24:家路と再度警察署
その後、私と父と美彩は警察署を後にした。
警察署を出た時には既に日が傾いていた。
美彩を送る為に警察署に留めてある父の車に向かう。
父の車は大王子さんの家に停めていたが、警察官がこちらまで持ってきてくれたみたいだった。
「楓花と仲良くしてくれてありがとうね」
「いいえ、こちらこそ楓花さんにはいつもお世話になりっぱなしで、今日もこうしてこの子の病院にも付き合ってもらっていたんですよ」
そう言ってゲージを顔付近まで持ち上げる。
そこには疲れてお休み中のふうたが丸まっていた。
「可愛いね」
「はい。『ふうた』って言うんです」
美彩は満面の笑みで父にふうたを紹介する。
「ふうたちゃん?」
「お父さん、名前の謂れは聞かないでね」
父は不思議そうに私の顔を見る。
「何故だい?」
「娘の名誉の為です」
私は笑いながら言って美彩の隣に立った。
「そうよね?美彩?」
「うん」
私と美彩は意味もなく笑った。
小さな秘密を共有しているかのように意外と心地良かった。
父が運転席に乗り込み、私と美彩は後部座席に乗り込んだ。
父の車で美彩の家に向かった。
この時間という事もあり、交通量は多い。仕事帰りや夕食の準備などで買い物をする人といった感じなのだろう。
運転席に座った父がルームミラー越しに美彩と話している。
学校で私がどのように過ごしているのかとか友達はいるのかとか、一番驚いたのが彼氏は居るのかだった。
もちろん彼氏なんて居ない。
それに仮にもし彼氏が居たとしても美彩が父に教える訳がない。
そんな二人の会話を耳にしながら私はふと今日の出来事を思い出していた。
大王子さんの家での父の行動。
あんな父の姿を初めて見た。
いつもあんなに優しい父が少し怖く見えてしまった。
そして父が呟いたあの言葉……
どこかで耳にしたはずだけど思い出せない。
父の教育論の中で聞いた言葉だろうか?
それともテレビで聞いた言葉だったのだろうか?
どれだけ考えても思い出せない。
思い出せないという事は大したことではないのだろうと私は勝手に決めつけ、それ以上考える事を放棄した。
窓の外にはあり得ないほどの豪邸が立っていた。
どこの貴族の屋敷?と思わせるほどの家だ。
車がゆっくりと停車する。
「楓花、今日はありがとうね」
隣に座っていた美彩が突然声を掛けてきた。
「あ、うん……」
曖昧な返事しか出来なかった私に笑みを浮かべて美彩は車から降りようとした。
「な!ちょ、ちょっと待って」
「うん?どうしたの?」
車の扉を少し開けた状態で美彩は振り向く。
「美彩の家ってここ?」
「え?うんそうよ。どうして?」
「ど、どれだけのお嬢様なのよ!」
「何言ってるの?別に凄い事でも何でもないわよ」
「いやいや凄いでしょ!」
「凄いのは両親であって私じゃないわ」
その言葉に私は声を失った。
そう言い切れる美彩は本当にかっこいいと思う。
そんな私の様子を優しい笑みを浮かべて
「楓花またね。今日は本当にありがとうね」
そう言って車から降りて扉を閉めた。
車から降りた美彩は運転席の父に丁寧にお辞儀をしている。
父は片手を上げて挨拶をすると車を走らせた。
振り返ると遠ざかる美彩の姿が見える。
ずっとお辞儀をしていた。
美彩のああいった礼儀正しいところは本当に素敵だと思う。
父もルームミラーで確認していたのかもしれない。
「素敵な子だね」
と私に言った。
父に言われると嬉しくなり
「うん。ふぅの自慢の親友だもん」
私は嬉しさのあまり自分の事を『ふぅ』と呼んでしまった。
ルームミラー越しに見える父は優しい笑顔を私に向けてくれていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、南部さんから連絡があった。
どうやら笹原麻耶さんと後藤恒和さんを任意で警察署に連行して事情聴取を行ったそうだ。
二人は完全に犯行を否認しているそうで、私に協力してほしいとのことだった。
はっきり言って私の協力など微々たるものでまったく役に立たないと思う。
しかし、二人が犯人かもなんて言ってしまった手前、断り切れずに結局、捜査協力として警察署に行くことになった。
その際に、南部さんから「もし不安なら、美彩ちゃんと同行してもらっても構わないよ」なんてことを言うから美彩を巻き込む形で一緒に来てもらうことにした。
「二人捕まったの?」
警察署に向かう途中で美彩に聞かれたので
「ううん。あくまでも任意同行だって」
「そうなんだ」
不安そうな顔を覗かせる美彩に
「美彩は二人が犯人だと思う?」
「うーん、よく分からないけど、楓花の言ったことはかなり的を獲ているとと思う」
美彩は無理に笑って見せる。
きっと美彩は少し怖いのだと思う。
殺人事件なんて私達みたいな女子高生には縁のない話だ。
たとえ美彩が警察官を目指していても、いきなり犯人と思われる人物と会うことになるとそれは不安になるだろう。
私も不安になるし……
「二人は犯行を否認してるの?」
「うん。そうみたい」
「それはそうだよね……」
「うん。だから協力してほしいだって」
「楓花大丈夫?」
美彩自身、不安で一杯のはずなのに私を気遣ってくれている。
「うん。美彩は?」
「楓花が居るから大丈夫」
美彩の笑顔が私の心を少し楽にしてくれた。
警察署に着くと受付に平塚さんが立っていた。
平塚さんに連れられて通されのがこの間の応接室みたいな会議室だった。
私と美彩は少し安堵した。
いきなり二人と対面するなんてことにならずに済んだからだ。
しかし、よくよく考えてみたら、そんなことはあり得ないとすぐに分かるものだ。
一般人である私達と容疑者と思われる人と対面させる警察なんて常識で考えて居ないと思う。
そんな危険な事をするはずなどないのだから。
では一体何の為に呼ばれたのか?
なんとなく想像は着いた。
おそらく二人の事情聴取の結果の検証だろう。
嘘をついていないか?不自然なところはないか?っと言った事を知りたいのであろう。
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