Act.0030:冗談だろう……

 日本王国・国務隊にエリートとして入隊後、短期間で凄まじい戦果を見せた【雷堂らいどう 和也かずや】は、異例の出世を果たし、対魔獣独立戦隊・第一大隊・大隊長に任命された。


 対魔獣独立戦隊とは、異世界から迷いこむ魔獣を素早く駆除する特殊部隊である。


 ただ、大都市などに住まう者は、魔獣の姿など見たこともないことがほとんどだ。

 だから「魔獣などただの噂ではないか」とも言われている。


 が、実際はそうではなかった。

 ある閉鎖区域では、魔獣が頻繁に現れているし、閉鎖区域ではなくとも稀にだが魔獣が出現することはあるのだ。


 また、こちらも稀だが、魔獣の魂に汚染された魔生機甲レムロイドが暴走するという現象もある。

 魔生機甲レムロイドの基本は、簡単に言えばゴーレム生成の魔法である。

 ゴーレムには、仮初めの魂を宿らせるのだが、その時に魔獣の魂を宿らせる禁忌の方法がある。

 その結果、強力な力を手にいれられるのだが、暴走しやすくなるという欠点ももっていた。

 暴走した魔生機甲レムロイドは、魔獣の魂に食われてしまい魔獣そのものと化してしまう。


 これらを迅速に駆除するのが、対魔獣独立戦隊である。


 魔獣は、人が操作する魔生機甲レムロイドよりも一般的には、動きが素早い。

 また、魔生機甲レムロイドには不可能な動きをしてくることもあり、予測が難しい攻撃をしてくることも多い。

 また、魔生機甲レムロイドの実戦では、法術を使った戦闘が主体になりやすいが、魔獣に法術は効きにくい。

 そのため一般の魔生機甲レムロイドパイロットで、魔獣退治は非常に困難であった。


 しかし対魔獣独立戦隊は、日常的に魔獣相手の戦いを想定した訓練をおこない、対魔獣戦闘経験も豊富だった。

 つまり、目の前にわらわらと襲ってくる魔獣たちを見ても動揺することもないし、怖れることもない。


「数は多いが怖れるな。第一中隊は左翼、第二中隊は右翼を上手く誘導して少しずつ第三中隊に流していけ!」


 確かにいつもの戦闘に比べて、はるかに魔獣の数は多かった。

 しかし、所詮は下級レッサーである。

 日常的に倒している魔獣と変わらない強さのレベルだ。

 だから和也は大隊長として、慌てずに指示をだす。

 同時に目の前に近づいてくる魔獣を魔生機甲レムロイドの拳で吹き飛ばしていった。


(とはいえ、この魔生機甲レムロイドじゃなかったら、さすがにこの数は捌けなかったかもな……)


 和也の乗る魔生機甲レムロイド焔風ほむらかぜ・SDI】は、三大名工の1人【長門 大門】が最近になって発表した新世代ニュージェネレーション魔生機甲レムロイドだ。

 彼は、今までも独自デザインの路線を走っていた魔生機甲設計者レムロイドビルダーだったが、ある時期からそのデザインが豹変したのだ。


 通常、魔生機甲レムロイドには素体フレームと呼ばれる、ゴーレムの肉体にあたる部分がある。

 それに鎧を着けているイメージが、旧世代の魔生機甲レムロイドだった。

 しかし、長門が新たに発表した魔生機甲レムロイドには、明確な素体フレームがあるわけではなかった。

 骨組みに当たる構造物はあるのだが、素体フレームと鎧のように明確に分かれているわけではなく、すべてがパーツとして存在していた。

 結果的にできあがったスタイルは、今までとはまったく違ったデザインになっていたのである。


 もちろん、見た目だけではない。

 それにより得られる効果は、人間ではできない動きの再現や、効果的な構造による膂力の増加など多岐にわたっていた。

 さらに法術に頼る戦闘スタイルから、火力や武器による戦闘スタイルを推奨するデザインにもなっていた。


 その長門が発表した魔生機甲レムロイドを人々は新世代ニュージェネレーションと呼ぶようになったのだ。

 ただし本人いわく、「このデザインを生みだしたのはわしではない。ある若い魔生機甲設計者レムロイドビルダーが生みだしたものだ」と言って、自分のアイデアではないと発表した。

