09:ノートパソコン盗難事件の検証

 一通り検証を終えたころ、警察が現場に到着した。

パトカーに乗った警察官二名と覆面パトカーに乗った刑事。

刑事は中年の男性と、見るからに新米だと分かる女性の二名だった。

男性は『酒井』と名乗り、

女性は『本多』と名乗った。


 二人とも捜査三課の刑事だと言う。

酒井さんが父に事情聴取をおこなって、本多さんが千沙梨さんに事情聴取をおこなっている。


私は父に近づく。

「その子は?」

酒井さんが私を見て尋ねた。

「あ、娘です」

父の答えに

「たまたま現場にいました」

私は付け足した。

「えっと、名前は?」

酒井さんに尋ねられ

「楓花です。立花楓花です」

私は名乗った。

「そう、楓花ちゃんね。楓花ちゃんは何か見たかな?」

「いいえ、私は千沙梨さんと一緒に買い物をしていましたので、何も見ていません」

はっきり答えた。

「そうですか……」

少し残念そうにため息をついた酒井さん。

「何か気付いた点とかあれば、聞かせてもらいたいんだけど……」

あまり期待していない感じに見える。

まあ、期待されても困るのだけど。


私はさっき考えた犯行方法と動機を話した。

父も千沙梨さんも刑事さんも皆の目が点になっていた。

「楓花……お前」

「楓花ちゃん……凄い」

父と千沙梨さんに言われて

「ただ感じたことを言っただけです」

そう返した。

「その動機の中で可能性が一番高いのはどれだろう?」

酒井さんに尋ねられ


「そうですね、おそらく、四つ目の動機が可能性としては一番高いと思います」

「それはなぜ?」

即答で返された。

「えっと、動機についてですが……相手が誰なのかという事になると思います。


まず一つ目の動機の相手ですが、父や千沙梨さん、児童相談所が相手になると思います。


次に二つ目の動機の相手ですが、児童虐待の家族が相手になると思います。


三つ目については、おそらくないと思うので割愛かつあいします。


最後に四つ目の動機の相手ですが、一つ目と同様に、父、千沙梨さん、児童相談所が相手になると思います」


いったんここで話を止めた。

四人ともじっと私を見て頷いている。

「そこで、考えたのが、相手によって、この窃盗事件は大きく意味合いが変わると思うんです。

もっとも被害が大きいと思われるのは四つ目の動機だと思いました」

私が考えを述べると

「被害が大きい?一つ目や二つ目の被害は?」

酒井さんが考えるように尋ねる。


「一つ目の被害は、はっきり言って、千沙梨さんの車だけです」

「え?」

全員が驚いた表情になった。

「だって、犯人が情報を持ち出して、優位に立とうとしても、出所でどころは児童相談所ですよ。

犯人が知った情報は、父も千沙梨さんも知っているという事です」

「あ、そうか……情報戦を行う場合、相手の持っている情報はもちろん、相手が知らない情報、すなわち切り札のような情報がないといけないという事だね」

酒井さんは理解してくれたようだった。

「はい」

「しかし、犯人は情報を優位に使おうと考えたのではなく、隠滅を図ろうとして行った犯行とは考えられないかな?」

とてもナンセンスな質問だと思った。

「千沙梨さんのノートパソコンのみにその情報があったとは思えません。

犯人がよっぽど考えていないのなら、話は別ですけど……

しかし、犯行の手順から言って、その可能性を考慮に入れないとは考えられません」

酒井さんの質問をはっきりと否定した。

「なるほど!」

凄く納得した表情。


「次に二つ目の被害ですが、千沙梨さんの車と、児童虐待の家族の情報になりますが、犯人にとっても被害が出ていると思います」

「どういうこと?」

今度は本多さんに尋ねられた。

「そもそも、脅迫というのは、脅迫する側と脅迫される側だけでやりとりがあると思うんです。

それなのにこんな犯行を犯してしまったら、警察が犯人を捜しますよね?

そうすると、脅迫なんてやっている場合ではないと思うんです。

本当に脅迫をしたいのであれば、バレない様にする必要があったと思います。

たとえば、児童相談所に盗聴や盗撮、またはパソコンにマルウェアのスパイウェア等のウイルスを仕掛けるとか」


私が答えると

「楓花ちゃん、本当に凄いわね」

本多さんも納得した表情を浮かべた。


「最後に四つ目の被害ですが、児童相談所の信用にかかわる問題だと思います。

世間に公表されれば、

『どんな管理をしていたのだ』

とか言われかねません。

犯人の狙いはあくまでも児童相談所への復讐と考えた時、盗聴や盗撮、ウイルス等の気付かれ難い犯行よりも、はっきり目に見える犯行のほうが、効果的ではないでしょうか。

よって四つ目の動機が一番可能性が高いと思ったのです」

「なるほど」

四人が同時に頷いた。


「楓花、お前にこんな才能があったなんて」

父は嬉しそうに言う。

「お父さん、私の事はいいの。

それよりも、犯人を早く捕まえて貰わないと大変なんじゃないの?」

「あ、そうだった」

父はそう言って、酒井さんと本多さんに向きを変えて、

「どうか、早く犯人を捕まえてください」

父は頭を下げた。

「全力を尽くします。それでは、盗まれたノートパソコンに入っていた情報を教えて貰えますか?」

酒井さんが父にそう告げると


「はい。分かりました。事務所にあるので、そちらで。あ、諏訪君はもうよろしいですか?」

父は千沙梨さんの事を気遣って聞いた。

「あ、もちろんです。しかし、車は署のほうで調べたいと思いますので、今日はパトカーで送らせましょう」

酒井さんは千沙梨さんに視線を向けて笑顔で言った。

「あ、ありがとうございます」

千沙梨さんは丁寧にお礼を言って、


「あの、楓花ちゃんは?」

今度は千沙梨さんが私に気遣ってくれた。

「そうですね、立花さんはどうでしょうか?」

酒井さんが父に尋ねる。

「楓花ももうよろしいのではないですか?」

父は私に視線を向けて言った。

「わかりました。それでは、お二人ともパトカーで送らせましょう」

酒井さんは同行してた警察官に指示を出した。

「お父さん、早く帰ってきてね」

私がパトカーに乗り込む時に父に告げた。

「うん。なるべく早く帰るよ」

その言葉を聞いて私は少しほっとした。

私と千沙梨さんはパトカーで送られて家路に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る