合宿!!

第25話

「ヒロ、こっち」

「わかったわかったって」


 テストが明けた週の日曜日。俺は約束通りサユとデパートに来ていた。

 今日はとてもいい天気で、気持ちがいい。


 このデパートは最寄り駅から電車で四駅ほどのところにある。

 デパートの中には、レストランや食品売り場、洋服店やゲームセンターなどなどがあった。


 もう俺の用事はもう済んだので、サユにあちこち連れまわされている。

 今は服を見ようとしているらしい。


「場所は海。今着てるこの服もいいけど、ほかのも欲しい」

「いきなりだったからなぁ……。俺も見ていこうかな」


 そう、俺たちは海に行くのだ。

 あれはいきなりのことだった。急に久美くみ先輩が言い出したのだ。

 眞智まち先輩の、つまり、倉方くらかた家が所有している別荘に合宿に行くことになったのだ。


 どういう経緯で行くことになったのかはまた後程。

 そんなこんなで、サユに引っ張られて洋服店の前にくると、気に入った服があったみたいでサユが足を止めた。


「あの服かわいい」


 サユが見た服は、マネキンが着ていてセットになっていた。


 上は白いオフショルダーニットで下はライトブルーのショートデニムだ。

 頭にはリボンが付いたキャスケットをかぶっている。


 たしかにかわいい。

 サユは現在、Aラインの白いワンピースを着ていた。

 膝まで隠れているので、タイツ等は履いていない。生足だ。


 そんなサユを横目で上から下まで眺めてみる。

 そして、もう一度マネキンを見る。


「これ、サユが着たらかわいいだろうなぁ……」

「え」

「あっ」


 つい思っていることが口に出てしまった!


 はっとしてサユを見ると目があった。

 サユは頬はほんのり赤みがかかっていた。


「いや、その……」

「本当にそう思う?」

「えっ?」

「このマネキンが着てるの、わたしが着たら似合うと思う?」


 ほんのり赤かった頬をさらに赤く染め、俺を真剣な眼差しで見つめながら聞いてくるサユ。

 俺はそんなサユにどきっと胸が高鳴るのを感じた。


「うん……。思うよ……」

「そっか……」


 そのまましばらくお互いに無言な状態が続いた。

 どう話しかければいいのかわからない……。


 とりあえず話題を振ろうと口を開く。


「ねぇサユ」「ねぇヒロ」

「「…………」」


 まさかの被り……。

 サユが転校してきた初日を思い出す。


 もう一度サユに向き直り、話しかけようとすると、


「おかぁさ~ん!ふぇ~ん!」


 誰かの泣き声が聞こえた。


「ヒロ、あそこ」


 サユが指さす方を見ると、小さな女の子がわんわん泣き喚いていた。


「迷子かな?」

「いこう」

「おう」


 迷子らしき女の子の方にサユと一緒に近づいていく。

 サユはしゃがみこむと、


「どうしたの?お父さんかお母さんは?」


 と、女の子に尋ねた。


「うわーん!」


 泣き止まないな……。


 周りの大人たちはみんな見て見ぬふりか。

 俺は私は面倒ごとに巻き込まれたくないという雰囲気が伝わってくる。

 頼りにならないな。


 俺もしゃがみこんで、女の子に尋ねる。


「お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」

「うわーん!」


 ダメか。

 するとサユが女の子の頭を撫で始めた。


「だいじょうぶ。だいじょうぶ」

「ぐすっ……ぐす……」

「だいじょうぶ。お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」

「お母さんどこか行っちゃった……ぐすっ……ふえぇん」

「だいじょうぶ。大丈夫だよ。このお兄ちゃんとわたしが一緒に探してあげる」

「ほんとぉ……?」

「うん。だから安心して」

「うんっ……」


 おお、すごい。泣き止んだ!

 サユは「よし、行こっか」というと、女の子を抱き上げた。


「なに」

「いや」


 そんなサユを見ていると、子供が子供を抱っこしているようでなんか微笑ましいと思ってしまった。

 言ったら何されるかわかんないけど。


「そういえば、お名前はなんていうの?」

理紗りさだよー」

「理紗ちゃんか」


 ちゃんと俺の質問にも答えてくれる理紗ちゃん。

 安心できる人だと思ってくれたのかな?サユってすごい。


「理紗ちゃんのお母さんいらっしゃいませんかー?」


 と、声を上げながらデパートを歩く。


 周りの人たちはちらちらと俺たちの方を見ながら逃げるように走って行ってしまう。


「あの」

「え?はい?」


 いきなり話しかけられてびっくりした。

 相手は若い男性だった。

 近くには若い女の人がいる。

 カップルなのかな?


「あっちの方で、誰かを探している女性を見かけましたよ」

「あ、ありがとうございます」

「君たち、えらいね。僕だったらこんなことできないよ。見て見ぬふりをしちゃうね」

「はぁ」

「おっとごめんね。あっちだから。気を付けてね」


 そういうと若い男性は「ごめんごめん」と言いながら、若い女性のもとに走って行った。


「ヒロ、行こ?」

「うん」


 こういう人が増えるといいなと思った。



※※※



「理紗!」

「おかぁさん!!」

「ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいのか!」


 理紗ちゃんと理紗ちゃんのお母さんは、お互いに抱き着きながら俺たちにお礼を言ってきた。


「そんな気にしないでください」

「よかったね、理紗ちゃん」

「うんっ!お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!!」

「「どういたしまして」」


 理紗ちゃんの笑顔に俺たちも思わず笑顔がこぼれる。

 見つかってよかったぁ。


 そんなことを思っていると、理紗ちゃんがなぜかこっちをじっと見つめている。


「どうしたの?」

「うん。えっとね……」

「言いたいことがあるなら言っていい」

「えっと、二人は夫婦なの?」

「えっ?」「え」

「とっても仲のいい男の人と女の人は夫婦っておとぉさんが言ってた!」

「あ、えっと」

「こらこら理紗、お兄さんたちが困ってるでしょう?」

「ごめんなさい。それじゃあまたね~!」

「あ、うん。またね」


 いつまでもこっちを振り返って手を振ってくる理紗ちゃん。

 そんな理紗ちゃんに俺もサユも笑顔で手を振り返す。


「わたしたち、夫婦に見えるかな」

「いや、それはないと思う」


 どきっとなんてしなかったし!

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