 ただ一般的には、その長門の話は謙遜と受けとめられ、長門は新世代ニュージェネレーションの生みの親であるという噂の方が広まっている。


 しかし一部の者たちは、長門が言っていることが真実だと知っていた。

 すべての秘密が、【四阿の月蝕】という事件にあり、【東城 世代セダイ】という若者にある事もわかっている。

 もちろん、国務隊にいる和也もそれは承知していた。


 が、それでも正直なところ、信じられなかった。


 名を轟かせている魔生機甲設計者レムロイドビルダーの若手というのは、30代以上だ。

 それなのにまだ10代の魔生機甲設計者レムロイドビルダーが、新しいアイデアで三大名工に影響を与え、そして魔生機甲レムロイドの技術革新をしてしまったなど信じられるはずがない。


(だが、この技術は……確かにすごい)


 鬼を思わす鋭角的な敵を威圧する頭部は、4つの目をもっていた。

 正面に2つ、脳天に1つ、後頭部に1つ。

 普通の魔生機甲レムロイドとは違い、視覚同期をおこなわずにコックピットの大きなモニターというものに、周囲の状況が映り死角をすくなくしていた。


 そこから伸びる四肢も、かなり鋭角的で攻撃性を感じさせる。


 右手はナックルガードがあり、拳での攻撃を得意とする。

 左手は指先が槍のように尖り、そろえて伸ばせば抜き手の攻撃を得意とする。

 さらにこの左右非対称の腕には、炎の法術による爆発力を使った破壊力が備わっていた。

 爆発力で手首の先が瞬間的に伸張し、敵を貫く武器と化すのだ。


 また、脚には風の法術で加速力を生み、さらに脚の進む先に真空を創りだし、強烈な蹴りを繰りだすことができた。


 これぞ極端に格闘に特化した、純白に金縁という絢爛さのある、名工の作った特注魔生機甲レムロイド

 大隊長で格闘能力の高い和也だからこそ認められ、手にいれられた魔生機甲レムロイドだと言えよう。


 ちなみに対魔獣独立戦隊の隊員たちも、新世代ニュージェネレーション魔生機甲レムロイドに搭乗

しているが、ここまで特注のものではなかった。

 それでももちろん、他の部隊の魔生機甲レムロイドを圧倒する性能を誇っていた。

 だからこそ、今も多くのなだれ込んでくる魔獣をあしらうことができているのだろう。


〈大隊長、余裕っすね!〉


 伝話で、一番若手の中隊長の声が届いた。

 パイロットとしての才能はすばらしいのだが、こうして調子にのりやすいのが欠点である。

 戦場での油断はもちろん死に繋がる。

 だから、強い口調でたし呑めようとした。


「松浦中隊長、気を引きしめろ! 決して楽観視できる状況では――」


〈――雷堂大隊長!〉


 しかし、そこに別の声がわってはいる。

 長距離爆撃砲を装備した魔生機甲レムロイドの支援小隊にいる小隊長である。

 その小隊長が直接、大隊長の自分に連絡をよこしてくるという状況は、かなり切羽詰まっていることを意味した。


「ジュリアか!? どうした!?」


〈2時の方向、見てください!〉


 その声に少し動揺が感じられて、和也の緊張が強まった。

 急いで視界をそちらに移す。


「……なんだ?」


 確かに、何か見える。

 かなり離れた所に、大きな影が動いている。


 長距離爆撃砲を積んだ魔生機甲レムロイドは、遠距離視認用の装備が積んであるが、通常の魔生機甲レムロイドにはそのような装備が積んでいなかった。

 だから、和也がを認識するまで少し時間がかかってしまった。


「まさかあれは……」


 そこに見えたのは、もちろん魔獣だった。

 しかし、周囲の魔獣よりもかなり大きい。

 少なくとも1.5倍ほどの大きさがある。


 そして、どう見ても人型をしている。


 いや。


 耳の上から角が生え、背中にコウモリの翼をもつその姿。

 それは人と言うより、伝承に出てくる悪魔のような姿だ。


「人型……冗談だろう……上級グレータだと……」




   §




