Act.0017:本当に、お主はなにをしてるんだ!?
この世界にある電話のようなシステムで、「伝話」という法術がある。
魔力には意思をのせることができ、
伝話は、それを人間同士でおこなう魔法だ。
ただし、心と心を直接つなげる(念話)方式はあまり使われない。
念話方式では、気をつけないと相手に知られたくない自分の心までも、もれてしまう。
だから普通は「伝話器」や「伝話帳」というアイテムを介し、音声に変化させて会話する。
ただ、伝話器などの魔法のアイテムは非常に高価で、一般家庭に設置されることは少ない。
そのため普通は町の中に、「伝話屋」というのがあり伝話器をその場で使わせてくれる。
当然、伝話をつなげるには、やはり魔力が必要だ。
魔力がない
「悪いね、つきあってもらって」
立ってならば、2人が入っていられる個室。
ちょうど面積的には、ゲームセンターに設置されていたB.M.R.S.筐体のコックピットぐらいあった。
それは伝話器が設置された貸出スペースだ。
木製の壁の中には、なにか入っているらしくある程度の防音性が確保されている。
「それはいいですニャ。でも、ジェネは連絡先がわからなかったんじゃないのですかニャ?」
そのような音漏れ対策で機密性が高い場所にいるためか、アニムはいつもの口調に戻っていた。
あまり油断をしない方がいいのだが、息抜きも必要だと思い、世代はそのことに触れず質問に答える。
「実は昨日、思いだしたんだけどさ。1つだけ伝話の接続先、知っていたんだよね。そこから伝言を頼めばいいかなと」
伝話器で連絡するには、相手の電話番号にあたる魔力波紋が必要だった。
魔力の扱いに長けている者は、その魔力波紋を覚えて再現することで伝話ができる。
要するに電話番号を暗記できるというわけだ。
それに対して暗記できない場合は、魔力波紋が記録されたアイテムが必要になる。
当然ながら魔力波紋など扱えない
「悪いけど、ここにつなげて」
そう言って
受けとったアニムは、見る見る間に目を丸くする。
「長門……大門……って、これ、
「うん、そうね」
「うん、そうね……じゃないニャ! なんでジェネがこんなすごい人と知り合いなのかニャ!?」
「まあ、いろいろとあって友達になった。多分、協力してくれると思うから事情を話そうかと。いいかな?」
「友達って……まあ、いいニャ。確かに名工ならば、日本王国からも我が国からも力が及びにくい。……とにかくつなぐニャ。
「よろしく」
アニムは正面にあったガラスのような板に片手を当てた。
その板の後ろには、幾何学模様のように組まれた金属や構成の板が並んでいる。
それがなにかはよくわからないが、呪文のように術を形成するための物だということは
それでも法術の道具を使えない
だから、黙ってアニムの様子を観察する。
「……ジェネ、繋がるニャ」
アニムが触れていた板に、波紋の模様が広がっていく。
あたかも、水面へ投石したかのようだ。
『おお、
板の向こう側から声が響いた。
それは
「こんにちは。長門も元気そうでなにより」
馴れ馴れしい口調に驚いたのか、横でアニムが口を半開けにしている。
だが、
「いてくれてよかったよ。困ったことがあって」
『困ったこと? お主は
「ああ、そうか。雪車町博士か。名前、忘れていた。覚えにくいよね、その名前」
『あのなぁ……。どこにいるんだ?』
「えーっと、ぷよぷよ――」
「――プサ・ハヨップ・タオ聖国!」
すかさず、アニムからツッコミがはいる。
「ああ、それだ。そのなんとか聖国の外れにあるナタオとかいう小さな町」
『聖国だと!? ルートから外れてるではないか。というか今のは誰なのだ?』
「えーっと、ルートから外れたのは、寝ていたら馬車から落ちて迷子になったから」
『な……なにしてんだ、お主は……』
「それから今の声は、聖国の姫のアニム」
『……ふぁっ!? 聖国の姫!?』
「は、初めまして、偉大なる名工、長門様。プサ・ハヨップ・タオ聖国・第一王女・アニム・アングリーナでございます」
『おお、これは姫。伝話ごしで失礼いたします。
「うん」
『本当に、お主はなにをしてるんだ!?』
「えーっと、逃避行?」
『はあっ!?』
「それで、なんかこのままだと、日本王国と聖国の戦争に巻きこまれるというか」
『戦争じゃと!?』
「さらに運が悪いと、魔獣が異世界から攻めてきて、この世界の危機になるかもしれない。そんなことに巻きこまれている状態」
『……いや、もう、待ってくれ。頼むから待ってくれ。すまんが、わしの老いた頭では状況についていけん。本当に頼むから順番に話してくれ』
「面倒だから、今ので察してくれると嬉しいんだけど……」
『無茶言うでない!』
仕方なく
話すたびに、長門から感嘆や驚愕の声が上がるが、
ただし、聖国と王国が異国からの侵略者であることに関してはぼかしておいた。
『異世界からの魔獣か……。わしもそのような話は聞いたことがある。
一通り話を聞いた長門が低く唸りながら尋ねてきた。
「現物は見たことないけど、本では読んだよ。【セブンス・サーマドア】とかいう
『そうだ。魔獣の魂というのがあるなら、それを持つ魔獣がいるのは当然だ。だから、それがこの世界を襲うという可能性は、我々の中でも考えられてはいたのだが……。それが現実になるのか』
「いや、なったらまずいでしょ。止めないと」
『そう……だな。しかし、如月に
オネエが如月で、その横にいた美形が六月だと、
なるほど。大幹部となれば、あのなんとも言えない雰囲気も納得がいく。
『それでどうするのだ?』
「うん。悪いんだけど、いちずさんたちに連絡を取って欲しい。そして現状の説明をしてもらいたいんだ」
『ふむ。それで?』
「ボクたちは、これからプサラに言って聖国王の弟に会う。フォーにそのボクたちを
『こっそり? なんじゃ、それは』
「うん。たぶん、フォーなら頭がいいから、それだけでわかってくれると思う。あと我が家を……【ヘハイム・バーシス】を国境の北に向かわせて欲しい」
『北? 聖国は半島で、地形的に北西の方がおまえたちと近いのでは……』
「いや、北西で開戦されない気がする。プサラがあるからね。ドンパチはじめるなら、まずは北だと思う」
『? ……よくわからんが、まあよい。連絡はどうする?』
「法術戦用のフォーの
『ふむ……。それでなんとかできるのかね? わしが他にできることは?』
「今のところは連絡係でいいよ。たぶん、あまり深く関わるとヤバイと思うから」
『子供が大人に変な気を使うな』
「子供だから自由なことってあるでしょ。それに長門の地位は
『……やれやれ。お主はわしより、よほど策士かもしれんな』
「
『……すまんな。頼むぞ』
「うん。ただ、ボクに何かあったら、みんなのこと頼むね」
『……それ、彼女たちの前で言ってやればよいものを』
「やだよ。泣いている女性の相手をするような面倒なことするなら、ボクは
『……その方が
その後、
「
ずっと無言だったアニムが、重々しく口を開く。
「北西で開戦されない理由がプサラがあるから……というのはどういう意味ニャ?」
「うーん。それはちょっとまだ確信が持てないんだけど。プサラに行けばわかると思う。リスクのある賭けだけど、アニムのためにも確認した方が良さそうだしね」
「……?」
首を捻るアニムに、
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