第10話

 部室から出た俺たちは家に向かって歩いていた。

 途中の自販機で、飲み物を買った。


 噂の透明なミルクティーが売っていたので俺はそれを買った。

 サユはいつも通りいちごオレを買っていた。


 このミルクティー……意外とミルクティーだな……。


「それ、おいしい?」

「ああ、普通にミルクティーでおいしいよ」

「わたしにも一口ちょーだい」

「え?いいけど、もう口つけて飲んだよ?」

「何か問題が?」


 え?逆に問題ないの?

 サユが……俺のミルクティーを……?


 なんかこの言い方は自分で言ってて引っかかると思った。


 まぁサユがいいって言ってるからとりあえずミルクティーを渡した。

 それを受け取ったサユは躊躇することなく口をつけて飲んだ。


 間接キス……。


「本当だ、おいしい。ヒロ、ありがと」

「あ、ああ」


 それを平然と返してくる。サユがなにも思ってないのに俺だけ意識するのは変だよな……。


「いちごオレ、飲む?」

「い、いらないっ」

「照れなくてもいい」

「別に照れてないから!」


 そう……。と、少し残念そうにしているが引き下がるサユ。

 なんかすっごい恥ずかしいんだけど俺だけ!?


 このミルクティーもサユが口を……。ゴクリ……。

 なんか味、わかんないや。


「ヒロはどう思ってるの?」

「ぶはっ!」

「ヒロ、もったいない」


 俺は盛大に吹き出した。

 ど、どどどどどう思ってるって何がだ!?


あかりが部活に参加することなんだけど」

「そっちか……」

「そっち……?」

「ああ、いや、なんでもない。月が参加するのは部員も足りないし、俺は賛成だよ」

「むぅ……」


 そんなむすっとしないでくれよ……。


 それもかわいいけどさ!本人には言わないけど!


「サユはなんでそんなに嫌なんだ?」

「ひみつ」

「なんだよそれぇ」


 先輩たちも気づいてたみたいだしなんかやだなぁ……。


「ていうか、部員があと一人きてくれないとあれ全部片づけなきゃなんだよ?」

「それはいや」

「わがままかっ!」


 テレビ、ゲーム……その他本棚等いろいろあるあれをすべて片づけなければいけない。


 ……眞智まち先輩が。


 と、とにかく!

 月じゃなくたって誰か一人は部員にしないといけないわけだ。


「とりあえず、考えはまとめとく」

「分かった。月がいやならほかの人を探すしかないけどね」

「そういえば明日、うちこない?」

「……何するつもり?」


 サユには前科があるので、ジトッと見つめる。


「ごはん、作る」

「そういうことか。なら、お邪魔しようかな」

及愛のあも連れてきて」

「了解」


 サユのご飯は久しぶりになるな。

 サユは……なんでもできるからな。



※※※



 次の日の夕方、俺は約束通りサユの家に来た。

 及愛は、おかずを一品持っていきたいそうなので、今準備している。


 ピンポーン。


 インターホンを押すが反応がない。

 あれ?おかしいな。


 ピンポーン。

 ピンポピンポピンポピンポーン。


 ここまでして反応がない。

 サユ、大丈夫かな?


 心配になり、ドアに触れてみる。

 あれ?開いてる……。


 俺は開いた扉から中に入る。


「サユー?」


 中から返事はない。


 ゴクリ。


「サユー?大丈夫ー?」


 返事はない。

 心配だ。


 俺は廊下を走りだす。

 一階の部屋を一通り見てみたが、サユの姿はない。


 二階か……?