「おいおい……冗談だろう……悪魔だと?」


 エンペラーは離れた山から双眼鏡を覗きつつも、その巨大な姿に戦いていた。

 周囲の魔生機甲レムロイドのサイズから推測するに、全長は25メートルぐらいだろうか。

 青緑の肌に、一枚布を巻いたような服をまとって、片手に三叉鉾トライデントを握っている。

 頭に牡羊のような角を生やし、背中にはコウモリを思わす大きな翼。

 まさに神話伝承にでてくる悪魔というべき姿が、この大地を闊歩していた。


 しかも彼が見ている間だけでも、その巨体が2匹も現れた。

 何もない空間に雷のような切れ目が走り、それを裂いて広げるように手が出てきたのだ。

 まるで閉じたカーテンを横に広げるようにして、この世界を覗き見るように顔をだし、そして巨大な全身を完全にこちら側にだしてきたのだ。


 さらに現れたのは悪魔だけではない。

 その周囲には、動物の形をした怪物までいる。

 悪魔よりは小さいが、それでも魔生機甲レムロイドに匹敵するような大きさを誇っていた。


「ガッデム! こんな怪獣大進撃、聞いてないぜ! オレは純粋なロボットバトルがしてぇんだ! 気分が下がるぜ……」


 エンペラーはここに来るまでに魔生機甲レムロイドでやってきた。

 その感動たるや、筆舌に尽くしがたい。


 自分の作ったロボットが現実となって現れ、魔法のパワーとはいえ乗ることができて動かせる。

 しかも、自分が思い描いた通りに強いときている。

 こんな感動、今まで味わったこともない。


 実は途中で、この国の警備隊らしき3機の魔生機甲レムロイドに遭遇した。

 が、ほんの瞬き何回かですべて行動不能にすることができたのだ。

 もちろん無益な殺生は避け、3体ともパイロットは殺さずに捕らえ、身ぐるみを剥がして森の中に放置して置いた。

 ちなみに、その中でサイズが合いそうな兵隊の1人から軍服を奪って、変装のためにエンペラーはそれ身につけていたのだ。


 もちろんその姿のまま、聖国に侵入しようと考えていた。

 が、これでは侵入どころではないだろう。


(ちっ! 藤井に連絡しようにも、藤井どころかなぜか誰にも伝話が伝わらなねぇ。いったい、どうなってやがる!?)


 先ほどから伝話ができる魔導書で連絡を取ろうとしているのだが、どうやっても相手を呼びだすことができない。

 いや。呼び出せないと言うより、まるで相手に伸ばした糸が、途中で落ちて相手に届かないイメージをエンペラーは感じていた。


(妨害電波でも出ているような感じか? さて、どうする?)


 そう考えている内に、2匹の悪魔の内、前を歩いていた悪魔はしばらく歩いたあと、翼を広げてどこともなく飛んでいった。

 いったいどこに行くのだろうと思っていると、今度は後ろを歩いていた悪魔がふと足をとめた。

 そして空を睨んだ。


(こいつも飛んでいく気か……って、なんだ!?)


 唐突に、悪魔が叫び声を上げた。

 その声は、非常に甲高く、まさに金切り声。

 遠く離れたエンペラーの耳にさえも劈く。

 近くにいる者など、下手すれば鼓膜が破れてしまったのではないだろうか。


「おいおい……おいおいおいおい……」


 エンペラーは、耳をおさえるためにはずしてしまっていた視界を戻す。

 そして双眼鏡の中の場景に思わず声をこぼしてしまった。


 悪魔がふりむいて、街に向かって巨大な三叉鉾を振り抜いたのである。





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              芳賀概夢の小説紹介

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魔生機甲レムロイド ~第二部「 亡国の姫とロボットデザイナー」 芳賀 概夢@コミカライズ連載中 @Guym

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