Act.0012:――そ、それでも男ですか!

 この辺りの街並みは、ほとんどが石造り。ブロックが積み重ねられた低い建物が連なっていた。

 世代セダイとアニムは、訪ね歩きながら町に1つだけの宿を見つけ、部屋をとった。

 幸いにも部屋は空いていたが、ベッドが2つある部屋を1部屋である。

 1人部屋を2つとるよりも、そちらの方が安かったのだ。

 兄妹で旅をしているのに高くつく別部屋をとるのも不自然だし、予算に余裕があるわけではない。

 だから仕方がないと、世代セダイはアニムを説得した。

 もちろんアニムと2人きりで泊まったからと言って、世代セダイは彼女になにかするつもりはない。

 そんなことで寝不足になるぐらいなら、徹夜で魔生機甲レムロイドについて語り明かす方が興奮できる。

 それにつきあってくれるなら、喜んで寝不足になろう。

 そう熱弁したら、アニムは別の意味で警戒しながらも納得してくれた。


 幸いにして、宿には小さいながらも男女共用の風呂も備わっていた。

 2人は順番に風呂を終わらし、さっぱりとしたあと、そろって食事に行くことにした。

 食堂は、町に2件。

 1件は中華料理店のようで、もう一方はラーメンの店のようだった。

 ところがアニムは、ラーメンは熱くて苦手、辛いのも嫌いだと言う。

 とりあえず辛くないメニューもあるだろうと、中華料理店に行ってチャーハンとか餃子のような当たり障りのないものを注文してみた。

 店はテーブル席が8つぐらいある店。

 世代セダイたちの他にも、3組の客が席に着いていた。


(うん……普通……)


 食べたチャーハンは、世代セダイが知っている味とあまり変わらない。

 というか、異世界に来てこちらの食べ物をいろいろと食べているが、ベースが元の世界と同じため、なんら違和感を感じたことがない。

 初めて食べる食事にとまどったり、トイレに困ったりみたいなシチュエーションは、世代セダイが読んでいた異世界ファンタジーラノベでよくでていたネタだ。

 しかし、ここではそんなことなどない。

 言語も日本語に統一されていることもあり、世代セダイにしてみれば本当に暮らしやすい異世界だ。

 これほどご都合主義な異世界もなかなかないのではないだろうか。


(このゲーム設定を考えた奴、ぜったい手抜きしただろう。元の日本と同じなんて……あれ?)


 食事中、そんなことを考えていたら、ふと疑問がわきでた。


(この世界はベースがボクたちの世界なんだよな……じゃあ、この子は?)


 目の前でフードを深くかぶったまま、チャーハンを口に運ぶアニムを見る。

 モグモグと口を動かし、たまにまるでωオメガのような猫口を作って嬉しそうに食べている。

 その瞳は、よく見ると濃緑色。そして黒眼にあたる部分はわずかだが細長く、まさに猫を思わす容姿をしている。

 なによりフードの下には、フサフサとした猫耳があり、お尻にはフサフサとした尻尾まである。

 紛うことなき、猫娘だ。


 しかし、それはおかしい。

 なぜなら、元の世界には、そんな種族は実在しない。

 夢をもって語れば「妖怪・猫娘」ならいたかもしれないが、種族としてこんなに堂々と住んでいたということはないはずだ。


(いや待てよ。よく考えたら、この世界には魔物もいるよな……)


 世代セダイは見たことがなかったが、この世界には魔物がたまに現れるらしい。

 伝承に出てくるようなドラゴンや、キメラ的な謎の魔物も存在するという。

 そもそも魔生機甲レムロイドも、ゴーレムという魔物を作る技術の産物である。

 だが、「日本」には当然、そんなものはなかった。


(……なら……)


 それはどうして生まれたのだろうか。

 それはどうしてここにいるのだろうか。

 それはいったいどこから来たのだろうか。

 それは目の前の猫娘に尋ねたら教えてくれるのだろうか。


(でも、なんて聞けばいいんだ?)


 世代セダイはここがゲームの世界だと推測しているが、この世界の人たちはそんなことを思ってもいないはずだ。

 だとすれば、聞き方には気をつけないといけないことになる。

 別に進んでこの世界の人々を傷つけたいわけではない。


(うーん、難しいな。……面倒だし、いいか別に)


 よく考えてみたら、魔生機甲レムロイドというロボットを楽しむのには知らなくても問題ないことに思えた。

 それなら、面倒なことは考えなくていいだろう。

 大いなる時間の無駄である。

 それに世代セダイには今、それよりも気になることがあった。


「ところでさ、タマ。巻きこまれついでに教えて欲しいんだけど、君はなんで逃げて、どこに行こうとして、なにをしようとしているの?」


「……へ?」


 世代セダイの質問に、アニムは餃子を半分咥えたまま動きをとめる。

 目をパチクリとひとしきり。

 無言のまま、まっすぐと世代セダイの様子を見つつ、吸いこむように餃子を口に収め、モギュモギュと噛みくだくと喉の奥に送りこんだ。

 そして一息吐いてから、おもむろに口を開く。


「驚きました。一応、気にしていたのですね……」


「いや、まあ、究極的にはどうでもいいけど。ただ、しばらくは一緒に行動するから、リスクレベルぐらいは知っておきたいと」


「わたくしの正体は……もうわかっていますよね?」


 アニムがひときわ小声で話すので、世代セダイもボリュームを下げる。


「まあ、なんとなく。えーっと【ぷよぷよ2国】の王女様?」


「どこの国ですかニャ!」


 アニムが立ちあがって大声で突っこんだ。

 しかも、口調がいつものに戻っている。


 呆れながらも世代セダイがジェスチャーで座るように指示すると、アニムはバツが悪そうに慌てて座った。

 周囲から注目を浴びてしまったが、2人で愛想笑いして誤魔化してみる。


「ま、まったく! ジェネのせいで、注目を浴びてしまったではないですか」


「いや、まちがいなく君のせいだよね……」


「あなたが変なまちがいをするからです。わたくしは、【プサ・ハヨップ・タオ聖国】の王女【アニム・アングリーナ】です。本来なら、あなたが簡単に話すことなどできない立場にいる高貴な者なのですよ」


「話すことができない立場ね……」


「そうです」


「……タマは魔生機甲レムロイドを作れる?」


「え? ……つ、作れませんけど?」


「なら、魔生機甲レムロイドの操縦は、あの三大衛士並みに上手い?」


「いえ、さすがにそこまででは……」


「なら、魔生機甲レムロイドについて一晩中熱く語れる?」


「無理!」


「うん。なら、確かに話す価値なしの立場だ」


「――判断基準がそれですかニャ!? ってか、価値なしって酷いですニャ!?」


 今度は小声のままだったが、口癖が出てしまっている。

 興奮すると抑えられなくなるらしい。

 そのことに自分でも気がついたのか、アニムは誤魔化すように咳払いをしてから続きを話す。


「と、ともかく。これは国家の一大事に関わる話なのです」


 アニムの眼がすっと横長になり、世代セダイに向けられた。

 その視線は、獲物を狙う肉食獣のようだ。

 思わず世代セダイも見つめ返す。


「だから、事情を聞いたら……あなたはもう戻れなくなりますよ?」


「…………」


「どうです? 命をかけて話を聞くは覚悟ありますか?」


「……ない」


「へ?」


「死にたくないし、面倒そうなので、やっぱり話を聞くのはやめとくよ」


「――そ、それでも男ですか! 少しは話を聞いてくださいよ!」


「ええぇ~……」


「どうしてそんなに心底嫌そうな顔をできるんですか!?」


 本当に面倒だなと思う世代セダイであった。

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