第17話

 パァァァン!!

 いきなり部室の扉が開いた。


 俺もサユもあかりもびくっとなり、喧嘩をしていた眞智まち先輩と久美くみ先輩も驚いて扉の方を見た。


「やっほ~!ちーちゃんみーちゃん元気~?」

「「伊花いはな先輩!?」」

「「「えっ!?」」」


 あまりにも驚きすぎて、サユもばっちりわかるくらい驚いている。


「伊花先輩、受験勉強はいいのかよ!」

「そないどすえ!部活に参加できへんって言うとったんに!」

「僕は部活には参加しないよぉ~。遊びに来るくらいいいじゃ~ん。息抜き息抜き」


 眞智先輩と久美先輩が仲良さそうに話しているが俺たち一年生組はまったくついていけない。


「なんかずるいなぁ……」

「せやなぁ……」

「まぁまぁ細かいことは――」


 眞智先輩たちに伊花先輩と呼ばれていた人物がそこでサユを見て固まった。


 みんなできょとんとしていると俺の視界から伊花先輩(仮)が消えた。


 消えた!?


「な、なんなのこの子!?ちょーかわいい!!」

「むぎゅぅ~……」


 声がしたほうを見ると、サユに抱き着いてほっぺをすりすりしている伊花先輩(?)がいた。

 大きな胸がサユの小さな胸にぽよんぽよんとあたっている。

 身長が同じくらいだけどこの差は……。


「僕ね~伊花萌々香ももかっていうのぉ~。あなたのお名前は~?」

沖倉おきくら桜雪さゆき……」

「桜雪ちゃんかぁ~。うふっ。ちょーかわいい……」


 伊花先輩(確定)がとろっとした表情でサユをなでなでしている。

 サユは気持ちよさそうにそれを受け入れていた。


 なで慣れてるのか……?


「伊花先輩……気持ちはわかるけどちょっと話を聞いてくれないか?」

「なになに~?今僕は桜雪ちゃんをなでなでするので忙しいんだけどぉ~?」

「部活に入って部長やってくれまへんか?」

「さっきも言ったけど僕は部活には入らないよぉ~?」


 そう言ってサユをなで続ける伊花先輩。


「そういえばそこの男の子は?まさか!桜雪ちゃんの彼氏!?」

「違う。ヒロは彼氏じゃない」

「あれ~そうなの~?」


 訂正しようとしてるけどこれは……。


「ヒロはわたしのお婿さん」

「絶対言うと思ったわ!!違うからね!?」

「も、もう……結婚済みぃ~……??」


 伊花先輩がへなへなと地面に崩れていく。

 どんだけ好きなんだよ……。


「僕が、婚約相手じゃ……ダメ……?」


 サユを上目遣いで見つめる伊花先輩だが、サユはいつもの無表情できっぱりと言った。


「ヒロが好き」

「ごふぁっ!!」


 地面に崩れ落ちてしまった。


「ストレートに言ったな」

「せやね……」


 眞智先輩と久美先輩が何か呟いているが、俺の耳には届かない。


 思いをストレートに告げられて、さすがに俺もドキッとした。


「でも、まぁ~?それはそれで……いいかなぁ~。ぎゅっ」

「むぎゅぅ」


 …………。


 見てるこっちも地味に癒される……。


「伊花先輩!部長やってくれって!」

「いやだよぅ~」

「たのんまっせ!」

「無理~」

「じゃあやっぱり……」

「うちらでやるしか……」

「ないみたいだな!」「ないみたいやね!」


 また喧嘩を始めてしまった眞智先輩と久美先輩。


 一方で伊花先輩は――


「桜雪ちゃ~ん」

「むぎゅぅ……」


 カオス空間だ……。


 あれ?そういえば月がずっと静かだけど……。

 部屋を見渡すと、月は窓の方を見ていた。

 月は窓の外を見つめてぴくりとも動いていなかった。


「月、どうしたの?」

「…………」

「おーい?月?」

「むふわぁ!ど、どうしたの!?」

「いや、ぼーっとしてるからどうしたのかなぁって」

「な、何でもない!」


 どうしたんだろう?


「あんなストレートに思いを言えるなんて……。私には……」


 何か言ってるけどよく聞こえないな。


「オレは無理だ!眞智が部長をやれよ!」

「うちん方が無理やて!久美がやってよ!」

「桜雪ちゃ~ん♪ぎゅ~♪」

「むぎゅぅ……」

「ストレートに……思いを……」


 帰ろうかな。

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