第31話

 サユの案内であかりがいる部屋に向かう。


「ここ」

「月、開けるぞ!」


 扉を開けると、そこには腰が抜けたのか床にぺたんと座っている月がいた。

 部屋はホテルのツインのような家具配置になっている。

 月は扉を開けたすぐのところにいた。

 そして月は、奥のベッドを指さして震えていた。


「月!どうした!?」

「あ……あ、あれ……」


 話しかけてもベッドから目を離さない月は、何かベッドにあると訴えてきた。

 サユに視線を送ると、左右に首を振られた。

 見たくないらしい。


 俺は恐る恐るベッドに近づいていく。

 布団が捲られているベッドを見てみると、シーツにシミのようなものが付いていた。


「わっ!?」


 見てみるとそのシーツのシミは人型になっていた。

 俺がいきなり大きい声を出すので、サユと月も驚かせてしまったようだ。


 枕には頭のような形のシミができていて、そのまま仰向けもしくはうつ伏せに寝転がったかのようなシミが続いている。

 腰のあたりになるだろう部分から下は、捲られた布団で見えなかった。

 腕は体と思われる部分から少し離れていて、手の形もはっきりとわかる。


 そこまで見たところで、部屋の出入り口の側にあったベッドの方にも目を向ける。

 枕が見えているがシミはなさそうだ。

 布団を捲ってみてもシミらしきものは影も形もなかった。


「こっちだけか……」

「ヒロ、どうだったの……?」


 月の頭を撫でているサユがびくびくしながら聞いてくる。


「ちょっとね……。とりあえず、リビングの方に行こう」

「う、うん。月、立てる?」

「うん……。大丈夫。ありがとう……」


 俺とサユで月を支えながらリビングに移動する。

 そして、みんなでソファに座った。


 そして俺はさっと事情を話す。


「はわ……」

「…………」


 びくっと怯えるサユともはや無言の月。

 いくら怖いものが得意とはいえ、これはちょっと……。

 気味悪いよなぁ。


「先輩たちがお風呂から上がったら相談してみよう」

「うん」

「…………」


 それまで三人で固まって過ごした。



※※※



「とりあえず部屋を変えるしかないだろ」

「せやねぇ」


 先輩たちに相談してみると、部屋を変えることになった。

 といっても、余っている部屋はない。


「じゃああれだな。オレと桜雪さゆきを交代して、二人は大翔ひろとの方に行けよ」

「みーちゃん~!!」

「はいはい静かにしてろー」


 その言葉に嬉しそうな顔をするサユと月。


「行く」

「私も!」

「二人とも本気で言ってるの!?」


 男の部屋に泊まるってそれはどうなんだろう。


「ま、大翔なら大丈夫だろ。よゆーよゆー」

「よくわからないけど、にぃはすごいから大丈夫!」


 久美くみ先輩と乃愛のあも後押ししてくる。

 これでいいのかなぁ。

 それにしても今日は久美先輩と萌々香ももか先輩が一緒になることが多いような……。


「でもベッドは一つしかありませんよ?どうするんですか?」

「敷布団が一セットあるからそれを持って行って使つこうて」

「わかりました」


 緊急事態だし、俺も腹を決めよう。


「じゃあ二人とも、準備しようか」

「わかった」

「うんっ」


 それから眞智まち先輩に敷布団の場所を教えてもらい、それを持って俺が泊まる部屋に向かった。



※※※



 持ち物も移し終えて、まだ入っていなかったお風呂に行くことにしたのだが……。


「サユも月もまだなんだよね……」

「一緒に入る?そうすれば、問題ない」

「別に俺はあとでいいって。時間がないわけでもないし」

「むぅ……」


 とんでもないくらい一緒に入ろうとするなぁ……。


「大翔君一緒に入らないの?」

「逆になんでいいの?」

「タオルで隠せば問題ないでしょ?」

「そんなもんなの?」


 月までまるで普通のことのように一緒に入ろうとしてくる。

 ただちょっと月は頬が赤い。

 なんか声もいつもと違う気がする……。


「水着使えばいいんでおまへん?」

「なんでそこまでして一緒に入るんですか!?」

「なんでそないに鈍感っちゅうか気づかないんやろうねぇ」


 鈍感?一体何の話だ?


