第9話

「あら、落ちてしもたわ」

「おいぃ!?大翔ひろとお前!」

「えぇ?こういうゲームじゃないですか!?」

「あたっくちゃ~んす」

「ちょっ!あぁ!!」

「しょーり」

「「「ぐぬぬ……」」」


 今、何をしてるのかというともちろんゲームである。


 今回のゲームはマ〇オパーティー。


「ミニゲームじゃ大翔と桜雪さゆきには勝てねぇな……」

「本当やね。ほかのイベントで勝つしかないよ」

「そうは言ってもなぁ……」


 ミニゲームに勝たなければコインは手に入らない。

 イベントでコインが増えたりするが、相当な運がない限り微々たるものでしかない。


 コインとスターを交換して、スターが多い人が勝つこのゲームにおいてミニゲームで勝つことはかなり重要だろう。


「どこで勝てと……」

「そないどすなぁ……」


 そうこうしてるうちに次のミニゲーム。

 内容は神経衰弱だ。

 このミニゲームではトランプではなく、おなじみのスターやキノコを絵柄を合わせるものになっている。


 順番は……。


「あ、俺からか」

「ヒロ……から……?」

「どうした桜雪?」

「桜雪ちゃん?」


 ビリッ。


「これとこれ。これとこれ」

「なぁ桜雪……。これ、おかしくないか?」

「うちも理不尽やと思うんやけど……?」

「それは一番わたしが分かってます」

「最後にこれとこれっと」


 俺一人で全部当ててしまったため、ほかの人の番が回ってこなかったのだった。



※※※



「やってらんねぇよ……」

「本当にね……」

「う~ん今日はヒロに負けた」

「なんか久々に勝った気がする……」


 マリ〇パーティーも終わり、みんなくだぁとし始めていた。


「それにしても、この部室ってゲーム多いですね」

眞智まちがいっぱい持ってくるからな」

「あれ?そうだったんですか」


 部費かなんかで揃えてきたのかと思ってた。


「うっとこはお金持ちやからね。いろいろ買えるんよ」

「なんかしっくりきちゃいますね」

「だろ?」


 久美くみ先輩も最初は俺と同じことを思ったらしい。


 それにしたってこの大きなテレビもって……。


 ゲーム機もゲームカセットも全て眞智先輩のものだったなんて……。


「うらやましい」


 サユがぼそっと何かを呟いた。

 しかしそれは俺の耳には届かなかった。


 その時、部室の扉が盛大に開かれた。


「見つけた!非公認部活動ゲーム部!」

「えっ?」

「?」


 俺とサユは揃って首をかしげる。

 部室の扉を開け放ったのはなんと担任の竹石たけいし美津子みつこ先生だったのだ。

 しかも非公認部活動って?


「やばっ」

「ついにばれてしもたかー」


 ばれてしもたかーって何!?


「ちょ、ちょっと待ってください!非公認部活動って?」

「あら、日橋にちはし大翔くん。非公認部活動っていうのは部活動創作申請を出していない……つまり、学校に認められていない部活動のことだよ」


 俺は眞智先輩と久美先輩に視線を送る。

 二人は俺と目が合うと同時にすっと目を逸らした。


 この人たち……。


「つまり、先輩二人は申請しないで部活動をしてたってこと?」

「そうだよサユ。ていうか、二人しかいない時点でおかしかったんだよ……」

「なんで?」

「この学校の部活動って五人以上じゃないと認められないんだよ」

「わたしたちがいても足りない」

「そうなるね」


 正式に部活動を成り立たせようとしても俺たちだけじゃ足りないってわけだ。


「分かってるじゃない。それじゃあ速やかにこの教室を空けてね」

「部員、集めればいいんじゃないの?」

「たしかにそうだけど……」


 そこでまた眞智先輩と久美先輩に視線を送る。

 俺と目が合うと、二人ともこくんと頷いた。


「あと一人集めるから待ってくれまへんか?」

「この通り!」

「う~ん……。分かったわ。特別に待ってあげる。そうね……あと二週間待ってあげる」

「そないに待ってくれるんどすか?」

「特別よ」

「助かったぜ……」

「いや、久美先輩。あと一人集めなきゃなんですよ?」

「…………」

「目を逸らさないでください」


 一応当てはあるけども……。


「それじゃあほかの教師にばれないように今日はもう帰りなさい」

「分かりました」


 そう言って先生は部室を出て行った。

 大変なことになっちゃったなぁ。


「さて、どないしようか」

「そうだなぁ……」

「一応当てはありますよ」

「本当か!?」

「ヒロ」

「ん?」


 突然サユが袖を引っ張ってきた。

 視線を向けると、サユが上目遣いでこちらを見つめていた。


 その仕草にちょっとどきっとする。


「どうしたの?サユ」

「却下だよ」

「え……?」

「その当ての人は却下」

「どうして?ていうか、誰か分かってるの?」

あかりでしょ?却下だよ」


 さすが"心眼使いしんがんつかい"こういう場面でも……。ていうか、月以外に考えられないか。


「どうして却下なの?」

「どうしても」

「はは~ん桜雪そういうことか~」

「久美先輩何か分かったんですか?」

「分かったも何もまる分かりさ」

「教えてくださいよ」

「鈍感くんには教えられへんな~」

「眞智先輩まで!?」


 みんな揃ってなんなんだよ……。


「でも正直オレは入って欲しいけどな」

「うちもやな~」

「くっ」


 なんか俺の知らないところで心理戦が始まろうとしてる気がする。

 ゲーム対戦の延長がリアルに及ぶとは……。


「ま、とりあえず今日は帰るか」

「せやね~」

「分かった」

「次会うのは来週の月曜だな。来週までには覚悟を決めておいてくれよな、桜雪?」

「…………」


 戦いの火蓋は落ちなかった。

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