23:謎解き③

「では少し整理しよう」

 再び南部さんが言う。

 南部さんはホワイトボードに時系列に並べて書き出していった。

 1.近藤さんと笹原麻耶の出会い。

 2.エスクロ社の摘発。

 3.近藤さんと笹原麻耶さんの交際スタート。

 4.後藤と諏訪さんの交際スタート。

 5.大王子の虐待疑惑。

 6.後藤と諏訪さんが破局。

 7.大王子公太と近藤さんの出会い。

 8.大王子公太の殺害。

 9.近藤さんの殺害。

 10.諏訪さんのノートパソコン窃盗事件。

 11.大王子を公太殺人の容疑で逮捕。


「ざっとこんなものだが……他に何かあるか?」

 南部さんは周りを見渡し、発言が無いことを確認すると、マジックペンを置いた。

「では一つづつ検証したいと思うが、1~8は飛ばすぞ」

 南部さんの言葉に私を含む皆が頷く。

「9についてだが、死体の死亡推定を狂わせるための行為は何だと思う?」

 南部さんが私に尋ねる。


 通常死体の死亡推定を狂わす理由としてはアリバイ工作だ。

 しかし、アリバイ工作の必要性は無いと私は結論付けてしまっている。

 なぜなら、殺害動機がある人物は完璧なアリバイが存在するかだ。

 多少ずれたところで崩れせることの出来ないアリバイが。

 では何のためか……


「私の考えでは9と10は本質的には同じような理由だと思います」

「うん?同じような理由とは?」

「カモフラージュです」

「カモフラージュ?」

「はい。まず9ですが、笹原さんには完璧なアリバイがあります。ドライアイスなどで多少時間を死亡推定時刻を変えたところでなんのメリットもデメリットも無いと思います」

「確かに」

 南部さんは頷く。


「では警察はどうでしたか?死亡推定時刻が狂わされているという事に意識を持って行かれ、その前後のアリバイの無い人物にターゲットを絞って捜査したのではないですか?それはすなわち、初めから笹原さんを容疑者から外した状態で」

 そこまで言ってから

「まあ実のところ私もその様にミスリードされていましたから……」

 付け足して言った。

「なるほど。確かに楓花ちゃんの言う通りだ」

 南部さんはあっさりと認める。


「では10もカモフラージュという事かね?」

「はい。10については、二つの意味があると思います」

「二つの意味?」

 酒井さんは興味津々といった感じだった。

「千沙梨さんを殺害してしまったら、まず疑いが掛かるのは後藤さんです。だって恋人関係だったのですから、怨恨といった動機は十分すぎると思います。そして、後藤さんは近藤さんとも知り合いで、近藤さん殺害のアリバイは完璧とは言えない物です。二つの殺人事件の容疑者になる可能性が非常に高いです。それを避けるために、まずは脅し的な意味でノートパソコンを盗んだのではないでしょうか?」

「なるほど!なるほど!」

 酒井さんは感心したように首を縦に振る。


「ではもう一つの意味は?」

 今度は本多さんが聞いてきた。

「大王子さんに容疑が行くようにだと思います」

「大王子に?」

「はい。千沙梨さんは児童相談所の職員ですよ。その情報は大王子さんにとってはあまりよろしくない情報ですよね?だから警察の目を誤魔化す為の工作だったのではないでしょうか?」

「なるほど!納得したわ」


「あ、そう思うと私の考えはことごとく外れていたってことになりますね……ごめんなさい」

 私が考えていたことがことごとく違っていた。

 その間違った情報でどれだけ迷惑を掛けたかと思うと申し訳ない気持ちになる。

「いや、それは全然かまわない。何も情報が無いよりましだからね」

 酒井さんが言った言葉に南部さんも同意する。

「それで、後藤と笹原の繋がりは?」

 南部さんの質問に

「近藤さんの親しい友達と恋人ですよ。一緒に飲むくらいのことはあるんのではないですか?」

「確かに」

 誰もが納得した。

「これが、この二つの事件の私の考えです」

 私はそう言って話を終わらせた。


 一抹な不安がある。

 あまりにも綺麗だと感じた。

 綺麗というよりも偶然が見事に一致したように感じる。

 近藤さん殺害は、後藤さんだと思うが……後藤さん、笹原さん、千沙梨さん、そして大王子さん……関係なさそうに見えて繋がっている。

 千沙梨さん経由で後藤さんは大王子さんの情報を知ることも可能であろう。

 それを笹原さんに伝えて、容疑者に仕立て上げようとしたのかも知れない。

 そんな偶然があるのだろうか?

 それとも事件とはそのような物だろうか?


 千沙梨さんのノートパソコン窃盗についても、たまたま児童相談所の情報が入っていたから、皆は動機がその情報だとミスリードされた気がする。

 私もその一人だけど……

 果たして偶然だったのか……


 最後に、笹原さんと後藤さんの二人の犯行として、この二人は証拠を完全に残さず犯行に及んでいる。

 そんなことが二人に可能なのだろうか……

 私はこの二つの事件を立件するのは難しいと思った。

 証拠がまったくないからだ。

 仮に自供をしたとしても裁判で強制的に言わされたと言えば、判決も変わるかもしれない。

 それに、冤罪などというマスコミが食いつきそうなネタをほっておくことなど無いから、ますます真相が分からなくなる気がする。


 とにもかくにも当面は二つの事件の証拠を上げることが最優先事項になる。

 私の考えが正しければ、証拠の一つぐらいは出ると思うのだが……

 そんな考えに更けていると

「楓花?どうした?」

 父の問いかけに

「ううん。なんでもない」

 とだけ答えた。

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