第六章 手紙
26:差出人不明な手紙
二つの事件が解決して数ヶ月が経ったころ、私宛に一通の手紙が届いた。
差出人は不明。
薄い水色の便箋封筒で綺麗な字で『立花楓花様』と書かれている。
私は封を切って便箋を取り出す。
封筒と同じで薄い水色の便箋が一枚入っていた。
私は手紙を読み始める。
『最愛なる立花楓花様
僕は最近、いつも君の事を想っている。
君は僕を知らないかも知れない。
しかし、僕は君をずっと見ている。
君のくせ毛のようにはねた髪。
君の小さな顔。
小さな顔の中にある大きな瞳。
小さな唇。
君の小さな身体。
僕にとっては君は芸術そのものなんだ。
いつか君は僕の虜になるだろう。
その時は確実に近づいている。
楽しみだね。
それまでの間、僕の事を想って過ごすと良いよ。
僕は君の為に詩を作ったんだ。
一つ目の詩さ。
『いつも君の事を想っている
綿飴のような表情
白い肌は美しく
ロマンチックな気持ちにさせてくれる
二人でいることを夢見ている
海や山に一緒に行こう
風を感じて二人で踊ろう』
どうだろうか素敵な詩になったと思うだ。
気に入ってもらえたかな
それではまた手紙を書くよ』
……何これ?
若干気持ち悪い。
ラブレター?
ううん、そのような代物ではない気がする。
差出人は一体誰なんだろうか?
考えても検討も付かない。
美彩に相談したほうが良さそう。
そう思った私は美彩に連絡をした。
美彩はすぐに来てくれるとのことでしばらく家で待つことにした。
美彩が来る前にお菓子と紅茶の準備に取り掛かった。
しばらくすると美彩がやって来た。
美彩を食堂に招き入れ、紅茶とお菓子を用意する。
そして、問題の手紙を美彩に手渡した。
美彩は手紙を怪訝そうに読み、
「これ何?」
私と同じ思いに至ったように質問する。
「うーん……分からない」
苦笑いを浮かべながら答えると
「少し気持ち悪いよね……」
「うん……」
「楓花のストーカー?」
「何それ?そんなのいる訳ないじゃん!」
「そんなの分からないじゃない!楓花可愛いから!」
「いやいやないない」
私は美彩の意見を心より否定した。
私のストーカーになるぐらいなら美彩のストーカーになるだろう。
少なくとも私の事を見ているのなら、常に一緒にいる美彩も見ているはずだから。
そんなことを考えていたら、ふとある仮説が浮かんだ。
もしかして、美彩と私を間違えているのではないかという仮説。
それを美彩に言うべきか悩んだが、美彩を怖がらせることになるかも知れないと思い、口を噤んだ。
「そうかな……楓花は十分すぎるぐらい可愛いのに……私が男だったら絶対に好きになっているけどなぁ……」
美彩は私を見つめながら言った。
美彩の瞳が綺麗で吸い込まれそうになる。
私は首を横に振り、
「どっちにしろ心当たりが全くない訳だから、悪戯って線が濃厚な気がするね」
私は無理に笑顔を見せた。
本当は少し怖い。
おそらくストーカーって線が一番濃厚だと気付いていた。
本当に私のストーカーかどうかは謎だけど、私、もしくは美彩のストーカーってことが一番あり得る話だ。
「そうだと良いけど……もし悪戯だとしたら、一体何の為に?」
「……怖がらせて楽しむため?とか?」
「そうよね……」
美彩は考え込むように答える。
「そうだ!南部さんに相談したらどうかな?」
美彩は閃いたと言わんばかりに大きな声で言った。
南部さんか……
あれ以来、全く連絡が来ていない。
少し前までは、あの事件の事と母の事件の事で、望んでもいないのに連絡が頻繁に来ていたが……
美彩の言う通りに大人に相談することが一番賢明な気がする。
それに、父には相談したくはない。
余計な心配を掛けたくないから……
そう言う意味では、南部さんはうってつけだろう。
大人で刑事でもある。
「そうね。南部さんに相談してみるね」
南部さんに連絡を入れて、警察署にこの手紙を持って行くことになった。
美彩も当然同行してくれるという。
美彩と二人で警察署に向かった。
いつも通りに受付で南部さんを呼んでもらう。
「お待たせ」
南部さんが私たちの前に現れる。
そして会議室という応接室に通された。
「この間はありがとうね」
南部さんは深々と頭を下げる。
「いえ、別に大したことはしていませんので」
「いやいや、君たちのお陰で事件は解決したんだから、本当に感謝しているよ」
南部さんにそう言われると少し照れる。
「それで電話で言っていた手紙とやらは?」
私は手紙を南部さんに手渡した。
手紙を読み始める南部さんの表情が変わっていく。
「これ……ストーカー?」
「はい……おそらく……」
南部さんの問いに美彩が答えた。
「楓花ちゃん心当たりは?」
全くと言っていいほど心当たりなど無い。
「まったく無いです」
「うーん……少し危険な匂いがするね……」
南部さんは顔を顰めて言う。
「それで南部さん、犯人とか分かりますか?」
美彩の質問に
「いや、これだけだと何とも……指紋とか出るか鑑識に回すってことも出来なくもないけど……」
南部さんは申し訳なさそうに言葉を噤んだ。
今の段階で事件性が無いこの事案に鑑識に手紙を回すのはいくら何でも無理だろう……
「そうですよね」
私は冷静に言うと
「一応、見回りの強化を進言しておくが、楓花ちゃん達も十分気を付けて」
警察として今の段階で出来るのはこれぐらいだろうと私は思った。
「はい。分かりました。貴重な時間をありがとうございました」
私が言うと、美彩も同時に頭を下げた。
「あまり、協力できなくてごめんね」
南部さんは申し訳なさそうに答える。
「いえ、十分です」
「そうか、気を付けて帰るんだよ」
「はい」
そう言って私達は警察署を後にした。
「楓花大丈夫?」
警察署を出て家路に向かっている時に美彩が私を気遣ってくれた。
「うん。大丈夫だよ」
「それなら良いけど……けど一体なんだろうねこれ?」
「うーん……何か意味があるのかな?」
私は手紙を取り出し、内容を確認する。
隣で美彩が手紙を覗き込む。
この手紙は一体何を言いたいのか?
普通に考えればラブレターのようなものだ。
しかし差出人の無いラブレターほど気持ちの悪いものは無い。
そして最後の一文が気になる。
『それではまた手紙を書くよ』
この言葉は少なくともあと一通の手紙が来るという事になる。
「次の手紙が来れば何か分かるかも知れないね」
私は笑顔で美彩に言うと
「そ、そうかもだけど……少し怖いわ」
不安な表情で答える。
「でもこれだけだと判断出来ないから、次を待つわ」
尚も笑顔で答えると
「う、うん……でも、私も見るからね」
美彩はキリっとした顔つきになって私を見る。
「うん。ありがとう」
そう答えて私たちは家に帰った。
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