25:二人の逮捕

 お茶が私たちの目の前に運ばれて二人でお茶を飲んで一息を入れる。

 目の前にはお菓子が置いてあったので手に取って食べた。

 市販されているクッキーだったが意外とお茶と合うなっと思い、もう一つ手に取って食べる。


 そんな私の行動を見て美彩がクスっと笑った。

 私は美彩にもクッキーを進めると手に取って食べる。

 美彩の家を見たからだろうか、美彩のクッキーの食べ方がとても上品に見えた。

「何?じっと見て」

 恥ずかしそうに言う美彩に

「ううん。流石はお嬢様だなって思って」

 笑顔で答えた。

「もう!からかわないで」

 少し膨れ気味の美彩はとても可愛く見える。

 相変わらず、ずるいなって思ってしまう。

 そんなやりとりをしていたら会議室の扉が開いた。


 南部さんが資料を持って入ってきた。

「二人ともごめんね。わざわざ来てもらって」

「いえ。私なんかまでお呼び頂きありがとうございます」

 美彩は立ち上がり南部さんにお辞儀をする。

「いやいや、来てくれて助かるよ」

 優しい笑顔が美彩に向けられた。


 私達の目の前の席に座り、資料をテーブルの上に並べた。

「こっちが二人の事情聴取をまとめた物で、こっちが二人の行動をそれぞれまとめた物。最後にこれが二人の電話やパソコンの記録をコピーした物になっている」

 南部さんはそれぞれの書類を指差して説明をした。


 要するにそれらの資料から何か導き出せという事なのだろう。

「この資料から何か分かることがあればいいのですね?」

 私は確認を取る。

「そうだね。お願い出来るかな?」

 南部さんは私と美彩を交互に見て言った。

「はい。わかりました」

 そう言って私はそれぞれの資料に目を通す。


 まず重点的に知りたいのは犯行の動機と犯行の手順が載っているかだが、もし載っているなら南部さん達が気付くであろう。

 すなわちあまり期待できないという事になる。


 次に確認したいのは二人の繋がりだ。

 犯行を行うにあたり二人が協力者なら連絡を取り合っていると思った。

 しかし、資料からは二人の繋がりを示すものなど何もなかった。

 パソコンのメールの記録や電話のメールや電話のやり取りなども見たが何も無かった。


 電話については『公衆電話』やお互いの会社の電話番号が着信に無いも確認したがやはり何もない。

 これだけ見ると私の考えはまたも間違っていたのではないかと思ってしまう。


 私は頭を振り天井を見上げる。

 何か見落としは無いかを再度確認するが、やはり何も無かった。


「何もありませんね……」

 自分でも驚くほどがっかりした声だった。

「そうか……楓花ちゃんでも見つけられないか……」

 南部さんの言葉に申し訳ない気持ちが一杯になる。

 またも私は間違えたのだから。


「ねぇ、このパソコンとか電話の記録って削除した可能性はありませんか?」

 美彩は少しでも私の助けにならないかと必死で考えてくれたのだと分かったが、おそらくそれは無いと思う。警察は既に復元までしているだろう。

「我々もその可能性を考えて復元した結果なんだよ……」

 南部さんが残念そうに言う。


 もう一つオンラインストレージという物の中に日記としてやりとりをした可能性も考えられるが、二人のパソコンの接続履歴からはそのようなサイトを開いた形跡もない。


 この資料は二人は完璧に白だと言っている。

 資料をテーブルの上に置き、お茶に手を伸ばす。

 二人の共通点と言えば、近藤さんだけだ。

 それ以外に何の共通点もない。

 お茶をテーブルの上に戻し、再び資料に目を通す。

 二人の行動をまとめた物だ。


 この行動とはどういったものなのだろうか?

