第30話

 ひゅ~~~~……。

 ドォーン!パラパラパラ……。


「花火きれ~い♪」

「なかなかいい感じやね~」


 花火を見て喜ぶ乃愛のあと出来の良さに感心する眞智まち先輩。

 しかしその他のみんなは呆然と空を見上げていた。


「花火ってこれですか!?」

「うん?そうどすえ?」


 たまらず声を上げた俺に、呆然と空を見上げていたサユ、あかり久美くみ先輩、萌々香ももか先輩が強く頷いている。


「線香花火だと思っていたのにまさか打ち上げ花火とは……」

「あれ?あかんかった?」


 まさかマジの職人に頼んで打ち上げ花火をするとは思ってもみなかった。

 お金持ちってすげぇ……。


「線香花火もあるで?」

「わたしやる」

「わ、私も!乃愛ちゃんもやろ?」

「わーい♪」

「オレも線香花火やろうかなっ!」

「僕も混ぜて~」


 眞智先輩の言葉にすぐに反応するみんな。訓練でもされてるのかな……。


「俺もやります」

「なに?打ち上げ花火は気に入りまへんどした?」

「いえいえ!とてもきれいでしたよもちろん!」

「そらよかったわ」


 もちろん打ち上げ花火はきれいだった。

 でもさすがにあそこまでするのは……。

 一つ一つがものすごい値段だったはずだしね……。


「みーちゃん僕と合体だ~!」

「おうけー!合体!!」

「楽しそう!」

「私たちもやる?」

「やるー!」


 萌々香先輩と久美先輩が滅茶苦茶はしゃいでいる。

 この合宿中で萌々香先輩がはしゃいでるのを初めて見た気がする。

 乃愛と月も楽しそうだ。


「はい、ヒロ。わたしたちも合体」

「うん」


 線香花火は静かに燃え、消えていった。



※※※



「次は肝試しどす!」

「「「「「「わー!」」」」」」


 花火が終わったので肝試しをすることになった。


 近くにある森に行くらしい。

 その奥にはちょっとした洞窟があり、その洞窟の中まで行って帰ってくるというものだ。


「まさか一人で行くんですか?」

「いや、ペアで行くぞ」

「くじ引きで決めるんだよ~」


 久美先輩が答えたかと思うと、すぐに萌々香先輩がくじ引き用の割り箸を取り出した。

 いつの間に準備したんだろう?


「ていうか、七人いるんですけどどうするんですか?」

「そこは三人でいこ~」


 割と適当だな……。


「そういえば、洞窟に行くだけなんですか?」

「ちゃんと中まで入れよ?」

「証拠とかは……」

「自己申告だぜ」


 割とじゃなくてかなり適当だった!


「乃愛ちゃんうちと一緒に行かへん?」

「あれ?くじ引きなんじゃないんですか?」

「どもないどもない。気にしなくてええよ」


 いや、良くないだろ。くじ引きはどこにいったんだよ本当に。


「じゃあ眞智と乃愛ちゃんは決定な」

「あ、決まるんですね」

「ま、乃愛ちゃんはいいだろ」


 それもそうか。

 先輩たちって意外と面倒見がいいんだな……。

 適当に過ごしてるけどちゃんと先輩なんだ。


「じゃあ残りはくじ引きだね~。桜雪ちゃん……うふふ」

「っ!」


 うわぁ……怖い……。

 何されるか全然予想できないのがかなり怖い。


「じゃあせーので引くよ~。準備はいい~?」

「大丈夫です」

「も、問題ない」

「私もおっけーです」

「オレもだ」

「じゃ、いくよ~。せーのっ!」


 俺の割り箸は赤だ。


「桜雪ちゃ~ん!やった~!」

「はわ……」


 萌々香先輩とサユは一緒になったようだ。

 サユがすっごい怯えてる……。


「オレと月と大翔か」

「大翔くんと一緒だっ……!」


 どうやらこっちが三人グループになったみたいだ。


「桜雪ちゃ~ん!ぎゅ~」

「むぎゅぅ……」

「えーっと……桜雪、代わろうか……?」

「お願いしまふぅ……」

「ダメだよみーちゃん!そんなことは許さない~!」

「眞智!判定は!」

伊花いはな先輩、ギルティ!」

「なんで~~~!!」


 ということで結局俺とサユと月の三人。久美先輩と萌々香先輩。乃愛と眞智先輩という振り分けになった。

 でもなんだろう……何か――


「ヒロ……ぎゅ」

「はいはい怖かったねー」


 考えようとしていたところにサユが来た。

 たしかに萌々香先輩は怖いけど、わかってるのかな?これから肝試しだってこと。


「桜雪ちゃんばっかり……」


 月の呟いた言葉は、誰にも届かなかった。



※※※



「も、もう無理……帰る……」

「ダメだよサユ。大丈夫だって。俺も月もいるから」

「桜雪ちゃんが怖いの苦手なんてなんか意外だな~」


 俺とサユと月で暗い道を歩く。

 一応ほぼまっすぐなので迷うことはないが、怖いものは怖い。

 舗装されてはいない道に、両側は森と来たもんだ。そりゃ怖い。

 それに、懐中電灯は俺が持っているもの一つだけ。

 懐中電灯の光が、より肝試しをしているという実感を持たせている。


 サユの場合はその上、お化けとかそういうのが苦手というオプションまでついてくる。

 そんなサユは、俺の左腕にぎゅっとしがみついて離れない。

 一歩進むたびに柔らかいものが当たっているのが気になって仕方ないのだが……。


「月は大丈夫なんだね」

「うん。怖いのは得意なんだ」

「こちらとしてはすごく助かるよ……」

「桜雪ちゃんがそんなんだもんね」


 俺の苦笑に月も苦笑を返してくる。

 今もサユは俺の左腕にしがみつきながら震えている。


 最初は俺もびっくりしたもんだ。

 なんでもできて、怖いものが無いように見えるサユが、まさかお化けが苦手だなんて。


 ガサガサッ!


「っ!っ!」

「痛い痛い!鳥だって鳥!」


 何か些細な物音がするだけで俺の腕を引っ張ったり叩いたりしてくるので痛い。

 そのまま道を外れないように歩いていく。

 すると、右腕に柔らかな感触がした。


「って、月!?」

「もし、道から逸れちゃってはぐれたらさすがに怖いもん……」

「そ、そう……」


 これが両手に花っていうやつか。

 できればもっと違う状況で味わいたかったのだが。


 ……やはり月の方が大きいか。


「星、見えないね」

「木が邪魔だもんな」


 不意に空を見上げた月が、残念そうに顔を顰めた。


「今日はね、月が綺麗なんだって」

「そ、そうか……」


 その言葉って――


「あ、あれじゃない?洞窟って」

「あ、本当だ。サユ、洞窟が見えてきたぞ」

「…………」


 サユは無言でコクコクと頷いた。


 が、すぐにその首を左右に振ることになった。


「入らなきゃダメだよ桜雪ちゃん。一応ルールなんだから」

「や、やだ……」

「一人で待ってる?」

「もっといや……」

「じゃあ大翔くんに捕まってていいから来てね?」

「…………」


 ただでさえ少ないサユの口数があり得ないほど減っている。

 小さい時は口を開こうとすらしなかったから良くなった方だ。

 月の説得により、俺の左腕により強い力で引っ付いたサユと余裕そうな表情の月と共に洞窟に入る。


 出入口から思っていたことだが、やたらと綺麗な洞窟だ。

 たぶん人の手によって作られたものなんだろうな。


 入ってからすぐに行き止まりになったので、Uターンをして来た道を戻る。


「あれ?」

「月、どうした?」


 出入口が見えてきたところで、月が急に立ち止まった。

 首を傾げてあごに指を当てている月は、洞窟の出入口を見ていた。


「こんなの貼ってあったっけ?」

「どれ?」


 そこにはボロボロの紙が貼ってあった。

 今も懐中電灯を持っているのは俺だが、暗闇に目が慣れていたからか、その紙は照らす前にも見えた。


 懐中電灯を当てて、その紙を見てみると文字が書いてあった。



『憑  かれ よう を けろ』



「入るときは気づかなかったけどな……」

「だよね。私もそう」

「サユはどう?」

「っ!っ!」


 サユは首をブンブン振った。

 凄まじい拒絶反応……。


「大翔くん、どう思う?」

「う~ん……。なんとも言えないなぁ……」

「っ!っ!」

「痛い痛いって!わかったから!月、行こう」

「うん」


 サユが腕を引っ張ってきて痛いので、紙のことはあまり気にせず、そのまま引き返した。



※※※



 そのまま肝試しは終わり、別荘に戻ってきた俺たちは、お風呂に入る順番を決めるところだった。


「乃愛ちゃん一緒に入ろうな~」

「はい!眞智お姉さん!」

「オレもそっち行くぜ」

「僕は桜雪ちゃんと――」

「もちろん伊花先輩もこっちだぜ」

「みーちゃんのいけず~!」


 先輩三人と乃愛は先にお風呂に行ってしまった。

 サユと月が二人で入るんだ。俺には関係ないけどアンバランスだな。


「ヒロ、一緒に入る?」

「戻ってきたから絶好調だね、サユ」

「えっへん」


 すっかりと元に戻ったサユ。

 元気なのはいいんだけどそういうのは勘弁していただきたいところ。


「あ、私着替え準備しに行くね」

「わかった」

「てら」


 そう言うと、月は自分が使用する部屋に戻って行った。


「で、どうするヒロ。一緒に入る?」

「やめておく」

「この間も一緒に入ったのに」

「サユが勝手に入ってきたんじゃん!」


 実は、サユは何回か俺の入浴中に乱入している。

 水着ならまだしも、タオル一枚という状況は本当につらい。理性が。


「前から言ってるけどね、そういうことは――」

「きゃぁー!!」

「「っ!?」」


 その時、誰かの悲鳴が聞こえた。


「サユ、今のって!」

「月!」


 俺たちは、急いで月のもとに向かった。

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