14:母について

 ごほんと咳ばらいをして南部さんが

「それで、楓花ちゃん」

「はい?」

「お母さんの事、何か思い出したり、気になった事とかあるかな?」

 直球な質問。


 はっきり言って全然思い出せないし、気になることなんて何もない。

「あ、ごめんさない……思い出せなくて……」

 素直に謝ると

「そうか、いいんだ」

 南部さんは笑みを浮かべて言った。

 笑みを浮かべていてもどこか残念そうな感じが伺える。


「お母さんの事?事故の?」

 私と南部さんの会話が気になったのだろう。

 美彩が首を傾げながら質問する。

 そう言えば、美彩には黙っていた。

 というよりも交通事故だと嘘をついていた。


 別に教える義務など無いが、美彩には嘘をつきたくないと思う気持ちが大きくなっていた。

「美彩、ごめんね」

「うん?」

「お母さんは交通事故で亡くなったって言っていたけど、あれ嘘なんだ……」

「え?そうなの?」

「うん……実は殺されたの」

「え?……殺された?……」

 美彩は言葉を詰まらせ、表情も青白く驚きに変わった。

「え?えっと?」

 混乱する美彩に

「大丈夫?」

 私が訊くと

「あ、えっと……え?私は大丈夫だけど……楓花は?」

「私?私は大丈夫だよ」

「そ、そうなんだ……」

 少し落ち着きを取り戻した、美彩は今度は何とも言えない表情で私を見る。

 その表情は決して同情のようなものではなく、心の底から私を心配しているといった感じだった。


「えっと、それでいつ頃なの?」

 美彩の質問に

「私が三歳の時」

「三歳?」

「うん」

「そんな小さい時に……」

 うっすらと涙を見せる美彩。

「うん。だからね、全然覚えてないの」

 私は美彩に微笑みながら言った。

「どうして?どうして?そんなに楓花は強いの?」

 既に美彩は泣き出している。

 美彩は感性が豊かなのだろう。

 驚きから心配、そして最後は涙を流してくれる。

 それが全部私の為に。


「お父さんが居たからかな」

 はっきりとした口調で答える。

「楓花」

 美彩は私に抱き着いた。

「よしよし」

 美彩の頭を撫でる。

「もう、それは私の役目だったのに」

 私を抱きしめながら美彩は言った。

「え?何それ?私は大人の女性よ」

 冗談ぽく答えた。

 そして二人で笑う。

 美彩の目には涙の跡がくっきりと残ったままで。


 黙って見ていた南部さんが咳ばらいをした。

「あ、申し訳ございません」

 美彩は私から離れて南部さんに謝罪した。

「あ、いや、いいんだ」

 南部さんは少し困った表情だった。

「そう言えば、南部さん」

 私は母の事件の事をあまり知らない。

 父から少し聞いた程度だった。


 一度、ちゃんと聞いておいたほうが良いと思い、南部さんに聞くことにした。

「どうしたんだい?」

「母の事件の事、実は私、あまり知らないです」

「そうか……」

「だから、教えてもらえますか?」

「え?今?ここで?」

「はい」

「でも、美彩ちゃんもいるし」

 南部さんは美彩を見て少し戸惑っている。

「美彩、一緒に聞いてくれる?」

「え?楓花はいいの?」

「うん。美彩に一緒に聞いてもらいたい」

「うん。分かったわ」

 美彩は承諾してくれた。

「そういことなら、少し話そう」

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