「南部さん、この二人の行動をまとめた資料ってどうやって作成されたのですか?」

 二人の証言から作成したのであれば嘘の可能性が非常に高い。

「これは町に設置されているカメラや聞き込みで得た情報をまとめた物だよ」

 ……まったく見当違いだった。

 ため息がこぼれる。

 私はざっと二人の行動をまとめた資料を見る。

 共通点が無いかの確認であったが、見つかるはずもない。


 いや、一つだけ共通する言葉が書かれていた。

 しかしそれは大したことでは無いと読み飛ばそうとした時に、ふと何かが閃いた。

 私の思考が高速のように動き出す。

 そして一つの可能性にたどり着いた。


「南部さん」

 諦めモードの南部さんを呼ぶ。

「もしかして何か分かったのかい?」

 南部さんの目の色がみるみる変わっていく。

 それは何かを期待する目だった。

「二人の勤めている会社ですが、最寄りの駅は同じなのですね」

 資料を南部さんに見せながら駅の名前を指で示す。

「ああ、確かにそうだね。それが何かあるのかい?」

「この駅にコインロッカーってありますか?」

「コインロッカー?」

「はい。コインロッカーです」

「さあ調べてみないと分からないけど……」

「では、調べてください。私の考えが正しければ、コインロッカーの近くに鍵があると思います。人目に付かない場所で、かつ探していても周囲から怪しまれない場所だと思います。例えばコインロッカーの上とかです」


「えっと?どういうことだい?」

「うん?楓花どういうこと?」

 南部さんも美彩も不思議そうに尋ねる。

「このコインロッカーの中にノートのような物があり、そのノートに二人が書き込みをしているのではないかと考えました」

「え?」

「昔読んだ本に、お互い周囲に知られては駄目な恋人同士が、駅のコインロッカーに交換日記を置いていたのを思い出しました」

 南部さんも美彩も驚いた表情で私を見る。

「それでは、そのノートに犯行の事を書いていると思うのかい?」

「はい。交換殺人です。それぞれ詳細に詰めただろう記録が残っていると思います」


 南部さんは大きく頷き、ポケットからスマートフォンを取り出し電話を掛ける。

 そして、駅のコインロッカーを調べろを支持を出していた。

「もしそんな物が出てきたら決定的な証拠になる」

 電話を終えた南部さんが興奮気味に私に言う。

「そうですね。見つかれば良いのですが」

 少し恐縮気味に答えた。


 その後しばらく資料と睨めっこをしたが何も見つけることが出来なかった。

 そして、ノックもなく勢いよく会議室の扉が開いた。

 平塚さんが慌てた表情で南部さんに駆け寄る。

 何か話をしているようだ。

 南部さんが私達を見て

「お手柄だよ!ノートが見つかった」

「そうですか!良かったです。それでそのノートは?」

「今、鑑識に回している。筆跡鑑定と指紋採取の為に」

 手際が良いと思う。


「内容はどういった内容でしたか?」

 私が訊くと、平塚さんが手帳を開き、説明してくれた。

 説明した内容は、私が考えていた通りだった。


 近藤さんの殺害後の死体の死亡推定時刻を狂わす為の工作も実際に何の意味も無いと書いてある。ただ警察を混乱させるためのものだと。

 あと、千沙梨さんのノートパソコンについても、やはり後藤さんに疑いが向かないようにする配慮と、近藤さんから聞いていた『公太』の父親である大王子さんに罪を擦り付けるためのものだということだ。


 完璧と思われた犯行だったが、決定的な証拠を残ってしまったことが不思議で仕方がない。

 ノートの存在が無ければ、証拠不十分の可能性のほうが高い。

 それなのになぜこんな証拠を残したのか……

 考えられるのは一つ。

 まだ、終わっていなかったからだ。


 千沙梨さんを殺害して初めて終わりだったのだろう。

 そう思うと、今、見つけることが出来て本当に良かった。

 千沙梨さんが無事にいることが何よりも救いだと思う。

 南部さんと平塚さんは何度も何度も私達にお礼を言ってくれた。

 私達は恐縮気味に警察署を後にした。


 それからしばらくして、笹原麻耶さんと後藤恒和さんは逮捕された。

 こうして二つの事件は幕を閉ざした……はずだった。

 私はこれから知りたくもない真実を導くことになる。

 本当に知らないほうが良かったと思う真実。

 母の殺人事件の真実を……

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