Act.0002:ムチャクチャですニャー!!

「――で、なんとかという街にいる、なんとかという博士のところへ行く途中、馬車の中で寝ていたら、いつの間にか転がって馬車から落とされてしまったわけです」


「……まったく意味がわからないですニャ!」


 迷子になったという【東城 世代セダイ】という少し年上に見える男の話を聞きながら、アニムは頭を抱えた。

 自分を捕えに来た魔生機甲レムロイドは、運よく森の反対側を探索している。

 おかげでしばらくは時間が稼げそうだ。

 ともかく目の前の世代セダイとかいう怪しい男の子の正体を確認しなくてはならない。

 本当にただの迷子なら、申し訳ないが放置して逃げなくてはならない。

 しかし、もし一芝居うっている追っ手ならば放置しておくのは危険である。


「街の名前を覚えていないのですニャ?」


魔生機甲レムロイドのこと以外、どーでもよかったので……」


「博士の名前を覚えていないのですニャ?」


魔生機甲レムロイドのこと以外、興味がなかったので……」


「もしかして、あなたはおバカさんですかニャ?」


「失礼な……と言いたいところだけど、さすがのボクも言われても仕方ない気がしてきた。この状況はかなりまずいかも……」


「…………」


 どう考えても、このまぬけが追っ手とは思えない。

 こちらをだまそうとしているにしては、怪しすぎて怪しくない。

 それに装備も適当すぎる。

 小さな布の肩掛けカバンはもっているが、馬車から着の身着のまま放りだされたと言われれば、十分信じられる雰囲気がある。

 もうこれは放置してもいいだろう。彼女がそう決めたのと同時だった。


「ところで、あなたはこんなところで何をしているんです?」


「……ニャ?」


 突然、相手から質問を返されてしまう。

 アニムは戸惑う。

 自分に興味がないと言っていたので、質問してくるとは思わなかったのだ。

 しかし、まさか事情を正直に言うわけにもいかない。

 だからつい答え淀んでいると、なぜか世代セダイがポンッと手を打つ。


「――ああ! 鬼ごっこですね!」


「……ニャ?」


魔生機甲レムロイドが鬼で、逃げるあなたを捕まえると。魔生機甲レムロイドを使った、なかなか革新的な遊びですね~」


「革新的すぎますニャ!」


魔生機甲レムロイドにタッチされたら負け」


「負けたら死にますニャ!」


「なら、いったい何をしているのですか?」


「本気で逃げているに決まってますニャ! あの魔生機甲レムロイドたちに捕まらニャいよ――あっ!」


 口が滑った。

 アニムは、すーっと顔を青ざめさせる。

 相手の正体もわからないのに、こんなことを言うべきではない。

 性質たちのわるい相手なら、自分を捕えて売り渡そうとするかもしれない。


(でも、この人間は弱そうニャ……)


 相手は少し年上っぽいようだが、大した筋肉もなく貧相な体格だ。

 それに対して、アニムは普通の人間より肉体能力が高い獣人である。

 さらに彼女は、獣人の中でも法術にも優れている。

 たとえ女でも、魔力も持たない貧相な男に負けるわけがない。

 ならばいっそう国のために死んでもらおうかと、爪を伸ばすために掌を開く。


「ああ、本気で逃げていたんですか。妙にゆっくりしているようだったので遊びかと。なら、早く逃げた方がいいのでは?」


 ところが、相変わらず世代セダイは、のほほんと対応してくる。

 本当に何を考えているのかよくわからない。


「ボクにかまわずどうぞ」


「ど、どうぞと言われましてもニャ、この森の周りは開けていて森から出たとたんに見つかってしまうのですニャ」


「じゃあ、倒しちゃえばいいんじゃないですか、あの魔生機甲レムロイド


「……ニャ!?」


 一体、何度目の驚愕だろう。

 目前の男の子が言うことは、常識外すぎる。


「た、倒すって……こっちには魔生機甲レムロイドもないのに……」


「いえ、なくても倒せますよ。あれが騎士ナイト四型なら」


「四型……ニャら? 確かに四型ニャけど……」


「ええ。大きめのナイフも一応、持っていますし」


「ナイフ……へ?」


「はい。……あっ。そうだ。相手を麻痺させるような魔法を使えます? 電気でビリビリって」


「ニャ? あ、ま、まあ……雷属性は弱いのニャら……人間を麻痺させるぐらい」


「よし。それなら十分。4機とも倒してみましょう!」


「ニャ、ニャにを言って……」


「うん。なんかワクワクしてきた。試してみたかったんですよね!」


「ニャ……ニャんでいきなり、そんなイキイキしてるのですニャ!?」


「では、魔生機甲レムロイドを生身で倒す作戦、準備開始!」


「ムチャクチャですニャー!!」


 アニムは、青ざめて丸顔の両頬を抑える。


 だが、彼女はこのあと知ることになる。

 世の中には、魔力も使わずに魔法のような奇跡を起こす人間がいることを。

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