Act.0009:――ヤツがもっている力が欲しい!
力がすべてだとは言わないが、力は「信じられるもの」であった。
なぜなら、彼――【アキレス・ゴードン】は力で成り上がってきたのだから。
力は手にいれて、振るうほどに成果を与えてくれる。
だから、彼は力を求めた。
もちろん、力と言ってもいろいろあるだろう。
たとえば、単純な
これはわかりやすく、障害を力尽くで排除できる。
彼がまず最初に必要だと感じた力だった。
だから、彼は体を鍛えた。
何者にも負けない強靱な肉体を手にいれようとした。
しかし、彼はすぐに気がつく。
膂力だけでは解決できない問題もあると。
だから、彼は知力を鍛えた。
しがない工員の子供として生まれた彼は、さほど恵まれた教育環境などなかった。
だが、彼は幸いにして優れた頭脳をもっていた。
彼は効率的に勉学に励み、メキメキと知力も高めていった。
無論、膂力を鍛えることも続け、彼は文武両道の力を手にしていた。
しかし、それでもまだ足らないと気がつく。
それは財力。
それを手にいれるため、彼は大昔に流行った「アメリカンドリーム」を実現しようとする。
彼が生まれ育ったのは、アメリカ・サンフランシスコのベイエリアにあるシリコンバレー。
かつては世界の名高いIT企業が集まっていた有名な場所だったらしい。
すなわち、多くのアメリカンドリームが生まれた聖地でもあった。
しかし、2038年に起こった世界的超自然災害により、聖地としての存在は完全に失われた。
今は、ただの過去の栄光にしがみつく、寂しい街でしかなかった。
ところで、それほどの超自然災害とはなんだったのか。
今となっては、なにが起きたのかまったくわかっていない。
不思議なことに、というより不自然なほどにその時の記録は残っていないのだ。
一般には、「スーパーフレア」ではないかと言われている。
太陽で巨大なフレアが発生すれば、地球上には大量の高エネルギー荷電粒子、プラズマ、放射線等が降りそそぎ、多くの動物が死に、磁気嵐により多くの通信は遮断され、多くの電子機器が死ぬこととなる。
しかし、スーパーフレアならばオゾン層が破壊されて数年は元に戻らないはずだが、そのような記録もない。
他にも「悪魔や化け物が襲ってきて、人々はみんなゾンビになった」「空になにか巨大な影を見た。きっと隕石が落ちてきた」などの話も広まったらしいが、そのような痕跡も未だ見つかっていない。
とにかく記録が残っていない現在では、誰もわからず、誰も予想できなかったことが起こったということしかわからなかった。
否。それは正確ではないのかもしれない。
その自然災害を予言していた者たちがいたという噂はあった。
まずは、UNIX型コンピューターの設計者である。
なぜなら、2038年問題と超自然災害は同時刻に発生したらしいのだ。
2038年問題とは、UNIX型コンピューターの日付カウンターがオーバーフローを起こして正しい日付にならなくなる問題だ。
つまり、2038年のその時間にコンピューターが正しく動かなくなる可能性があるのだが、設計者はそのタイミングでコンピューターが使えなくなることをわかっていたのではないか……という推測である。
もちろん、それはただの推測にすぎず、確かめる術もない。
だが、さらに「確かに予言していたのではないか」と言われる者たちがいた。
それは、「日本政府」である。
日本でも、もちろん多くの被害が出た。
しかし、その被害の規模は遙かに他国と比べて少なかった。
そして、まるであらかじめ準備していたかのように、迅速に復旧がおこなわれたのだ。
シリコンバレーが、かつての状態からほど遠い街であるにもかかわらず、日本はすでに新しい文化、エンターテインメントであふれるほどに栄華を誇っていた。
かつての先進国と発展途上国との差をつけられてしまっていたのである。
ただ、超自然災害後の社会が安定し始めたころに生まれたアキレスにしてみれば、かつての栄華などどうでもいい話だった。
大切なのは、今の世の中で成り上がるのに必要なものは日本にあるということだった。
彼は日本を学び、日本企業とのコネクションを作り、自分の事業を開始した。
最初は輸入業からはじめ、運にも助けられて多くの事業に手を広げ、彼は多くの財をなしていった。
そんな中で彼は、ゲームの運営会社とつながりをもつ。
そしてアメリカで、【
その事業は波に乗るが、彼は同時に自分自身もプレイヤーとして【
知力をふるった設計により、賞金ポイントによる財力で装備をまとった、
それは、まさに力の象徴。
彼の心が、ダイレクトに映しだされるゲームだったのだ。
むろん、彼は力で頂点に辿りつこうとした。
先行していた日本人プレイヤーたちを次々と撃破していった。
まさに快進撃と言える強さを誇った。
しかし、最後の最後にそれは現れた。
頂点から降りそそがれる、
装備にかけられた財力、設計に対する知力、そしてレムロイドの戦力……どれも優らずとも劣らずの力関係。
その違いは、経験量なのか技量なのかわからない。
しかし、どうしても勝てない敵が現れたのだ。
――ヤツがもっている力が欲しい!
それが、若き実業家アキレス――レムロイドのパイロット【エンペラー】としての新たな望みとなった。
だが、そのエンペラーが目指していた力たる
それに続くように、ライバルと認めていた【クイーン】も、勝ち逃げするように消えてしまった。
それを知った時、彼は恐ろしいほどの絶望感と怒りを味わった。
わけがわからず、彼は日本まで足を運んで2人を探し始めた。
なんとしても2人を見つけて倒さなければならいと、仕事も放置して探しまくった。
たが、見つからない。
いくら力を使っても見つからない。
これは、自分の力が及ばない領域に行ってしまったのかと諦めかけた時、彼は謎の人物に声をかけられた。
「貴方の探している2人に会えるかもしれませんよ?」
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