17:二つの事件の接点

 私達はカフェを後にして、警察署に急いだ。

 警察署の入り口に警官が二人立っている。


 挨拶をして中に入ろうとすると

「立花さん」

 突然声を掛けられた。

 振り返ると見覚えのある女性が居た。


 確か『本多』さんだった気がする。

「あ、こんにちは」

 本多さんに挨拶をすると

「こんにちは、今日はどうしたの?」

「あ、ちょっと南部さんに呼ばれて……」

「南部刑事?」

「はい」

「あーもしかしたら、立花さんなの?」

 突然大きな声で言われて驚いた。

「え?えっと?何がですか?」

「あ、ごめんごめん。南部刑事が『民間人で凄く的確なアドバイスをくれる子がいる』って言っていたから」

 南部さんはそんな事を言っていたのか。

「的確なアドバイスかは分かりませんが、少しお話した程度です」

「そっか、立花さんなら納得だよね」

 本多さんは私の話を聞いていないみたいで一人で頷いていた。


 私は本多さんにお辞儀をして中に入る。

「あの人は?」

 美彩の質問に

「確か、捜査三課の人」

 美彩は驚いた表情で

「楓花、顔広いね」

「小顔のほうだと思うよ」

 美彩はプッと笑った。

「やったウケた」

「もう!」

 美彩は笑顔で私を叩く。


 受付にはピシッと制服を着ている女性の警官が居る。

 その女性に事情を説明すると、内線で南部さんを呼び出してくれた。

「おーこっちこっち」

 南部さんが私たちを見て手招きをしている。

「今日は無理を言って申し訳ございません」

 丁寧にお辞儀をする美彩を見て、私もつられてお辞儀をした。

「いいよ。君たちが来てくれると助かるし」

「行き詰っているんですか?」

「そうなんだよ。怪しいものが一つも無くてね」

 南部さんは困り果てた表情で言う。

「バックアップから戻しました?」

「うん。それはやってもらったんだけど……」

 それでも怪しい物が出ないとなると私が見ても分からないだろう。

「まあ、とにかく見てくれるかな」

 そう言って通されたのは会議室だった。


 それほど広くない会議室にテーブルが乱雑に置かれている。

 そのテーブルの上には資料が山積みで、会議室というよりも物置のような部屋だと感じた。

 なるべく他の資料は見ないように平塚さんが座っている席の隣まで行きパソコンを覗き込む。

 黒い画面に白いアルファベットが書かれている。昔のパソコンみたいだと感じてしまった。

 平塚さんは私を見て席を譲ってくれた。

 私は『DOS画面』で『EXIT』を入力し『Enter』キーを叩く。

 黒い画面は終了して、デスクトップ画面が表示された。

 デスクトップの画面は可愛い猫の写真が壁紙になっている。

「ふうた……」

 隣で美彩がぼっそっと呟いた。

 私は美彩の手にそっと手を添えた。

「ありがとう。大丈夫だから」

 美彩の言葉を聞いて、私はデスクトップのアイコンを一通り見てみる。


 とても綺麗に整理されていて、この中には何も無いだろうと思った。

 次にエクスプローラーを立ち上げる。

 ドライブは2つあった。

 CドライブとDドライブ。

 私はまず、Cドライブのクリックする。

 Cドライブ内のフォルダが表示される。

 そこにも怪しい物は何もなかった。

 次にDドライブも同様にクリックする。

 Dドライブ内のフォルダが表示される。


 その中に『会社』『釣り』『旅行』『帳簿』『ボランティア』『予約』『オンライン情報』の明らかに近藤さんが作成したと思われるフォルダを発見した。

 近藤さんは部屋を見る限り几帳面な人だと感じていたが、パソコンも綺麗に整理しているみたいだった。

 そのフォルダの中からまずは『会社』のフォルダを開く。

 中には、『報告書』『提案書』『費用』『顧客情報』などのフォルダがあった。

 それらを一つづつ確認していく。

 特に怪しい物は何もなかった。


『後藤』さんの情報もなかった。

 私は大きく深呼吸をして、次のフォルダに移る。それらのフォルダを全て見たが何も怪しい物はなかった。


 パソコンは関係なかったのかも知れないと結論づけるしかないと思った。

「ごめんなさい。特に怪しい物は何も無いですね……」