 俺は二階に向かう。


 ふと目に入った扉が気になる。


「サユ……?」


 俺は恐る恐る扉を開けた。


「すぅ……すぅ……」


 そこには、布団に包まって寝ているサユの姿があった。


「寝てるだけか……よかった……」

「むぅ……?」

「あ、起こしちゃった?」


 いつも以上にとろんとした目をこすりながらサユが立ち上がる。

 それと同時にどんどん布団がサユから落ちていって。


 最終的に半袖のぶかぶかなTシャツ一枚(下は履いているか不明)という格好のサユが現れた。

 俺は慌てて目を逸らす。


「なんて格好してるんだよ!!」

「ふわぁ……おはよ、ヒロ……」

「呑気に挨拶してる場合か!?」


 羞恥というものはサユの中に存在しないのか……!?


「なんでこっちを見ない?」

「だってその……下、履いてるよね?」

「もちろん」

「なら、大丈夫か……?」


 信用して大丈夫だよね?この幼馴染を信用しても大丈夫だよね?

 ちゃんとショートパンツ履いてるってことでいいんだよね?


 俺は改めてサユの方を見た。


 白くてスラっとした足。

 余計な肉がまったく付いていないキュートなお腹。

 控えめとはいえ、確かに主張をしている二つの"それ"。


 なんかこれ……やばい……。


「なんでこっちを見ない」

「その……無理です」

「欲情した?」

「そういうこと言うな!!」

「大丈夫、ヒロは男の子」

「その言葉は万能じゃないっての!!」


 まったくこの幼馴染は……!


「本当に履いてる?」

「本当。信じて」

「じゃあ、見せてみ?」

「えっ」


 えっ。ってなんだよ。


「その……それはさすがに恥ずかしい……」

「サユの羞恥の基準がわからない」


 ショートパンツを見せるのが恥ずかしいの?それとも、Tシャツを捲るのが恥ずかしいの?


「どうしてもっていうなら見せる」

「どうしても」

「じゃ、じゃあわかった」


 そう言って頬を真っ赤に染めたサユがTシャツを捲り始める。

 だんだんと太ももの付け根に近づいていく。


 そうしてその先に見えたのは――


 ――真っ白なかわいいパンツだった。


「ぶふっ!」


 俺は慌てて目を逸らす。


「ちゃんと履いてたでしょ?」

「パンツの話じゃねぇぇぇぇぇよ!!」



※※※



「ほぇ……」

「おぉ……」


 俺と乃愛はただただぽかんとサユの料理を見つめることしかできなかった。


 というのも、サユは先ほど起きたばかり。つまり、料理を食べさせると言って呼んでおいて何も用意していなかったのだ。

 しかし、作り始めてからすぐに一つ目の品が出来上がり、どんどんどんどん料理が出るわ出るわ。


 まさか、ここまで料理が上手になっているとは思わなかった。


「ほい。これで出来上がり」

「「おー……」」


 たったこれだけの時間でこんなに……。

 俺と乃愛も料理が結構できる方だと思ってたけど、これは旅館とかでも余裕で出せる料理だ。


 さすがサユだね。


「食べよ」

「う、うん!」

「サユ、ありがとうね」

「お礼は食べてから」

「分かった。それじゃあ――」

「「――いただきます」」

「めしあがれ」


 サユが作った料理はかき揚げ丼、豚汁、甘酢みょうがの大根巻き、甘えびの刺身、切り菜、だし巻き卵の六品だった。そこに乃愛が作ったのっぺが加わる。


 すごい豪華な夕食になった。


「おいしいよ!サユねぇ!」

「本当だ……すごいおいしい……」

「えっへん」


 サユが小さな胸を張って答える。


「乃愛、料理上手になった」

「本当!?」

「うん。これすごくおいしい」

「サユねぇに褒められた!嬉しい!」

「よかったな乃愛」

「うん!」


 サユが引っ越す前から乃愛はちょっとした料理が作れていた。

 もともと料理が好きなのかなって俺は思ってる。


「ヒロは作らない?」

「じゃあ今度は俺が作るよ」

「やった」

「にぃの料理もおいしいよー」


 乃愛がにこにこしながら褒めてくれる。

 やる気がどんどん出てくるな。


 きっとサユも喜んでくれるだろう。

 何を作ろうかなぁ。

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