Act.0004:きっとベリーイージーですよ
「ディヨス……聞いたことない
聖国近衛隊の三大衛士が1人が操るディヨスが着地した方を見ながら、
だからアニムは、その不敵さをとがめるように「当たり前ですニャ」と返す。
「パイロットのヒンディは、聖国随一の剣士! その力は、
「でしょうね」
「……え? わかるのですかニャ?」
アニムとしては、「ヒンディはすごいパイロットなのだ」と半分驚かすようなつもりで言ったのだ。
それなのに
「そりゃあ、わかりますよ。これだけ足の長い木々が密集して並ぶ森の中に、ジャンプして着地することが、どれだけ危険だかわかりますか? 先ほどの下手なパイロットたちは、
「あっ……」
「それなのに彼は、木々の切れ目にうまく着地して見せた。木を倒していましたが、さほど本数は倒れていない。たぶんブレーキ代わりに何本か犠牲にしたぐらいでしょう。それはかなりのテクニックだ。……ああ。そういえばボクが、
「んニャ? ゲーム? というか、あなたもパイロットなんですかニャ?」
「いや、まあ、そんなことよりどうします? こっちに向かってきてますよ」
そう言われてアニムは、はたと思いだす。
「早く逃げますニャ!」
「いや、無理ですよ」
踏み出そうとした瞬間、
「なんでですかニャ!? さっきも……」
「だって、あのパイロットは、もうあなたを見つけているし」
「な、なんでそんなことがわかりますかニャ!?」
「あなた、ボクに『あの
「声真似……似てませんけど、言いましたですニャ……」
「それで思い起こしてみたんです。確かに追っ手の
「…………」
そこまで考えていたのかと、アニムは慮外な
確かに
「それにあのディヨスは、さっきの追っ手の仲間なのでしょう?」
「ええ、そうですニャ」
「なら、ディヨスもあなたを殺さないようにするでしょ。しかし、あの機体は木々のせいで足下も見えない、もしかしたら
「……あっ!」
そこまで言われれば、さすがのアニムも気がつく。
「そう。あのパイロットはあなたの位置をだいたいつかんでいた。だから、足下の見えない森に飛びこんでこられたんでしょうね。そう言えば、フォーが言っていたな。大きな魔力を使うと、しばらく魔力が体に滞留すると。でも、それを感知するには、魔力感知に優れていなければならないらしいけど。……となるとたぶん、ディヨスのパイロットは魔力感知に優れている……いや、それだけじゃないかな。あのディヨス、もしかして魔力感知の支援機能があるのかな」
アニムは呆気にとられたように、口をぽっかりと開けっぱなしにしてしまう。
否応なしに感心せずにはいられない。
フォーというのが誰なのかわからなかったが、ともかく
彼はたった一度、上空を通り過ぎた
そして、今から逃げても逃げられないという予測までもして見せたわけである。
「そろそろ……かな?」
ディヨスの近づいてくる方を見ながら
ディヨスの足音が止まる。
「次にディヨスのパイロットがやることと言えば……警告」
「警告?」
意味がわからずアニムは眉を顰めるが、その疑問はすぐに解ける。
なにしろ森全体に響くのではないかという雄々しき声が聞こえてきたのだ。
「姫! そこに隠れていることはわかっております!」
その声はまちがいなく、アニムが聞き慣れたディヨスのパイロットであるヒンディのものだ。
少し若い男性にしてはわずかに高い声は、それだけによく響いた。
「どのような策で我が部下を捕らえたのかわかりませぬが、その手腕はお見事。ただし、おわかりでしょうが、わたくしには小手先の作戦など通用しませぬぞ!」
その脅迫じみた宣言に、
「転ばせるのも逃げるのも無理。だから、この場でとれる選択肢は2つ」
まるで先ほどから予言者のように語る
「ひとつは、このままおとなしく捕まる。これは簡単ですね。難易度は、ベリーイージーです」
アニムはコクリとうなずく。
