立ったかな?」
「ありがとう」
片付けながら佳代子は言った。
「もし付き合ってもこんな風に使ってくれてかまわないよ」
そうじゃない。そんなことじゃない。
「そうじゃないの」
「え?」
「・・・付き合うってそういうことじゃないと思う、私は」
「・・・・・・」
「本当に好きだって思ってたら・・・あ・・・あ、何だっけ・・・あの―」
情けなかった。
言葉が出てこない。迷子になっていく。もどかしい。
迷宮にはまっていく。
うまく伝えられなくて涙があふれそうになる。
「俺は待つよ」
ふいに声をかけられた。
「言葉、なくても伝わった」
「うん」
「・・・いつでもいいよ、俺は待つから」
隆之が笑顔を見せた。
あ。
今しかない・・・
「あのね、この前考えたの。付き合おうって」
言った。言ってしまった。
「いいの?」
そんな答えに腹が立つ。泣きたくなる。いいの、ってあんたさっき待つって言ったじゃん。
自分の勝手さに。
「さっきは待つって・・・今言っても受け入れてくれるようなこと言ってたのに」
「こう言っちゃうんだよ」
そう言って隆之は彼女を包みこんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
佳代子は信じられなかった。
「・・・そういえばいつの間に来てたの?」
「散歩ついでに、ね」
状態はいたってそのままだ。
「散歩って・・・そんな親父臭い」
「親父か?散歩って気晴らしになっていいぜ」
「それが親父・・・」
明けましておめでとうございます。
みんな、今年もよろしくお願いします。
新年会、私の家でしませんか?
佳代子の招待状が届いた。
「おおお、またやるんだってさ、林」
「暇だし、行くか」
教室で男子達が喋っている。
「また騒ぎたいしな」
そこには隆之も混じっていた。
「おい小倉ぁ、佳代子ちゃんはどうした佳代子ちゃんは?」
「告りました」
隆之は思っていたよりさらっと答えた。野郎どもがいっせいに声を上げる。
「おおおお・・・!」
一方、栞と美香と佳代子は帰宅中だった。
「えええ!?佳代子、またやるのぉ!?飽きないなあ・・・」
「うん、なんか前のも楽しかったから・・・」
「でさあ、小倉とはどうなったの?」
どうやら何かのうわさが広まっていたみたいだ。佳代子も今までに色々と聞かれていたが、それに関してははっきりと答えていない。
「・・・言いたくないなあ・・・」
「いっちゃいな、すっきりするよ」
栞は話にすっかり乗っていたが、佳代子は少し考えてこう言った。
「新年会に回してね、私はここでバイバイ!」
難を逃れた。
「ニッポンの未来はWOW WOW WOW WOW!! 世界がうらやむ YEAH YEAH YEAH YEAH!! 恋をしようじゃないか・・・」
カラオケセットがまずかったか。
モー娘。の曲にセットされているカラオケ・イーカラ。
「出すんじゃなかったかも・・・」
佳代子はしらけていた。自分が企画した新年会のはずだったが。
「いいじゃん、今日はもっと騒ごうよ!!」
「美香ったらまた調子乗ってんだから・・・」
「かぜのなかのす~ばる~ すなのなかのぎ~んが~ みんなどこへ・・・」
「なっ・・・中島●幸ぃ!?」
隆之が驚いた声を出した。
「こんなの入ってたっけ・・・」
佳代子はあきれた。
「おい、これどうするんだよ」
隆之が佳代子に耳打ち。まったく、ただでさえドキッとするのに・・・
「どうにかなるでし――――」
「おらあぁぁーっ!!そこそこ!熱いぞ!」
「!!」
「わーっ!!ヒュウヒュウ熱いね!お二人さん・・・」
「見つかった・・・」
隆之が恥ずかしそうにつぶやいた。
「ハイはいここで隆之君と佳代子ちゃんから重大発表です!!皆さん聞いてやってくださーい!!」
「ほらほら立てよ!」
しょうがなく二人は立ち上がった。
「ほらこれも持って!!」
カラオケマイクを渡された。仕方がない。バックミュージックは地上の星だ。
「えー・・・私たちは・・・あー・・・」
〔今からビールを買ってきます〕
マイクに音が入らないように耳元で隆之がささやいた。
〔いいの!?〕
〔いいから〕
それでも佳代子は言おうとしない。しょうがないので隆之がマイクをひったくった。
「えー・・・今からビールを買ってきます!!」
「よっしゃー!!いいぞー!!行ってこーい!!」
「・・・?」
佳代子は疑問を覚えた。
「あれでよかったのね・・・」
「うん」
7時を回ったばかりだったが、あたりは暗い。でも確実に日は長くなってきている。猫のあたしには寒い。
「それはそうと寒くないか?佳代ちゃん」
「別に・・・」
コンビニはあたりにはあまりないが、佳代子の家から4、500メートルほど離れたところにはある。
「本当にビールいいかな・・・」
「5缶だけで・・・」
実は店の人にはばれなかった。ふけてんのか?
「佳代ちゃん今度の新年会はどういう気持ちでやったの?」
「あー・・・またクリスマスの時みたいなのがやりたくなって」
「・・・・・・」
隆之が答えない。
「小倉君?・・・えっ――――」
その時、小倉君は少々かがんでいた。
佳代子の肩を抱いて。
そして、唇を重ねた。
あたしはそれがまともに見られなかった。
「おっかえりー!!佳代ちんと隆之くーん!あれ?妙に赤くなってないか二人さん・・・もしかして隆之くん・・・なんかやった?」
言われた言葉も、耳に入りませんでした。
コングラッチネイションズ・・・ですか。
あれは濃厚なキスでした。
お幸せになってほしいところです、それは猫・さくらの願い。
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