第28話
「これでよしっと」
先に着替え終わった俺は、ビーチシートやビーチパラソルを用意していた。
サユと
正直、すっごい楽しみ。
「にぃ」
「うわっ!?」
「ひゃっ!?ちょっと急に大きい声出さないでよ!びっくりするじゃん!」
「いや、いきなり話しかけられてびっくりしたもんで……。ごめん」
最初にやってきたのは乃愛だった。
いつもの短めなツインテールに花柄のワンピースの水着がよく似合っている。
「にぃ、あたしの水着どう?」
「うん。よく似合ってるよ」
「えへへ。それでね?なんかこれから水着ショーをやるんだって!」
「水着ショー?」
水着ショーってあれか?女の子が水着着て、ショーをするっていう?
ダメだ。頭が壊れてる。
「にぃ、大丈夫?」
「あ、うん」
「たぶん想像してるので合ってるよ」
「そう?」
これからみんなでやるのか?
一人ずつ?
そんなことを考えていると、乃愛が急にテンションを上げてしゃべり始めた。
「と、いうわけで!エントリーナンバー一番!!
乃愛の言葉通り、最初は久美先輩だった。
上下と左右が分かれている無地のシンプルな水着だった。
色はオレンジで活発な久美先輩にぴったりだと思う。
「どうだ?オレは動きやすいのが好きなんだ」
アピールのための一言だろうか。
とても久美先輩らしい。
「エントリーナンバー二番!!
次は月だ。
いつも通り肩甲骨と腰の間まで伸びたふわっとしたロングヘアーが綺麗だ。
パレオの付いた水色の水着を着ていて、さすがに左手首を見てもシュシュはつけていない。
「ど、どう?
頬を赤らめて、上目遣いでのそのセリフは効果抜群だった。
「に、似合ってる……」
「そ、そうっ?よかったっ」
嬉しそうにしている月を見ていると乃愛が「はいはいそこまでー」と止めに入ってきた。
「まだまだ終わっちゃいないんですよー!続いては
続いて現れたのは萌々香先輩だ。
ってあれ?
「がっかりさせちゃったかな~。僕海って嫌いなんだよね……。水に入るのが苦手でさ……」
そういう萌々香先輩は白い無地のTシャツ姿だった。下は一応水着なのか、その……。履いてないように見えてしまう。
それを察したのか、ちらっとTシャツを捲ってくる萌々香先輩。薄い緑色だ。
「水着でもやめてください」
「照屋さんなんだね~」
男ならみんな言うと思う。
「残るは二人となりました~!では続いて、
萌々香先輩に注意していると、進行役の乃愛が次に進めてしまっていた。
いちゃいちゃするなと視線で訴えてくる。
いや、別にいちゃいちゃしてないっての。
そして現れたのは眞智先輩。
ホルターネックの赤い水着だ。右頭部には造り物のひまわりが乗っている。
悪戯っぽい笑みでニタニタと笑いながら、
「どない?大翔君。似合ってる?」
眞智先輩はモデルがするようなポーズをしてくる。
大胆な人だな……。
「似合ってますよ」
「あれ?なんや冷たいな……」
ん?そうだろうか?
「それでは最後になります!最後を飾るのは
最後を飾るのはサユだった。
サユを見た瞬間思わずドキッとなった。
今までサユの水着は見たことがなかった。それはそうだ。サユと一緒に海なんて一度も来たことがなかったのだから。
そんなサユは、上下に分かれている黒い水着を着ていた。フリフリが付いていてサユらしい。
一応日焼け対策なのか麦わら帽子も被っている。
サユの真っ白で綺麗な肌に黒い水着が合わさり、肌をより一層綺麗に見せてくる。
「これでヒロもイチコロ」
「…………」
「あ、あれ?ヒロ?」
「……はっ!?」
サユの言葉に我に返る。
「本当にイチコロやったみたいやね~」
「ま、オレもかわいいと思うもん」
「なっ……!」
眞智先輩と久美先輩の言葉に思わず慌ててしまう。
サユをちらっと見ると、頬がちょっとだけ赤く染まっていた。
「い、いいからもう泳ぎましょうよ」
「せやね~」
「そうだな」
「僕はここでおとなしくしてるよ……」
俺の言葉に眞智先輩と久美先輩は頷き、海に走って行った。
一番子供っぽい。
萌々香先輩は行かないそうだ。
乃愛はそんな萌々香先輩に水を汲んできてかけていた。
水に触れたくないと言っていたくせに萌々香先輩は喜んでいた。
「ねぇ。ヒロ」
「うん?」
振り向くと、何かを持っているサユがいた。
これは……。日焼け止め?
「塗って」
「まさかとは思ったけど……。萌々香先輩に頼めば?」
「ふふふ。こっちおいで~」
「ヒロがいい」
「ぐふっ……!」
あぁ……。ただでさえ傷心だった萌々香先輩が撃沈してしまう……。
「じゃあ月に――」
「大翔くん。私にも塗って」
「ええ!?」
月まで!?
