07:犯人検証その2

「それでは、この液体みたいなのは何なのか分かるかな?」

南部さんは写真に写っている、血痕とは別の液体の流れた跡を指で示した。


うーん、なんだろう?

考えらるのは何通りかある。

それらを二人に話しながら検証しようと思った。

「まずはガソリンやオイル系でしょうか?」

一つ目を挙げた。

「ガソリン?なぜだい?」

「燃やすためでしょうか?それとも何かの匂いを消すためでしょうか?」

「なるほど」

南部さんはうんうんと頷く。


その反応を見て、私は違うと思った。

それ以前にこの考えは無理があることに気が付いた。

燃やすためにかけたのであれば、なぜ燃やさなかったのか?その理由はどこにも見当たらない。

次に匂いを消すためなら、わざわざガソリンなど使わなくてもいい気がする。

もっと他に手ごろなものがある。香水といったものが。


「次はただの水とかどうでしょうか?」

南部さんは腕を組んでほうほうといった感じで聞いている。

「汚れを落とす。もしくは犯人自身の指紋を落とすためとかはいかがでしょうか?」

「なるほど。それは可能性としてはありだろうね」

南部がそう答えた。

南部の態度を見てそれも違うことが分かった。

そもそも、汚れとは何か?返り血?それなら近藤さんがここまで濡れていることはおかしい。指紋も同様だ。


では、それ以外だと何がある?

……

考えるが分からない。

「部屋の様子はどうでしたか?たとえば何か匂いがしたとかはありましたか?」

分からないからヒントを得ようと質問をした。

「そうだね。とても寒かった。冷房が掛かっていたよ」

私の問いに南部がそう答えた。


それで私は閃いた。

「では、氷やドライアイスとかはどうでしょうか?」

「ほう。どうして?」

「死亡推定時刻を狂わすためとかはいかがですか?」

その答えを聞いた南部さんは笑みを浮かべた。

「凄いね。実は我々もそう思っている」

どうやら当たっていたみたいだ。


当たったけど、それほど嬉しくない。

「ちなみに、死亡推定時刻は何時頃ですか?」

ここまで聞いたのだから、最後まで聞こうと思った。

南部さんは手帳を取り出し、ぺらぺらと捲ってから

「だいたい、昨日の夜中の三時から朝の十一時ぐらいだとみているよ」

それを聞いた私は、ふうたの事を思い出した。


「もしかしたら、朝の八時には既に亡くなっていたかも知れませんね」

南部さんにそう告げた。

「え?どうしてそう思うんだい?」

南部さんが不思議そうに聞く。

その隣で、平塚さん既に飲み切ったコーヒーのカップを物欲しげに触ってる。

「ちょっと待ってください。平塚さん、コーヒーのお替わり入れますね」

そう言って、平塚さんのコーヒーカップを手に取ってコーヒーを入れた。砂糖とミルクと一緒に平塚さんの前に置く。

南部さんは平塚さんを睨んでいた。


「えっと、死亡推定時刻のことですよね?」

私は話の続きを確認する。

「そう。どうしてそう思ったかってことだよ」

南部さんは私に向き直りそう言った。


私は今朝の出来事を話し始めた。

そして、放課後、ふうたの左足に着いた、泥のようなものの事を告げた。

「初めは怪我かと思いましたけど、美彩が調べると、それは剥がれたのです。だから泥か何かだと思っていたのですが、もしかしたら血痕かもしれません。それにふうたは朝、私たちに拾われてから放課後までずっと職員室の段ボールの中に居ましたから」


そこまで言うと、

「なるほど、それは大変貴重な証言だな」

南部さんはとても満足そうに言った。

「最後に楓花ちゃん、近藤さんの事件の犯人はどんな人物だと思う?」

そう聞かれたので

「そうですね、少なくとも深夜に尋ねてくる人物だから、近藤さんとはかなり親しかったのではないでしょうか?会社の同僚や飲み仲間、またはサークルの仲間かも知れません。

はっきりとした事は分かりませんが、そんな親しい人で、尚且つ近藤さんを計画的に殺害していますから、かなり恨みがあったのではないようでしょうか?私に言えるのはこれぐらいですね」

私なりの犯人像を南部さんに告げた。


「うん。分かった。助かったよ」

南部さんはそう言うと、机の上の写真や資料を封筒に戻し、平塚さんに手渡した。

そして、席を立って、

「楓花ちゃん、今日はありがとう。随分適切なアドバイスありがとうね」

そう言って、平塚さんの腕を掴み、帰るぞといった感じで引っ張った。


「いえいえ、南部さん、本当は別なことを聞きたかったんですよね?」

私は南部さんが私の所に来た本来の目的を聞いた。

「あ、そうだった」

南部さんはそう言うと動きが止まった。

「でも、ごめんなさい。その写真を見ても母の事は思い出せませんでした」

素直に謝った。

「あ、そうか……それは残念だ。それよりもごめんね。私たちのほうこそこんな嫌なもの見せて」

南部さんは私に気を使ってくれた。

「いえいえ」

そう言って、南部さんと平塚さんを見送ろうと玄関までついて行った。

「それじゃ、楓花ちゃん。今日はありがとう」

そう言って玄関の扉を開く。

「お気を付けてお帰り下さい」

私は笑顔で対応した。

二人を見送ってから、食堂に戻り、コーヒーカップを流し台に持って行き洗った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る