18:殺害動機?
近藤さんの日記から推測すると1ヶ月だ。
少なくとも1ヶ月はこの公太君は虐待を受けている可能性がある。
私は公太君の事が心配でならない。
私の肩に手を置いてぎゅっと力が入るのが感じられた。
見上げると美彩は悲しそうな目でパソコンの画面を眺めている。
美彩も私と同じ気持ちなんだと気付いた。
「父に連絡してみます」
私は喜ぶ二人に告げた。
「あ、ああ」
二人はキョトンした表情で私を見る。
スマートフォンを操作し父に電話を掛けた。
父はすぐに出て、どうしたのかと聞いてきたので、これまでの経緯を話す。
「そうか……分かった。今から大王子さんの所に行ってみるよ。だから、楓花は心配するな」
父の言葉に安堵する自分が分かる。
父は信頼のおける人だからだろうと思う。
美彩は私の手を握り、
「大丈夫かな?」
美彩の不安そうな表情を見上げ
「お父さんが向かってくれたから、今は待つしかないけど……」
なるべく笑顔を見せながら言った。
「うん……」
美彩の表情は依然不安そうだった。
それに引き換え、大の大人が二人揃って喜んでいたのが急に腹立たしく思えた。
「喜んでいらっしゃましたが、近藤さん殺害の犯人、ノートパソコン窃盗の犯人が大王子さんなんて一言も言っていませんからね」
南部さんそれに酒井さんは
「え?」
と訊き返した。
「たまたま二つの事件に関係しているだけで、犯人だと確定したわけでは無いという事です」
少し強い口調で二人に言った。
「大王子が犯人である可能性は低いということ?」
南部さんはがっかりした表情で聞いてきた。
「そうではありませんが、証拠など何もないという事です」
「そうか……」
「じゃあ、ノートパソコン窃盗の犯人の可能性は?」
今度は酒井さんが質問する。
「それも何も証拠はありません」
はっきりとした口調で答えた。
二人とも肩を落としている。
私は近藤さんパソコンをもう一度調べることにした。
仮に大王子さんが犯人であった場合、なぜ近藤さんを殺害する必要があったのか?
もしかしたらこのパソコンに何か残っているかもしれない。
私はくまなく探す。
どこにもそれらしいものはなかった。
私は諦めようとしたその時、美彩が一言だけ言った。
「ねぇ楓花、オンラインのストレージの中とかは?」
盲点だった。その可能性など全く考えもしなかった。
私は『オンライン情報』のフォルダを覗く。
いくつかのサイトのIDとご丁寧にパスワードも保存してあった。
私は南部さんにLANケーブルが無いか聞いたが無いと言われたので、私のスマートフォンのWI-FIを利用してインタネットに試みる。
その一つにストレージを有するサイトがあった。
中身は写真や日記みたいなものが入っていた。
写真は趣味の釣りやボルダリング、そしてボランティア活動の写真。
どうやら近藤さんは海外にもボランティアとして行っているようだった。
日記のほうを見る。
いくつかは会社の不満やお客さんの不満を綴った日記だった。
そして遂に見つけた。
『4月9日』と書かれた文章。
私はファイルをダブルクリックして開く。
『大王子公太君の事が気になって気になって、今日、とうとう家まで行ってしまった。
大王子公太君の家は二階建ての古いアパートだった。
古いタイプのインターホン?いやドアベルと言ったほうがいいかもしれない。
それを鳴らしたが、家には誰も居ていないみたい。
しかし、何か変だと思った。
変だと思った理由はドアノブに手を掛けると驚くほど冷たかった。
ドアに耳を当てると機械音がしている。
確認していないがあれは冷房だったのではないだろうか?四月なのに冷房は少しおかしい気がするが……
家の裏に回る。家の裏はどぶ川でフェンスもあり歩ける状態ではないが、かろうじて足を掛けるところがあったのでつたって部屋の裏までたどり着いた。
お風呂場の窓をそっと覗き込んだ俺はどぶ川に落ちるのではないかと思った。
霞硝子だったのではっきり見たわけではない。
しかし、お風呂の湯舟には赤い何かがあった。
俺の予想は外れていてほしい。
あれはもしかして……死体だったのではないだろうか?それも切り刻まれた……
警察に通報するべきかどうか悩む。
大王子さんに確認を取ってからにするべきか?
何もなければ俺は大王子さんにとても失礼な事をしたことになるからだ。
明日にでも確認してみるか』
読み終えた私は最悪なシナリオが頭によぎった。
公太君は虐待の末に殺害されて、その事実を近藤さんが知った。
そして近藤さんは警察に通報せずに自分で確かめるために大王子さんと会った。
おそらく近藤さんは公太君に会わせてほしい言ったのだろう。
しかし大王子さんが拒否をした。だって会わせることなど出来ないから。
近藤さんは自分が見た内容をおそらく大王子さんに話したのだろう。
知られてたいけない秘密が知られてしまったと焦った大王子さんは近藤さんを殺害した。
最悪なシナリオがこれだ。
こうであってほしくないと思うが……
可能性は極めて高い気がする。
私は南部さんに最悪なシナリオの内容を説明した。
「それが事実なら、もしかしたらお父さんも危ないのでは?」
南部さんの言葉に私は気づく。
今、父は大王子さんの家に向かっている筈。
「今からすぐに向かおう」
そう言って南部さんは平塚さんを連れて出て行った。
私は不安で不安で仕方なかった。
もし父に何かあればどうしたらいいのか?
居ても立っても居られなくなり、
「酒井さん、私を大王子さんの家まで連れて行ってください」
早口でそう告げると
「分かった。表に車を回そう。友達も一緒に行くのかい?」
「あ、はい」
美彩はついて来てくれるという。
「美彩、ありがとう」
「ううん。お父さんはきっと大丈夫だよ」
美彩の優しい言葉に静かに頷く。
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