第三章 母殺害の事件を聞く

11:楓花と美彩 自宅にて

 翌日、学校が終わると美彩の家に向かった。

 美彩はふうたをゲージに入れて、二人と一匹で動物病院に向かう。

 動物病院はそれなりに混んでいて、一時間ぐらい待たされることとなった。


 受付で予防接種を受けるか聞かれたので、私が逆に訊き返した。

「『近藤ラール』で受けていませんか?」

「少し待ってください」

 受付の女性はパソコンを操作して調べている。

「あ、ありますね。『五種混合ワクチン』を先月に受けていますね」

 近藤さんは受けてくれていたみたいだった。

 美彩は予防接種は断り、健康診断だけお願いした。


 ふうたを眺めながら、順番を待った。

 ゲージの中のふうたは意外と大人しい。

 やがてふうたの順番が回ってきた。


 ふうたを連れて診察室の中に入る。

 体重、体温、触診、聴診。

 それらを調べてから、獣医さんは注射器を取り出した。


 注射器を背中辺りに差し込むと、ふうたはミャーと小さく鳴いた。

 全ての検査を終えて待合室で待つ。

 ふうたはこんな小さい体でよく頑張ったと思う。

 会計を済ませ、動物病院を後にする。

「結果は郵送だって」

 美彩は健康診断の結果が送られてくると私に告げた。

「血液検査とかあったもんね」

「うん。何もなければいいけど」

 心配性の美彩は不安な顔を覗かせる。

「大丈夫だと思うよ」

 私はそんな美彩に笑みを見せた。


 スマートフォンが鳴った。

 南部さんからの電話だ。

 私は美彩に視線を向けてから、電話に出た。

「楓花ちゃん。今から少しいいかな?」

「今、美彩と一緒なのですが……」

 南部さんに告げると、

「そうか。美彩ちゃんも一緒でも構わないが、どうする?」

「美彩も一緒でも良いんですか?」

「うん」

「美彩に訊いてみます」

 私は美彩に南部さんの事を話した。

 美彩は是非一緒にと言った。

「美彩は良いみたいなので、どこに行けばいいですか?」

「では、楓花ちゃんの家で良いかな?」

「分かりました」

 そう言って電話を切った。

 美彩と一緒にって……

 大丈夫なのかしら……

 少し不安だったが、南部さんが良いと言っているので良いのであろう。


 美彩を連れて家に帰ってきた。

 考えたら、友達を家に呼んだのは初めてだ。

 少し緊張する。

「へぇーこれが楓花の家なんだ」

「狭いでしょ?公務員宿舎なんだ」

 私が美彩に説明をすると

「楓花のお父さんって公務員なの?」

「うん。そうだよ。児童相談所の職員」

「へぇーそうなんだ」

 美彩はあまり関心がない様子だった。

 それはそうだろうと思う。

 いちいち友達の親の職業なんて気にしないから。

 少なくとも私はそうだ。


「何飲む?」

 私が訊くと

「なんでもいいよ」

 美彩は部屋を見渡しながら答えた。

 私は大好きな紅茶を美彩に出すことにした。

『ルフナ』と呼ばれる紅茶。

 私が好きなので、お父さんが通販で買ってくれている。

 ポットの水を沸かしてから、茶葉をセットし、ティーポットにお湯を入れる。

 ティーカップに淹れた紅茶の香りが部屋中に広がる。


 ミルクとティーカップを美彩の前に置いた。

 美彩はミルクを入れて、スプーンでかき混ぜる。

 紅茶に口をつけた。

「何これ?美味しい」

「でしょ?とっても濃厚でしょ?」

「うん」

「私のお気に入りなんだ」

「そうなんだ……ちょっと意外」

 意外そうに美彩は言った。

 どうして意外なのだろうか、なんて考えなくても分かる。

「私は大人の女性なんだよ」

 どうだって顔を見せた。

「うんうん。分かってる分かってる」

 分かっていないのだとすぐに分かる。

 二人で声を出して笑った。


 南部さんと平塚さんがやってきた。

 二人を食堂に案内した。

「なんか、いい香りがするね」

 食堂に入ってから、平塚さんは言った。

「紅茶の香りだと思います」

 実際、紅茶の香りが部屋中に広がっていた。

「へぇー意外。紅茶なんて飲むんだ」

 平塚が意外そうに言う。

 この人も私を子供だと思っている。

「楓花は大人の女性だそうですよ」

 美彩は笑みを浮かべながら平塚さんに説明した。

「楓花ちゃんが?」

 クスと笑いながらそう言った。

 本当に失礼な人。

 黙って聞いていた南部さんさえもくすっと笑った。


 私ってそんなに子供ぽいのだろうか?

 身長は確かに低いけど、胸だって……

 あ、胸はないからそれは置いておいても、普通に年相応に見られてもおかしくないと思う。

 逆に美彩が大人っぽいだけで、私はいたって普通なのだ。

 だけど、否定するのもなんだか負けた気がするのでここは大人しくしておこう。

「はいはい。どうせ私は子供ぽいですよ」

 皮肉たっぷりに言ってやった。

「そんなつもりではないよ」

 美彩がフォローしてくれるが、顔は笑っている。


 南部さんと平塚さんにコーヒーを出した。

 平塚さんは紅茶じゃないのって聞いてきたが、

 あれは高いから出したくない。

 まあお金払っているのは父なのだが。

 なんか勿体ない気がするし、さっきのこともあったから意地でも出してやるもんかって思った。

 こういう所が子供ぽい所だと気付いているのだけど……

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