 南部さんにそう言うと、

「そうか、楓花ちゃんでも分からないか」

「はい……」

「まあ、仕方ないね。また地道に探していくよ」

 そう言って私の肩に手を置いた。


 トントン

 部屋をノックする音が聞こえる。

「はい」

 南部さんが返事をすると

 扉が開き、男性と女性が立っている。

 酒井さんと本多さんだ。

「酒井、どうした?」

 南部さんの問いに

「南部さん、立花さんと知り合いなんですよね?」

 酒井さんは恐る恐る聞く。

「そうだけど、どうして楓花ちゃんの事を知っているんだ?」

「実は前に起きたノートパソコン窃盗事件の時に少し……」

 酒井さんは南部さんが苦手なのだろう。

 とても恐縮している。


「あーあれって楓花ちゃんが関係していたのか?」

「はい。たまたま現場で少しお話させて頂いて」

「なるほど、それで?」

「本多君から立花さんが南部さんたちのアドバイザーをしているって聞きましたもので」

 な!私は別にアドバイザーをしているつもりなどない。

「そうだが……それがどうした?」

 南部さんは否定せずに肯定してしまった。

「その、我々にも少しアドバイスを頂けないかと……」

 そういう酒井さんに私は少し困ってしまった。

 大したアドバイスなど出来る筈など無い。

 今も間違ったことを言って南部さんたちの時間を無駄にしたところだと言うのに……


「そうか!楓花ちゃんどうだろうか?」

 南部さんはとても乗り気だ……

 断れる状況ではない。

「えっと……分かりました……私なんかがお役に立つとは思えないですけど……」

 そう言うと酒井さんは嬉しそうに部屋に入る。

 続いて本多さんも入ってきた。手にはタブレットを持っている。

 私の前まで来てタブレットを置く。

「えっと、この間、諏訪さんのパソコンに入っていたであろうデータをここに入れている。我々が見ても何も分からなかっただけど、見てもらえるかな?」

 酒井さんの言葉に黙って頷く。

 タブレットには『児童相談者一覧』と書かれたフォルダが開かれている。

 私はざっと眺める。

 そして、すぐに何かが引っかかった。


大王寺だいおうじ』この文字。

 さっき見たばかりだった。

 私は慌ててパソコンの『ボランティア活動』のフォルダを開く。

 その中に『3月17日 定期ボランティア○○小学校と一緒に○○山のごみ拾い』と言うファイルを開ける。


 近藤さんの日記みたいなものだ。

 その日記の中に『今日も大王子公太だいおうじこうた君は来ていないみたいだ。これで一ヶ月も参加していないことになる。学校もずっと休んでいるみたいだし、大丈夫なのだろうか?』という文章が書かれていた。『大王子』なんて珍しい名前だけに余計に気になる。


 タブレットのほうの『大王子』も開いてみた。

 家族構成が書かれていて、その中に『公太』の名前を見つける。

 果たして偶然なのだろうか?

「どうしたんだい?」

 私の行動に南部さんは不思議そうに尋ねる。

「いえ、この『大王子公太』って名前なのですが、児童相談所の資料にも近藤さんのパソコンにも載っているんです」

 私は南部さんと酒井さんにパソコンの画面とタブレットを見るように促す。

「どれどれ、あ、本当だね」

「うん。載っているね」

 二人とも感想はそれだけだった。


「えっと、気になるだけなのですが、この『大王子公太』君なのですが、随分学校を休んでいるようです」

「あ、なるほど、そうみたいだね」

 南部さんは近藤さんの日記を見てそう呟いた。

 私は正直その反応に不服があったが、無視して先を進める。

「長い期間学校を休んでいるという事と児童相談所の資料に名前があるという事は……」

 最後まで言わず止めた。

「あ、そうか!もしかして、この子は虐待を受けている可能性があるっという事か!」

 酒井さんが大きな声を上げて言った。

「おーなるほど!」

 南部さんは納得している様子だった。

 南部さんと酒井さんは嬉しそうにはしゃいでいる。おそらく何かの手掛かりになるのであろうと考えたからだと思うが……

 私は喜べない。

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