当たり前だ。それが一番、安全な方法であり、簡単である。
あきらめることができるならば……。
「なら、もうひとつは……なんですかニャ?」
だが、あきらめることはできない。
自分があきらめれば、国が滅んでしまう。
自分の命よりも大切なものが、アニムにはあるのだ。
「もうひとつは、これを使います」
そう言うと彼は、唯一の荷物である鞄から分厚い1冊の本を出した。
それはアニムが持っている、ずっしりと重い4冊と似ている本。
すなわち――
「ビ……
「持っていたのですニャ!」
「どうして、あなたまで『ニャ』言ってますのニャ!? ……ああ、違いますニャ。そんなことより、それを持っていたニャら、どうして最初から使わなかったですのニャ!?」
「え? だから言ったじゃないですか。生身で
「あれ、本気だったのですニャ!?」
「そうですニャ!」
「真似しないでくださいニャ!」
「それにボクには魔力がないので、
「あっ! そういえば……って、ならば、なぜ持っているのですニャ!?」
「ボクのだからです」
「ニャ……そういうことではニャく……使えないのでしたら意味が――」
「使えますよ。たとえば、あなたなら
「――!!」
アニムはそこまで言われて、やっと
「わたくしに、これで戦えというのですかニャ? それは無理ですニャ。わたくしの技術では、ヒンディに勝つことニャど……」
「いえ。あなたは
「……え?」
「この
「複座……そんな
いったいこの短時間で、アニムはこの男の子に何度、驚かされるのだろうか。
だが、呆気に取られている暇はない。
「姫! すぐに私の前においでください。なるべく乱暴な手段は取りたくございません!」
さらなる警告が、耳をつんざくように聞こえる。
相手のいら立ちが伝わってくるようだ。
もう別の手段を考えている暇はない。
逃げるか、戦うか。
答えは1つしかない。
「彼は……ヒンディは強いですニャ」
その言葉に
いや。彼はわかっていないのだ、三大衛士の強さというものを。
確かに、前の4人は
あれを見れば、三大衛士も大したことないと思われても仕方がない。
しかし、三大衛士の強さは本物だ。
なにしろ、1人で日本王国の国務隊の1小隊を相手にできるほどである。
もちろん、アニムに希望が全くないわけではない。
自分が一緒に乗っているとなれば、相手も少しは攻撃しにくくなることだろう。
しかし一般のパイロットと三大衛士との技術差は、その程度で埋められるほど甘くはないのだ。
「負ければ……あなたはたぶん殺されますニャ。あなたは……そう、通りすがりの迷子。なぜそこまでして、助けてくれるのですニャ?」
「助ける……というのは結果かな。ボクは本当はね、誰かのためとか、正義のためとか、そういうことで
「えっ!? ならば……」
「もちろん、自分のためだよ。実は最近、強い相手に飢えていてね」
「……はいっ?」
「端的に言えば、ボクは
「好きって……。わかっているのかニャ? 戦えば、人が死ぬかもしれないニャ。戦争が起こるかもしれないニャ」
「それは、もうさんざん考えた結果、割りきった。
そう言って笑う
寒気が全身を覆う。
それは、すでに狂気だ。
自分の好きなもののために、相手が、そして自分が死ぬことを大した感情も見せずに「仕方ない」と言ってのける。
彼は本当に
だが、その狂気は今、彼女に必要なものかもしれない。
彼女もまた、狂った賭けに乗るしかないのだ。
「……この戦い、難易度はベリーハードですニャ」
鏡が目の前にあれば、きっとアニムは見たことのない自分の表情を見られただろう。
目頭も目尻も口角も、激しく痙攣するように引きつりきった笑い。
いや、嗤い。
それは嘲り。
だが、返ってきたのは、無邪気なまでの笑顔だった。
「まさか! この戦いの難易度は、きっとベリーイージーですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます