第13話

 カチャッカチャカチャッ。


 コントローラーの音だけが部屋に響く中、どうしても気になるのか久美くみ先輩が俺に声を掛けてきた。


「なぁなぁ。あかりって桜雪さゆきに勝てんのか?」

「さぁ……?月のゲームの腕は未知数なので」

「これでもし桜雪が勝ったらどうすんだよ!」

「いや、俺に言われましても……」

「なんとかしろよ!彼氏だろ!?」

「違いますけど……」

「じゃあなんとかしろよ!」

「理不尽だ!!」


 久美先輩が壊れた!!


 こんなに焦っている先輩は初めて見た。

 久美先輩はそんなに焦るような人には見えないけど、人は見かけにはよらないなぁ。


 そんな先輩を安心させようと、俺は先輩に言った。


「大丈夫ですよ、先輩」

「何がだよ!」

「サユは最初に入部試験を忘れていると教えてくれました」

「それがどうしたんだよ!」

「月を追い返すのではなく、です」

「!」

「たぶん勝っても入部させるんじゃないですかね」


 たぶんだよたぶん。

 もしかしたら追い返すかも。

 口には出さないけど。


「桜雪ちゃんの中でちゃんと整理がついたんやね~」

「そうだと思います」


 眞智先輩がほっとした表情で桜雪を見つめていた。

 そんなことを話してる間にもゲームは進む。


 俺が見てもこのゲーム、どっちが有利でどっちが不利なのかさっぱりわからない。

 俺はこの手のゲームが本当に苦手だからね。

 サユの苦手とは違ってもうほぼ無理に近いからね。


 お互いにぷ〇が積み重なっている。

 さすがにそろそろ連鎖を始めないといけない頃だろう。


 お馴染みの掛け声の中で連鎖が始まる。

 まず連鎖を始めたのは、サユだ。


 また久美先輩が俺に声を掛けてくる。


「なぁ、このゲームって最初に連鎖する方が基本的に負けるんじゃなかったか?」

「たしかにそう言われてますね」

「え、そやの?」

「まぁ上級者同士の戦いになるとですけど」


 連鎖に入ると、〇よが全部消えるまでに時間が掛かる。

 自分が連鎖してる間、相手はさらに〇よを積み上げてもっと大きな連鎖にできるということだ。

 相手が大きな連鎖をしている間に積み上げればいいのでは?と思う方もいるかもしれないが、こちらはゼロから積み上げていかなければいけない。


 スタートは同時なので、最初は同時に積み上げていくが、一度連鎖をすればほぼゼロの状態から積み上げなければならない。

 相手の大きな連鎖中に積み上げられたとしても、そのゼロの状態から始まる連鎖では相手の連鎖を返すには小さすぎるのだ。


「そないなんやぁ~なるほどねぇ~」

「サユの連鎖が終わったぞ」


 画面を見るとサユの連鎖が終わって、月が連鎖を返しているところだった。

 その間にサユは次の連鎖のためにぷ〇を積み上げていく。

 たとえここでサユが負けたとしても、二本先取だからまだ大丈夫だ。

 でも、最初に取るのと後になるのでは全然違うだろう。


 その間にも、月が放った連鎖はどんどん数字を伸ばしている。

 月ってこんなにこのゲームが上手かったのか……。


「…………」


 ふと、サユの方を見てみると様子がおかしい。

 何か別のことを考えているように見える。

 サユがゲームに集中しないでほかのことを考えるなんて珍しい。


 そのまま一回戦はサユが負けてしまった。


「おい、桜雪が負けたぞ……?」

「そうですね……」


 何か考え込んでいるサユ。

 その心は、どこかで見たことあると考えているようだ。


 そしてその気持ちがわかった俺も同じことを思う。

 月のぷ〇の積み方は、個性的でかつ見たことがある気がした。


「桜雪ちゃん、もう一戦でしょ?」

「もう一戦じゃない」

「え?」

「あと、二戦」


 二人が短い会話を交わすと、二回戦が始まった。

 サユがクセ毛をいじり始めた。


 ここからか……。


 対戦がスタートし、二人そろって連鎖を多くしようと積み上げる。

 サユの読みは、連鎖を作る工程でも効果が発揮するのか……。


「また桜雪ちゃんが先に連鎖したはるよ!?」

「大丈夫なのかよ!?」

「これは……」


 サユの連鎖が始まったら、月が連鎖を返すために連鎖を始めた。

 しかし……。


「これっ!三連鎖で止まるじゃんか!」

「本当や!」


 これは俺でも分かった。

 サユの連鎖は途中で止まるようになっていたのだ。


「あっちゃー……やっちゃった……」

「次、三戦目」


 二回戦はサユが勝った。


「桜雪が勝ったぞ……!」

「三回戦はどっちが勝つんやろうね……!」

「やっぱり……なんか……」


 絶対におかしい。

 月の連鎖の組み方。こんな個性的な組み方をする人なんてそうはいないだろう。

 でも、見たことがある。


 そこで、月が左手首を触る。

 そこにはいつもの黄色いシュシュが……。


 黄色のシュシュ……?


「今回は月が連鎖を先に……!」

「お互いにフェイントやね」


 俺が思索に耽っているとゲームが進んでいた。

 お互いにフェイントをかけつつ連鎖するタイミングを見計らっている。


 そして、月がまた連鎖を始めた。

 そこでサユもまた連鎖を始める。


 ところが月の連鎖はフェイントだった。


「っ」

「いける……!」

「まだっ」


 サユが月の連鎖を返す。

 それをさらに月が返す。

 これを何度も何度も繰り返す。


「これって世界大会やなんかやっけ?」

「いや、入部試験だったはずだが……」


 そして――


「ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


 決着が着いた。


 勝ったのは――


「わたしの負け……」

「桜雪ちゃん強いね……!」


 ――月だった。


「月が勝ったぞ……」

「桜雪ちゃんに……勝ってしもた……」


 まさかサユに勝っちゃうなんて……!


「ねぇ月」

「なに?」

「何か、隠してるでしょ?」

「っ!?」

「さっきの連鎖の組み方、左手首の黄色いシュシュ。まるで、"オルゲ"三十四位の"ルナ"みたい」

「なんで……それを……?」

「わたしも"オルゲ"だから」

「桜雪ちゃんも……?」


 そうか。そうだったのか。

 個性的なのに見たことがある連鎖の組み方。

 左手首に黄色のシュシュ。


 "オールラウンドゲーマーズ"三十四位の"ルナ"こそが、月だったんだな……。


「はいはい!それは置いといて、月は部活に入るのか?」

「ダメでしょうか?」

「合格やからあとはあんさんの意思だけよ」

「じゃあ、入りたいです!」

「おう、これからよろしくな!」

「桜雪ちゃんもそれでええよね?」

「問題ない」

「じゃあ決まりだな」


 こうして月は部員の一員となったのだった。



※※※



「そっか、じゃあ部員揃ったのね」

「はい、揃いました」


 あの後、俺たちは竹石たけいし先生の元へ部活動申請に来ていた。


「じゃあこれで五人ね。おめでとう」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「よろしくお願いします!」

「うんうん。元気でよろしい。じゃあこの申請用紙に部長と部員、そして顧問の名前を書いてね?」


 そこで俺たちはフリーズした。

 最初に声を開いたのは眞智先輩と久美先輩だった。


「部長だって!?」「部長やて!?」

「そっちじゃないですよ!問題なのは顧問の方です!!」


 この部活動が正式な部活動になるには、まだ時間が掛かりそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る