Act.0019:だから、私は信じる……
「――というわけよ」
【東埜 いちず】は、このチーム【ジェネシス】の代表として知り得た情報を仲間に伝え終えた。
聞き終わったメンバーは、呆気にとられる者、頭を抱える者、そして目を瞑って黙する者とさまざまな反応を見せている。
それは当然だろう。
なにしろ話が国家間戦争、さらに世界破滅の危機みたいな、想像もつかない内容だったのだ。
【ジェネシス】は、もともとはただの
いちずに拾われた
ところが、それが禍した。
高性能の
とりあえず、その戦い【四阿の月蝕】で
しかし、街に留まれば迷惑をかけると判断した
その際、
全長、約150メートルで世界最大の帆船をゆうに上回る巨大さ。
これを住まいとしてジェネシスのメンバーは、旅を始めたのである。
「時間がないので、すでに移動を始めているが、関わるのが嫌ならば船をおりてもいいと。その際は、
巨人が前に足を伸ばしたような形のこのヘハイム・バーシスは、魔力による浮遊能力で移動をすでに開始していた。
その速度は遠くから見たら緩慢に見えるが、それは巨体ゆえである。
今も時速80キロメートルと、そこそこの速度で走っていた。
ただ、巨体故に通れる場所がなかなかない。
速度も抑え抑えで行くしかない。
また、連続走行時間は6時間程度。
速度を出せば、それだけ消費魔力も増えるため、走行時間も短くなってしまう。
「というわけで、船をおりる者……なんているわけがないか」
いちずが苦笑すると、茶色い髪で作った団子でうなずき、双葉も同意する。
「そうそう。ご主人様に捧げた命! ここで逃げるわけがない!」
丸顔の彼女が愛らしく笑うと、横にいたミカが金髪のポニーテールを揺らしながら何度も深くうなずいて見せる。
「うむ。よくぞ言った、双葉。主君を見捨てて行くなど、剣士として一生の恥。しかも本件、正義は主殿にあると見た。命を賭ける価値がある戦場であろう」
彼女の褐色の肌が、興奮で少しだけ紅潮している。
「しかし、クエも抜けているね。マスターを落としていくなんて、想定外ね」
見た目がもっとも若い銀髪のフォーが、呆れたように大きなため息をつく。
「クエには、ヤンとウェイウェイもついてたはず。そろいもそろって気がつかないとは、本当に想定外ね」
まだ10歳前後にしか見えない少女は、しかしメンバーの中で一番威厳を見せる。
「まあ、そう言ってやるなよ、フォー。3人とも落ちこんでいたし、いなくなったとわかって、必死になって探していたらしいんだから」
かばういちずに、フォーはまたため息をもらす。
「まあ、そうね。だいたい、馬車から落ちたマスターが一番悪いね。想定外ね。しかも、その後にお姫様を助けて、世界存続の危機に巻きこまれるとか、どこの物語の主人公か。想定外もいいかげんにするね」
「まったくだ」
いちずが笑いをこぼすと、他のメンバーもみんなでクスクスと笑いだす。
それは全員が心のどこかで、「
全員、彼と一緒にいてだんだんと気がついてきたのだ。
彼は、普通と違う。
きっと、
そして、この世界を激動させる。
たぶん、それを一番最初に強く感じたのは、いちずだっただろう。
――おまえは完全に火種だ。おまえは確実に、この世界を面白くする!
いちずは、ふと【四阿の月蝕】で倒した
彼は悪い意味で
しかし、いちずはそうは思っていない。
いや、そうではないと信じている。
だが、それは火種としてではない。
喩えるなら、「太陽」だ。
(だから、私は信じる……)
いちずは、他の3人の顔を見まわす。
これだけむちゃくちゃなことに巻きこまれているというのに、どの顔にも不安が感じられない。
それはきっと、【四阿の月蝕】での
彼ならきっとなんとかしてしまう、そう感じさせる彼の行動力。
そして
もちろん、今ごろ合流地点に向かっている途中であろうクエも、
とくに彼女は、もともと
だから、
(まあ、それでも今回のことは、クエさんにとっても予想外だろうけど……)
実際、
なにがどうしてそうなったと、彼女はしばらく言葉を失っていたぐらいだ。
「それでいちず、我々も戦いにでる可能性があるのか?」
ミカの問いに、いちずは長い黒髪を後ろに流しながら答える。
「うん。場合によってはあるかもしれないと。もちろん、今度は
「拙子は問題ないが、いちずに双葉……お主らは大丈夫なのか?」
「…………」
いちずは、つい黙してしまう。
横では双葉も、珍しくまん丸の目を瞑っている。
本当の戦い、それはすなわち人を殺す可能性があるということだ。
この世界でそれは珍しい行為ではないにしろ、そこに一線が引かれていることはまちがいない。
それを越えてしまえば、きっと自分の世界も変わってしまう。
「私は問題ないね。戦いの経験はある。想定内ね。でも、2人は辛いならやめてもいいと思うね。たぶん
フォーに言われた2人は、互いに目を合わせた。
そして一拍おいてから、2人は同時にうなずく。
「いや、大丈夫だ。それに父の敵たる
「あたしも! ご主人様とつきあっていくなら、これからもきっとあることだからね」
その2人の決意に、今度はミカとフォーが目を合わせて微笑する。
「まあ、結局はこうなるな」
「想定内ね」
「ところで、フォー。お主は、特殊任務の命がきているようだが、『こっそりと見つける』とはどういうことなのだろうな?」
ほっそりとした顎に手を当て首を傾げるミカに、フォーは「推測だけど」と前置きしてから話しだす。
「『こっそり』ということは、誰にも見つからずにということね。つまり隠れて様子をうかがえと言うこと。マスターは、たぶん自分が釣り餌になるつもりね。……まったく想定外ね」
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