第5話
「おはよっ!
「
「月、おはよう」
俺とサユが登校していると、月に会った。
仲良くなってしばらく経ってからずっとここで会うけど、月はどこに住んでいるんだろうか?
「どう?いい部活はあった?」
「ああ、あったよ」
「どんなの?」
「ゲーム部っていうのがあったから行ってきたんだ」
「えっ?そんなのあったの?」
俺はゲーム部でどんなことがあったのか話した。
「楽しそうだね~」
「月ってゲームするの?」
「するよ~」
「なんか意外だね」
「そう?」
見た目からの偏見だけど月はゲームを全然しない人だと思ってた。
この間みんなでゲームすることを一番に提案していたあたり結構ゲーム好きなのかもしれない。
「今度私も行ってみようかな~」
「だめ」
「え?」
サユがすぐに却下した。
むすっとしている表情がかわいらしいのだが、これは怒っている。ちょっとだけ。
「なんでダメなの?」
「あげないもん」
「っ……」
なんか俺の知らないところで争いが始まったんですけど。
「まだ桜雪ちゃんのじゃないから私にもチャンスはある!だから行く!」
「もうわたしのものみたいなところがある。絶対に負けない」
「ねぇ二人とも、何の話?」
「大翔くんは黙ってて!」「ヒロは黙って」
「はい……」
こ、怖いんですけど……。
これって二人が仲良くなったって思っていいの?
そんなわけないね。
この後も言い争っていた二人は、学校に着くとやっと静かになった。
※※※
「大翔!助けてくれ!」
教室に入るなり、
「なに?どうしたの」
「姉貴が!」
「祐樹の姉ちゃんが?」
「将棋部を潰そうと勝負を申し込んできた!」
「あー……」
祐樹には一つ上に姉がいる。
その姉は囲碁部にいる。
どうやら昨日、その囲碁部の部室に祐樹が打った球が飛んでいき、ガラスを割ったらしい。
そうしたら姉が「将棋ばっかりやってるから!」と怒り出して将棋での勝負を申し込んできたらしい。
ルールは三対三。祐樹はあと二人のメンバーを集めなければいけなかった。
将棋部のメンバーで戦えばいいと思うだろう。
しかし、祐樹と同様将棋部のメンバーは将棋が好きなだけで将棋が弱いのだった。
「俺はいいけどあと一人はどうするの?」
「誰か誘ってくれ!将棋が強いやつ!」
「そんな無茶な……あっ」
そうして俺はサユを見つめる。
サユがきょとんとしているのがかわいい。
「なんだ?桜雪ちゃん将棋できるのか?」
「サユ、将棋できるよね?」
「できる」
「桜雪ちゃんって将棋強い?」
「わたしあんまり対局したことない」
「でもサユは強いと思うよ。俺が保障する」
「なら助けてくれ!お願いします!!」
「いい」
「サユもいいって言ってるしここは俺たちが協力してあげよう」
「ありがとう!」
これは今度ご飯をおごってもらうか。
「ところで、その対局っていつ?」
「今日の放課後」
「はやっ!?」
「しょうがないじゃんか!昨日勝手に決められたんだから!」
これは心の準備ができないな。
まぁ俺たちが負けたところで祐樹が将棋部にいられなくなるだけなんだけど。
実際サユとは将棋をしたことがないから強さが分からない。
相手の三人も強さは未知数だ。
でもきっとサユなら読みの力で勝ってくれるだろう。
もちろん俺も、ゲームで勝負するからには負けたくない。
※※※
「これから休み時間は作戦会議をするぞ」
「はぁ」
「りょーかい?」
一限終了後、祐樹は謎の提案を俺とサユにしてきた。
「作戦って?」
「まずは対局の順番だ」
「三人と戦うから一番最初に対局する人と二番と三番も決めるってこと?」
「そういうこと」
作戦じゃないじゃん。
「順番だけなら今さっと決められるだろう。どうする?」
「祐樹が決めてくれよ。俺とサユはただの助っ人で何も分からない」
対局相手が祐樹の姉とその友人だということしか知らない。
祐樹の姉の顔も見たことはないし、その友人なんてもちろん見たことない。
将棋の腕も何もかも分からないのだ。
ていうか囲碁部なのに将棋するんだ。
「いや、俺もよく分からないんだ」
「俺、助っ人やめるわ」
「わたしも」
「ちょ!捨てないでくれよ!」
「俺はお前の飼い主じゃない」
「わたしはヒロのペット」
「それも違うしその発言は問題が多すぎる」
変な勘違いされるからやめてくれっ!
