第五章 二つの事件の謎解き
21:謎解き①
警察署にある小さな会議室。
南部さん、平塚さん、酒井さん、本多さん、そして美彩と父と私。
総勢七名が小さな会議室の中にいる。
皆が皆、私に視線を向けて私が話すのを待っている。
私は今から近藤さん殺人事件と千沙梨さんのノートパソコン窃盗事件の事を私なりに考えた結果をこの面々に話そうとしている。
「まず初めに、今から話すことは、あくまでも私の考えであって真実とは限りません!その辺りを考慮に入れて聞いてください」
私は皆に視線を送り、皆は黙って頷いた。
私は一呼吸を置いてから話し始めた。
「では、最初に近藤さん殺害事件についてお話しますね」
南部さん達の目の色が変わった。
それは大好きなおもちゃを与えて貰えるのではないかと言った子供の目に見える。
それほど期待されるほどの事を言うつもりが無かった私は少し申し訳ない気持ちになる。
「私が考える近藤さんを殺害した犯人は『笹原麻耶』さんだと思います」
私の発言に南部さんが驚く。
想定していなかったのであろう。
近藤さん殺害の動機があるのは大王子さんだけだから、その答えを待っていたに違いない。
しかし私の口から出た言葉は全く違う人物だった。
「あ、えっと、あれ?」
平塚さんが慌てた様子で自分の手帳をめくる。
「確か、近藤さんの恋人だった人物だね」
平塚さんの行動を横目で見ながら南部さんが答えた。
「はい。その通りです」
「でもどうして彼女が犯人だと思うだい?」
南部さんの疑問はもっともだと思う。
だって笹原さんに近藤さんを殺害する動機が見当たらないからだ。
「私なりに考えた事件のあらすじを順を追って説明しますね」
一同は黙って頷く。
「まず、笹原さんの証言に食い違いがあると思います」
「食い違いとは?」
「調書には『近藤さんとはどのように知り合いましたか?』の質問に対して『友達の結婚式で知り合いました』と答えています」
「うん。そうだね。それが食い違うのかい?」
「これを見てください」
私はスマートフォンで近藤さんの日記を表示させ、南部さんに見せた。
書かれていた内容は
『〇〇国のボランティア日記
この国に来て随分時間が経ったが、日本企業からの担当者が一向に姿を見せない。ここに水を引いて水田を作り、地元の人達に米作りのノウハウを伝授する。それがこのボランティアの目標なのだが……
企業の力が無いと水を引いたりと水田を作ったりといった大掛かりな事は出来ない。
うちの代表とエスクロコーポレーションという企業との間で話が決まったはずなんだが……
企業から派遣されたのは視察担当者の笹原と言う女性だけだ。
彼女はただ視察を命じられただけで、担当がいつ来るとか、どれぐらいの規模で開発するのかなど全くもって知らない様子だ』
南部さんはここまで読んで、私の顔をじっと見る。
「確かに証言と違うね……これはどうして?」
南部さんは期待の眼差しで私を見ていた。
「例えば、出会いを根掘り葉掘り聞かれるのが面倒だったってこともあるかもしれませんが、笹原さんにはあまり知られたくない情報だったのではないでしょうか?」
「うん?どういう意味だい?」
「この笹原さんが派遣された企業ですが、これって詐欺会社ですよ」
「え?何?」
南部さんは驚く。
ボランティアを掲げ、地元の有力者と癒着する。それを組織だってする会社で某国からの調査依頼を元に捜査第二課が動いた。
そして、一人の幹部を捕まえた事をきっかけに芋づる式で瞬く間に逮捕され、組織としての体裁を保てなくなったエスクロ社は事実上倒産といった形になった。
笹原麻耶と言う人物はその会社に勤めていたという。
笹原さんが逮捕されていない理由ははっきり言って分からない。
本人は悪事に加担することも気付きもしなかったからか……
それとも会社に勤めていた経歴が存在しないのか……
どちらにしろ、笹原さんにとっては黒歴史と言って良いことなのだろう。
だから知られたくなくて嘘の証言をした。
「すぐに確認を取れ!」
南部さんは平塚さんに叫ぶ。
「それでは、楓花ちゃんは笹原麻耶が近藤さんを殺害した犯人だと思っているだね?」
「はい」
南部さんに聞かれて素直に答えた。
「しかし、笹原麻耶には事件当時に完璧なアリバイがあるよ」
南部さんは手帳を見ながらそう言うと、ハッとした態度を取る。
「まさか、アリバイ工作?」
驚く表情を見せた。
「いえ、それは無いと思います」
「え?え?」
「アリバイ工作では無くて、実際に殺害していないと思います」
「え?え?」
この場にいる全員が困惑な表情を浮かべる。
「どういうこと?」
酒井さんが言う。
「楓花ちゃんはさっき笹原麻耶が殺害したとはっきり言ったよね?」
今度は南部さん。
「それなのに殺害していない?」
次は美彩だった。
「ごめんなさい……良く分からないわ」
最後に本多さん。
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