第27話

 合宿当日。夏休みの二日目なのだが、俺たちは新幹線に乗って移動をしていた。


 眞智まち先輩のうちが所有している別荘は他県にあるとのことだった。

 その結果新幹線で移動することになったのだが、最初はお金が掛かるので却下ということになった。

 しかし、眞智先輩がお金を出すと言い始めたため、竹石たけいし先生に無理やり頼み込んで部費(先生のポケットマネー)を借りた。ひどい。その先生は来ないというのに。ひどい。


「にぃ、新幹線ってこんなに速いんだね!」

「楽しいか?」

「うんっ!」


 そして、この合宿には乃愛のあもついてきている。俺が友達とご飯に行ったりとか結構一人にさせることが多いけど、さすがに一日はまずい。一日で終わるとも限らないしね。

 しっかりしているとはいえまだ小学生。俺が乃愛にずっと甘えているわけにもいかない。

 外に遊びに連れて行きたかったっていうのもあるけどね。


「しょーり」

「はあああああああ!?」

「また桜雪さゆきちゃんの勝ちですね」

「なんで最後の二人になるといっつもオレが負けるんだよ!」

「まぁ読み合いの差どすなぁ」

「こんなことあってたまるか!おい大翔ひろと、乃愛ちゃん!参加しろ!」

「わかりましたよ。落ち着いてください」

「ババ抜き~♪」


 俺と乃愛は窓から景色を眺めていたが、ほかの人たちはババ抜きをしていた。

 三人が並んで座れる席を窓側に乃愛。真ん中は俺。通路側はサユというふうに座っていた。


 一つ前の席にはあかりと眞智先輩と久美くみ先輩が座っている。

 その席を回転させ、サユの正面に久美先輩。俺の正面に眞智先輩。乃愛の正面に月となった。


「じゃあさっき負けたオレから時計回りでいいよな」

「さいぜん大翔くんと乃愛ちゃんは参加しておへんどしたけどね」

「細かいことは気にするな」


 全員承諾したので、順番は久美先輩が眞智先輩のカードを引くところから始まることになった。


 そのままゲームは進んで、最後にはサユと久美先輩が残った。


「ねぇ、サユ?今の試合わざと最後まで残らなかった?」

「気のせい」

「そう?」

「うん」


 絶対嘘だ……!


「久美は弱いなぁ。いっつも最後まで残っとるよ」

「うるせぇ!今集中してるんだ!」


 現在は久美先輩がサユのカードを引く番なのだ。

 すごい睨みつけてる。


「はい、月お姉さん。飴~」

「ありがとう。乃愛ちゃん」


 隣の乃愛と月はとても平和そうに過ごしている。

 なんでいつもいつもこの先輩二人とサユが一緒にゲームしてると殺伐とした空気になるんだ?

 なんとなく久美先輩がすべての原因のいう気はしてるけど。


「こっちだあああうわぁぁぁぁぁぁ!!」

「ちょっと久美先輩!うるさいですってもうちょっと静かに――」

「これが静かにしていられるか!またババ引いたんだぞ!」

「知りませんよそんなこと!もう少しおとなしくしてください!!」


 ここが部室じゃないってこと知ってるのかこの人。


「ふむ……」

「くっ……」


 そしてまた睨み合いを始める二人。

 負けず嫌いって怖い。


 そしてここでサユがくせ毛をいじり始めた。


「あ、例のやつやね」

「にぃ、家でもよく見るよね」

「まぁ、無意識みたいだしね。昔もあったよ」


 ゲームする時が少なかったにしても当時はここまでいじってなかったんだけど。


「昔から桜雪ちゃんと大翔くんはゲームしてたんだね」

「まあそこそこね。そんなにはやってないんだよ」

「そうなの?でも、二人ともすごい強いよね」

「俺は結構やってたからだけど、サユと離れてる間にサユがここまで強くなってるとは思わなかった」


 月に聞かれたから考えてみたんだけど、子供の時、俺とサユがゲームで対戦するとまず俺が勝っていた。

 あの時は俺は毎日やってたようなもんだし、サユは俺といるほんの数時間しかできなかったっていうのがね。


「こっち」

「はあああああああ!?」

「だからうるさいですってば!!」


 また久美先輩は負けたようだ。



※※※



「「海だーーーーー!!!」」

「海やねー」

「なんだよ眞智!元気ねぇな!」

「うちは何回も見てるからなー」

「こんなの毎日見てるなんて羨ましいです!眞智お姉さん!」

「乃愛ちゃん?ここは別荘やから、別に毎日見てるわけではおまへんよ?」


 俺の目の前には、綺麗な海と青空が広がっていた。

 夏休みの二日目にして、すでに合宿。この合宿が終わっても予定をたっぷりと入れるつもりなのだろうか?


 それにしても……。


「なんで伊花いはな先輩までいるんですか?」

「別にいいじゃ~ん。細かいことは気にしな~い。それと、萌々香ももかでいいよ~ん」


 そう、なぜか伊花先輩がいたのだった。

 なんで倉方くらかた家の別荘に伊花先輩が待ち構えているのか。


「では萌々香先輩。なんで合宿のことを知ってるんですか?」

「しつこいなぁ~。しつこい男は嫌われるぞ~?」


 はぐらかす理由でもあるのだろうか。


「ヒロ」

「大翔くんっ」


 呼ばれたので振り返ると、サユと月が笑顔でこちらを見ていた。


「そうだな」


 そんな細かいことは気にすることはない。

 せっかくここまで来たんだ。

 ゲームだけじゃ面白くない。


「楽しむか!!」

「うん」

「うんっ!」

「みんな~こっちゃこっちゃ~」


 眞智先輩が呼んでいる。


「部屋割り決めるとか荷物置くとかそっちゃが先どすえ~」

「よっしゃ行くぞ!!オレに続け!!」


 眞智先輩に続く久美先輩に付いて行くと、普通の家より大きめの建物に辿り着いた。


「これが別荘どすえ」

「おお~」


 それはザ・別荘みたいな感じの建物だった。

 中に入ると、まず正面にある綺麗なリビングが目に入った。リビングに入って右を見るとカウンターがあり、キッチンになっているようだ。左の方はウッドデッキが付いていてそこからは海が見える。二階建ての建物で部屋は結構多いみたいで、寝室には困らないと思われる。


「ほな部屋割りを決めまひょ」

「わたしとヒロ」

「即答やね……」


 今いるのは俺、乃愛、サユ、月、眞智先輩、久美先輩、萌々香先輩の合計七人。

 普通は男が俺だけだから、俺が一人部屋だろうけど……。


 なんか、一人で部屋使うのって申し訳ないよね。


 だからって別に誰かと一緒になりたいとかじゃないから!!


「まぁ、普通に考えて大翔が一人だよな」

「ですよね」

「なんだ?残念そうだな」

「そんなことはないです!」


 …………。


 そんなことはないから!!

 ちょっと寂しいだけだし!!


「僕は桜雪ちゃんとがいいな~♪」

「え」

「ね~♪桜雪ちゃ~ん♪」

「むぎゅぅ……」


 また始まったよ。


「うちは乃愛ちゃんと一緒の部屋がええな~」

「眞智お姉さんと同じ部屋!嬉しいです!」

「じゃあオレが月とだな」

「よろしくお願いしますね!」


 ちゃんと決まったみたいだ。

 サユが助けてと視線を送っているような気がするけど気にしない気にしない。


 そうやって押さえつけとかないと俺のところに来かねないからね。


「ほな、決まったみたいやし早速着替えて海に行こー!」

「「「「「「おー!」」」」」」

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