第16話

「ほらにぃ!起きて!!」

「ん……」


 乃愛のあの声で目が覚めた。

 もう朝……?


「サユねぇとずっとゲームしてるからだよっ。もうっ!しっかりしてよねっ!」


 そう言うと乃愛はぷんすかしたまま部屋を出て行ってしまった。

 サユとゲーム……。そっか。昨日遅くまで一緒にゲームしてたんだった。


 サユはちゃんと起きれたのかな。


 部屋から出て、俺は階段を下りていく。

 リビングに行くと乃愛がパンにはむはむ食べているところだった。


「むぐむぐ……んく……。ちょっと早めに起こしたんだからサユねぇの様子でも見にいけば?」

「ありがとう。そうするよ」

「サユねぇのことお願いね~」

「お~」


 Tシャツと短パンのラフな格好だけどサユが相手だからまぁいいだろう。

 ふわぁ……。それにしても眠い。


 ピンポーン。


 インターホンを押しても反応はない。

 まだ寝てるのかな?


 鍵は……開いてないみたいだ。

 う~ん……どうしよう。

 あ!そういえば前に合鍵を渡されたんだった。それを取りに行こう。


 俺は一度合鍵を取りに家に戻ってからサユの家の前に来た。


 俺は、鍵を開けて家の中に入る。


「サユが寝てるのはたしか二階の部屋だったな」


 回らない頭を使いなんとか思い出しつつ足を進める。

 やがて、サユが寝ているときに使っている部屋の前に到着した。


 とりあえずノックをしてみる。

 が、反応はない。


「サユ?開けるよー?」


 もちろん返事はないので、ちょっとずつ扉を開いていく。

 そこには、布団に包まって寝ているサユの姿があった。


「すぅ……すぅ……」

「気持ちよさそうに寝てるなぁ」


 起こすのは申し訳ないが、今日も学校なので仕方なく起こすかね。

 なんで今日が学校なのに俺たちは夜更かしをしてゲームをしていたのだろうか。

 さっぱり思い出せない。


「むぅ……?」

「あ、起きた?」


 俺が部屋に入るために足を動かそうとしたらサユが目を覚ました。


「ヒロ……?」


 とろんとした目をこすりながらサユが起き上がる。

 俺は、動かそうとして止めていた足を再び前に進めた。


 こつん。

 足に何か当たったような。


 あれ?どんどんバランスが……。


「しまっ――」

「ひゃっ――」


 何かに躓いた俺はサユを巻き込んで盛大に転んだ。


「ごめんサ……ユ……」

「んぅ……」


 俺はそこで思考が停止してしまい、サユを見つめてしまう。


 いつもより近くにあるサユの顔。

 相変わらず寝るときの格好は無防備なようで、ぶかぶかTシャツとパンツのみなようだ。


 サユのぶかぶかTシャツは胸が見えてしまいそうになるくらいの位置まで捲れあがってしまっている。


 サユの頬がほんのり赤く染まっている。

 誰が見てもわかるくらい頬を染めたサユを見るのは一体いつ振りだろうか。


「ヒ、ヒロ……」

「あっ、ごめん!」


 サユの声で我に返った俺はすぐにサユから離れて後ろを向く。


 後ろでは、サユが起き上がって服を直しているような音がした。


「も、もう大丈夫……」

「お、おう」


 サユの声に振り返る。


 サユは所謂女の子座りでぺたんと床に座っていた。

 目を潤ませながら頬を染め、両手はぶかぶかなTシャツの裾を押さえている。


「本当にごめん!」

「だ、大丈夫……わざとじゃないのは、わかるから……。それより、何か用があったんじゃ……?」

「あ、うん。き、昨日遅くまで遊びすぎて、サユも起きてないんじゃないかって乃愛が。だから、様子を見てきてって言われて……」

「そ、そう……」

「朝ご飯、用意してあったからサユもお、おいでよ……」

「準備……してからいく……」

「う、うん。待ってるね」


 俺はサユの部屋から出て、そのまま家を出て、自宅に戻った。


 気っっっまずい!!

 俺はすぐに冷たい水で顔を洗った。


 目を瞑るとサユのあの格好が瞼に映る。

 白を基調とし、ピンクのリボンがちょっとしたアクセントとして付いているパンツ。

 【働きたくないよー】と書いてあったぶかぶかなTシャツ。

 そのTシャツは捲れあがって胸が見えてしまいそうになっていた。


 ああああああ!!!やめろ俺!ダメだダメだ!!


 準備をしてから制服に着替え、リビングに行くとちょうどサユも来たみたいだ。

 乃愛は食後のコーヒーを飲んでいた。砂糖をたっぷり入れたやつね。


 俺とサユは無言で朝食を食べる。


「二人ともどうしたの?何かあった?」

「べ、別に……」

「な、なにも……」

「ふ~ん」


 乃愛は訝しげな表情で俺とサユを交互に見る。

 しばらくすると何かを察したのか、


「ま、いいけど!じゃ、あたしは先に行ってるからね!」

「気を付けてなー!」

「いってらっしゃい」

「行ってきまーす!」


 サユと二人きりになってしまった。

 ご飯を食べ終えたので二人で食器を洗う。


 そのまま二人揃って無言で家を出る。

 そのまま無言で歩いている。


 サユとしゃべれないってすごく悲しい……。


「ね、ねぇサユ」

「ん」

「部長とかの件、どうしたらいいと思う?」

眞智まち先輩と久美くみ先輩に話し合うかして、決めてもらう」

「それはあの感じを見て無理そうだと思うけど……」

「じゃ、ゲーム」

「あぁなるほど」


 たしかにゲームは二人とも好きだろうし、恨みっこなしでできると思う。

 もともと先輩二人はとても仲よしだろうし大丈夫だろう。


「"オルゲ"も忘れないでね」

「わかっております……」


 俺は部長の件や"オルゲ"の件よりも、サユとまた普通に会話ができたことの方が重要だった。



※※※



「だからオレは無理だっての!」

「うちん方が無理に決まってるでしょう!?」

「まだやってたんだな……」

「昨日からこうなの……?」

「そう」


 部室に来ると、眞智先輩と久美先輩はまだ喧嘩を続けていた。

 そんな二人を呆れたように見るあかりとサユ。


 月には、昨日どんなことがあったのか予め話しておいた。


 ていうかこの二人、昨日からずっと言い争ってるんじゃないよね?

 ちゃんと家に帰って寝てから学校来てるし授業も出てるよね?


「これはどうしようもないね……」

「だろう?だから、月も助けてくれよ……」

「そうは言われてもねぇ……桜雪さゆきちゃんの案でいいと思うんだけど……」


 サユの案とはゲームをさせて部長を決めるというものだ。


「まずはあの二人の耳をこちらに傾けさせなきゃだが……」

「無理そう」


 俺の言葉にサユが続けて言った。

 まさにその通りだろう。


 俺は前に口を突っ込んだからわかるけど、黙ってろと言われた。悲しい。


 下手に口出しするとまた文句を言われてしまう。

 どうしたものか……。


 パァァァン!!

 すると、いきなり部室の扉が開いた。


 俺もサユも月もびくっとなり、喧嘩をしていた眞智先輩と久美先輩も驚いて扉の方を見た。


「やっほ~!ちーちゃんみーちゃん元気~?」

「「伊花いはな先輩!?」」

「「「えっ!?」」」


 なんかもっとややこしくなりそうだあああ!!!

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