「じゃあ適当に決めとくな」
「任せた」
「お任せ」
「任された」
一体どんな順番になるのだろうか。
~二限終了後休み時間~
「とりあえず、決めてみた」
「どれどれ」
休み時間が始まると、祐樹はすぐにこちらに紙を見せてきた。
順番はこうだ。
【先鋒】
【中堅】
【大将】
「どうしてこの順番になったんだ?」
「なんとなく」
「…………」
「いや、俺は捨て駒だから最初!それで桜雪ちゃんは隠し玉的なもので最後!そして残ったところに大翔っていうわけだ!」
「即席にしてはなかなかの理由だね」
「祐樹、すごい」
「お、おう。ありがとう……?」
茶番はここまでにして。
「ほかにどんなことを決めるんだ?」
「そうだな~」
考えてなかったのか。
ほかに団体戦において決めることはあるんだろうか。
しかし、今はチャイムが鳴ってしまったので次の休み時間にでも考えよう。
~三限終了後休み時間~
「なぁ、ほかに何を決めればいいんだ?」
「知るか!」
まったく思いつかないのだった。
だって将棋大好きってわけでもないし、将棋の団体戦ってなんだよって話だよ。
「戦法とか打ち合わせしとけばいいんじゃないの?」
「それだ」
ここでまさかの月からの助け舟だ。
「俺は基本的に居飛車なんだけど」
「わたしは振り飛車」
お、ちょうど分かれたな。
「俺ってどっちなんだ?」
「…………」
「祐樹と対局したことないし、祐樹の対局見たことないから分からない」
適当戦法だよ。
~昼休み~
「ありがとうございました」
「ありがとうございました……」
試しにサユと祐樹が対局をしてみたのだが、これはひどい。
何がひどいかって――
「これじゃあ桜雪ちゃんの実力も分からないし、祐樹くんの戦法もよく分からないんだけど……」
「ごもっともで」
これは対局させる人を完全に間違えたな。
祐樹は本人が言ってる通り完全に無視して捨て駒にするべきだった。
完全に無視しろとまでは言われてないけど。
「でも、俺よりよっぽど強そうで安心したわ」
「いや、お前がもっと強くなれよ!お前のことだろ!?」
「まぁまぁ。今回は任せたわ」
任されたくなくなってきた。
まぁサユがやる気満々みたいだからやるけどさ……。
ここまでの休み時間会議で俺のやる気だけが削られている、そんな気がした。
※※※
放課後になってしまったため、対局会場である二年三組の教室に向かう。
祐樹は不安そうに俯いて歩いている。
サユはいつも通りの無表情で歩いているが、俺には若干緊張しているというのが分かる。
そして俺はというと、対局が近づくにつれて段々と楽しみになってきていた。
絶対に勝つ!
「きたわね」
扉を開けるとそこには仁王立ちで堂々と構えている女子生徒の姿があった。
身長はサユより十センチは高いだろうな。スタイルもすらっとしていて誰がどう見ても美少女である。
ただし、胸は小さいようだ。
「姉貴……」
この人が祐樹のお姉さん……?
雲泥の差とはこのことか……。
「おい大翔。お前今失礼なこと考えただろ」
「考えてない」
図星です。
教室を見てみると、結構な人がいた。
観客といったところだろうか。
一部分だけ机がくっつけてあり、その上には将棋盤が置いてあった。
「あれ?全部同時じゃなくて、対局は一回ずつなんですか?」
「そうよ。盤がなくてね」
「将棋部にはないんですか?」
「ないらしいわよ。ホントよくそんな部活が成り立っているわ」
もう将棋部なくなってもいいのでは?
「おい大翔。お前今最低なこと考えただろ」
「考えてない」
図星です。
「それより、あなたたちが祐樹の助っ人ね」
「はい、同じクラスの日橋大翔と言います」
「同じく沖倉桜雪」
「よろしくね。アタシは祐樹の姉で、
そう言って綺麗なお辞儀をしてくる谷治先輩。
祐樹とは大違いだな。
「おい大翔。お前今――」
「それじゃあ早速始めましょうか」
「「お願いします」」
「お、お願いします……」
無視されたぁとか嘆いている祐樹。やる気あるのかこいつ。
~一回戦~
「あれ?君は大将じゃないんだ」
「はい……」
対戦相手はおっとりしている女の子だった。
ふわっとした髪を肩辺りで切ってあり、見た目からもおっとりとした印象を与えてくる。
そして何より目を引くのはあの大きな胸だろう。
「ヒロあんまり見てるとわたしが嫉妬しちゃう」
「見てない。ちょっとしか……」
「別に怒ってないから」
「すみません……」
「だいじょうぶ。ヒロも男の子」
「その言葉は万能じゃないってば!」
「そんなことより、そろそろ始まる」
サユに言われ、対局者たちの方を見る。
「それじゃあ、お願い致します」
「よろしくお願いします」
対局が、始まった。
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