04:父との一息

 ハッと私は上半身を起こした。

そこは自室だった。どうやら夢を見ていたみたいだった。

なんだかよく分からないけど嫌な夢だった。

そのせいか、少し脈が速いし、汗も掻いている。


 私は窓の外に視線を向けると、空がうっすらと暗くなり始めている。

夕食を作らなきゃ。そう思い、私は台所に行った。

冷蔵庫の中身を確認する。

人参に玉ねぎ、それにジャガイモ、牛肉もあるし、今日はカレーにしよう。

私は材料を取り出して、調理を開始した。

調理中にさっき見た夢の事を思い出そうとしたが、既に先ほどの夢の内容を忘れていた。


 あらかた調理を終えて、後は煮込むだけとなった時、玄関が開く音が聞こえた。

父が帰ってきたみたいだった。

「ただいま」

そう言って、台所兼食堂の扉が開く。

「おかえりなさい」

私は帰ってきた父に笑顔で答えた。

「今日はカレー?」

父の言葉に、無言で笑みを返した。

父の表情が嬉しそうになっていくのが分かる。

「お父さん、着替えてきて、ご飯はもう少し煮込むから待ってね」

そう言うと私は、食堂の椅子に座りテレビを付けた。

父は了解という素振り見せて自分の部屋に入っていた。


 テレビに映し出されたのは、夕方のニュースだった。

花見シーズンの特集がやっていたが、それも直ぐに終わった。

そして、次に地元のテレビ局が映し出されて、地元のニュースが流れた。

どうやら、近所の町で強盗事件が発生しているみたいだった。


 私は思い出した。

今日、南部さんに会った時にそのような事を聞かれそうになったこと。

強盗事件は、主に家に忍び込んで、金目になる金品を盗んでいくみたいだった。

そして、そのうちの一軒に怪我人が出たそうだ。どうやら、強盗に入った犯人と住人が鉢合わせたみたいだった。

住人と犯人はもみ合いになり、犯人に強く突き飛ばされたようで、住人が怪我を負ったそうだった。幸いなことに命に別状もなく、軽傷に澄んだことが不幸中の幸いだったとニュースで報道していた。

それを見て、南部さんはこの事を聞きたかったのだろうと思った。

しかし、聞かれても困る。

おそらく、南部さんは私の実の母の事件との関連性を知りたがっていたのだろう。と思うが、私は覚えていないのだから、聞かれても答えようがない。

再三そう言ってきたのだけど、諦めが悪い。

それに、このような事件は他所でもたくさん起きているし、いちいち関連性を調べるなんて非効率的に感じる。


まあ、ただ、言えるのはこの小さな町の周辺にはそれほど事件など起きない。

それが起きた。しかも十三年前の事件も強盗殺人事件だったから関連性を調べたい気持ちも少なからず分かる。

だからと言っていちいち私に聞きに来なくても良いと思う。なんの役にも立たないのに。

そう思いながらニュースを眺めていた。

すると、父が着替えて食堂に入ってきた。

父はニュースを見る私とニュースの両方に視線を移動させる。

「楓花、大丈夫か?」

父が心配そうに尋ねる。

「何が?」

私はあっけらかんと答えた。

「いや、大丈夫ならいいだ」

そう答えると椅子に座った。


やがて、カレーも煮込み終わったようなのでお皿にご飯を盛って、カレーをその上からかけた。そしてあらかじめ作っておいたサラダを冷蔵庫から取り出し、食卓に並べた。

「いただきます」

私と父は同時に言うと、カレーを一口、口の中に入れた。

あれ?おかしい?

「楓花……少し甘くないか?」

父も感じたのだろう。

カレーが少し……いや、かなり甘い気がする。

私はハッと思い出した。

我が家のカレーは市販のカレーのルーで作るのだけど、そのルーは中辛と甘口を二対一の割合でブレンドして入れている。

しかし、今日は甘口と甘口を二対一の割合でブレンドした気がする。

というか、甘口と甘口をブレンドとか言っているけど、それは単に全て甘口で作ったことになる。

私は父に向けて、無理に笑顔を見せた。

「た、たまには甘いのも良いでしょ?文句あるなら食べない!」

父はとても優しい笑顔で二口目を惜しげもなく口に入れた。

「まあ、これはこれでありだね」

そう言って、パクパクと食べてくれた。

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