「ヒロ、はやくー」
「おい!」
サユに関してはもううつ伏せに寝転がっている。
ちゃんと背中の紐はほどいてある。
本当にやるの……?
「大翔くん」
「あーわかったよ!やればいいんでしょう!?」
寝転がっているサユの横に座って、日焼け止めのオイルを手に出す。
サユに視線を向けると目を瞑って待っていた。
白くて綺麗な肌が一緒に目に映る。
恐る恐るその背中に触れると、
「ひゃ」
サユがそんな声を上げる。
気にせずに塗ろうとするのだが手を動かす度にサユが声を上げる。
肌もすべすべだ。
「ひゃっ……んっ……」
「わざとやってるだろ!?」
「てへ」
このやろう。
「前も塗ってやろうか」
「お願い」
「ごめんなさい負けました」
「ふふふ」
勝てねぇ……。
「はい、これでおっけー」
「ありがとうヒロ」
次は月だ。
サユよりやりにくいな……。
こちらももちろん背中の紐をほどいて、うつ伏せに寝転んでいる。
「お願いします」
「はいはい……」
まずはふわっとした月のロングヘアをどかさせてもらう。
うわっ……。すごい滑らか……。
月の肌も白いな……。
って危ない!思考をそういう方向に向けたら終わる!
「ひゃっ」
背中に触れると案の定声を上げられる。
あー。八月の序列戦どうしようかなー。困ったなー。防衛できるかなー。
「ありがとう。大翔くんっ」
「どういたしまして……」
これで月も終わりだ……。
「これでさっきのは許してあげる……」
「え?何か言った?」
「ううん。なにも」
月が何か言ったような気がしたけど気のせいだったみたいだ。
「おーいちーちゃん、みーちゃん!今なら大翔くんが日焼け止め塗ってくれるってー」
「ちょっと萌々香先輩!?」
「うちらはもう塗ったから大丈夫どすえー」
「桜雪と月から恨まれたくないしな」
どうやら大丈夫だったようだ……。
今度サユに頼まれたら、絶対に前も塗りに行こう。
男のあれが目覚める?
もう気にしないね!
※※※
「いくぜー!!そおおおりゃぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
「久美。強すぎやて」
「やるからには全力だ」
現在、ビーチバレーを楽しんでいた俺たちは久美先輩の全力のスパイクに驚愕していた。
月が悲鳴を上げて避けるくらいだ。
「ちゃんと見た目通り、運動できるんですね」
「どういう意味だこら」
おう怖い……。
「久美お姉さんすごいですねっ……!」
「ふんっ。だろ?」
久美先輩&乃愛チームVS眞智先輩&月チームの対戦は久美先輩たちの方が上手だったようだ。
「次はそこのバカップルだ。かかってこい」
「カップルじゃないです」「カップルじゃない」
「は?二人して否定か?」
それはそうだ。俺とサユはカップルじゃない。
もちろん否定する。ただ、俺の否定とサユの否定は意味が異なっているのだ。
「ヒロはわたしのお婿さん」
「はーいそれも違うからー」
「やっぱバカップルだろ。なぁ眞智?」
「うちかてそないにしか見えへんな」
久美先輩の言葉に眞智先輩までもが乗っかってくる。
手に負えない……。
「……ばか」
ん?
「よし。ヒロ、やるからには勝つ」
「え?あ、うん」
気のせいかなぁ……。
「いくぜ!乃愛ちゃん!」
「はい!にぃとサユねぇには……。あれ……」
「どうした?」
「にぃとサユねぇってたしか――」
ビュン!
すさまじい音がビーチに響いた。
「え……」
「はわ……」
久美先輩と乃愛が固まってしまう。
今サーブを打ったのはサユだ。
「一点ゲット」
「ナイスー」
サユとハイタッチを交わす。
いやぁさすがだな~サユ。
「なんなん、あれ」
「さ、さぁ……私にはちょっと……」
眞智先輩と月まで呆然としている。
「あれ?俺たち何かおかしいことしました?」
「いやおかしいだろ!!なんでそんなバカみたいに早いサーブが打てるんだよ!」
「なんでって……。本気だからですよ?」
「なんでお前は平然としてんだ!!」
「俺も本気だから……?」
「まさかこいつも……」
はて?やるからには全力と最初に言っていたのは久美先輩だったはずだけど……。
「思い出しました久美お姉さん」
「何が……?」
「この二人は実は運動神経抜群なんですよ……」
「桜雪は昔体が弱かったんじゃねぇのかよ!?」
「弱かったですけど、運動神経はよかったんです……。ちょっとだけなら動いてましたから……」
「おかしいだろ……」
そうか。俺もサユもゲーマーだから運動ができないと思われていたのか。
特にサユは体が弱かったと言っていたしね。
俺は運動は嫌いだけど得意なんだ。
サユも体が弱かったとはいえ、ちょっとは動いていた。その時からすごい動きをしていたからね……。
学校の体育は休んでたけどね。
じゃあどこでサユの運動神経に気づいたかって?
それは――
「まだ負けてねぇから!こっちサーブよこせ!」
「どうぞ」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
久美先輩の全力の雄たけびがビーチに響き渡った。
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