短編集(執筆時小学六年生~中学二年生)
翼~ハルの物語
ちょっとしたことで背中に翼が生えたハル。どこへ行くのも空を飛んでいけるようになった。
1度、テレビ局が来てインタビューされ、テレビにも出た。人気者となっている今も空を飛ぶのが日課となっていた。
「ハルはいいよなあ、空が飛べて。羨ましいよ」
と友人が言うほどだった。でも、現実はそう甘くない。
ある日学校に行こうとすると、靴が合わない。大きくなっている。そしていざ大空に飛び立つと、いつもよりすいすい飛べるような気がした。 ハルは鳥に近づいている。自分自身でその実態を自覚していない。足が退化している。その代わり背中の筋肉が発達して鉄棒が得意になった。
ハル、♀、O型、12歳。
いつの間にか廊下で翼を広げて飛んでいる。
「ハル・・・もっと足を使わないと歩けなくなるよ」
「いーの。歩けなくなっても翼があるもん」
「全世界中の歩けない人達に失礼だよ」
「かんけー無いじゃん」
ハルは友人の忠告にも従わずそう言って廊下に着地したはいいものの、ぐらぐらして1歩も歩けない。仕方なしに翼でバランスをとる。ハルの顔が真っ青になった。
「だから言ったのに・・・もっと歩いとかなきゃ歩けなくなるって」
「もういい、ほっといて」
こんなことになるなら・・・もっと歩いておけばよかった。でも私はほかの人と違って翼がある。特別な存在なんだ。・・・もっと自分を特別な存在として見てもいいはずだ!
ハルはとんでもない誤解をしていた。
昼休み、ハルは空をゆったりと飛んでいた。下を見ると、ゴマ粒ほどになった生徒達と自分のやせて醜くなった足が見えた。
そして次の瞬間すべてが変わる。
鳥ってこんな感じなの?こんなにすいすい飛べるもんなんだ。思うと同時にはっと気づいた。
校舎の窓に映った自分の姿。体調1.5メートル、開帳4~5メートルの巨大な鳥。ハルは驚愕した。
「ケ――――ン・・・・・・」
叫んだつもりだったが既に声帯は鳥のものとなっている。
教室に戻れない。チャイムは鳴っている。校庭に生徒の姿はほとんどない。
ハルはずっと飛び続けるしかなかった。
教室では一人戻らないハルを、みんなが待っていた。
そこに教師が来る。
「先生、岡本さんがいません」
「え?・・・誰か見た人はいないか?」
「・・・校庭を飛び回っているのは見ました、その後は・・・知りません。教室に戻ったので」
「探そう、みんな」
しかし、何処を探してもハルはいない。上空を見上げた生徒のレンズに写るのは大きな鳥がゆったりと旋回しているビジョン。だれもそれがハルだなんて分かるはずがない。
翌日の朝、校庭に大きな鳥の死骸が見つかった。変わり果てた姿のハルだった。
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