「桜雪のせいだろ。オレはそう思うぞ」

「なるほどな~。桜雪ちゃんからの好意が激しすぎて感覚がおかしなっとるんやな」


 まだ眞智先輩と久美先輩が話していたが俺にはその内容は聞こえなかった。


「で、どないしはるん?」

「みんなでゲームもするつもりだから早く決めろよー」


 俺はサユと月をちらっと見る。

 サユはいつもの無表情でコクコクと頷いている。

 月はさっきよりも顔を真っ赤にして頷いていた。

 わけわからん。


「もうめんどくさい。連れてく。月、手伝って」

「りょ、了解です大佐!」

「ちょっ!」


 俺は右腕をサユに捕まれ、左腕を月に捕まれてしまった。

 ていうか力強すぎる!?どこからこんな力が湧いてくるんだよ二人とも!


「間違っても間違いは起こさんようにな~!」

「どっちなんですかそれー!?」



※※※



 どうしてこうなった。

 俺は、やたらと広かったお風呂に水着姿でいた。


 俺の背中を流しているのは月だ。

 サユは自分の頭を洗っている。

 もちろん二人も水着だった。


 それにしても本当に広いお風呂でびっくりした。

 下手したら十人くらい一緒に入れてしまうかもしれない。

 まるで銭湯のような感じになっているし、わざとこういう造りにしたであろうことが窺える。


 と、現実逃避をしているが――


「なんか水着でお風呂って変な感じだね」

「月、なら脱ぐしかない」

「誰も嫌とは言ってないからね!?」


 やっぱりこの微妙な雰囲気の空間を逃げ出したい。

 まぁ明らかに微妙だと思っているのは俺だけみたいだけど。


 本当にどうしてこうなった。


「でも洗う時は脱がないといけない」

「た、たしかに……」


 あー聞こえない聞こえなーい。


「じゃあ大翔くん。しばらく目、瞑っててね?」

「開けたらさすがに怒る」

「神に誓って許可が下りるまで目を開けません」


 本当に水着を脱ぐつもりなのだろうか……。


「月の肌、綺麗」

「そんなことないよ。桜雪ちゃんの方が真っ白で綺麗だもん……」

「ちょっと触らせて」

「ひゃっ!?ちょ、なんでそこなのっ」

「よいではないか~よいではないか~」

「ひゃぅ……ちょ、やめ……」


 くぁwせdrftgyふじこlp


「もうやめてって!」

「わっ」


 その時、何かが起こった音がした。

 今の会話の内容から、たぶん月がサユを振り払ったのだろう。


 俺は、そこまで考えたのだが、いつの間にか考えている間にも体が動いていたらしい。


「桜雪ちゃん!?大丈夫!?」

「うん……。ありがとヒロ。危うく転んで頭打つところだった」

「間に合ってよかったよ」


 転びそうになるサユを抱きとめているのだと思う。

 なぜ確信がないかと言うと――


「ごめんね桜雪ちゃん……」

「こちらこそごめん。やりすぎた。それに、ヒロのおかげでケガはしていない。だから大丈夫」

「ありがと……!でも大翔くん。よく目を閉じたまま抱きとめたね?」


 そう、俺はずっと目を閉じたままだったのだ。


「ま、まぁね」

「……?」


 俺は答えをはぐらかす。


「とにかく助かった。ヒロ、改めてありがと」

「どういたしまして」

「でもまだ目は閉じててね」

「もちろん」


 それにしても、目を閉じてるとほかの感覚が研ぎ澄まされてしまうっていうのは本当だよね。

 サユの華奢ですべすべの肌の感触がまだ腕に残ってる。

 あーダメだ。これ以上はいけない……。


「ひゃ」

「ちょっとくらいは仕返しだよ!」

「んっ……さっきのでチャラじゃないの……っ」

「これはこれだよ!」


 はいわっしょいわっしょい。


 その時だった。


『あ゛あ゛あ゛あ゛~』

「「「!?」」」


 い、今の何の声だ!?


「月、水着!」

「うんっ!」


 二人はすぐに水着を着始める。


「ヒロ、いいよ」

「!」


 すぐに目を開けて周囲を探る。

 人の気配は俺たち以外にない。

 窓とかも別におかしいところはない。


「何もないな……」

「気のせいにしてはおかしい」

「うん……。みんな聞いてるもんね……」


 もっとよく周囲を見てみるが、おかしなところは一つも見当たらない。


「このままいるのも気味が悪いし、出ようか」

「一応体は洗ったからそうする」

「うん。私も」


 そうして俺たちはすぐにお風呂から出た。

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