第12話

「おはよっ!大翔ひろとくんっ!桜雪さゆきちゃんっ!」

あかり、おはよ」

「月、おはよう」


 次の日の朝。

 いつも通り月と会い、三人で登校する。


 今年は遅い梅雨入りみたいで、ようやく雨が降っていた。


「雨降ってきちゃったねー」

「梅雨入りしたみたいだからね」

「梅雨になると髪セットするの大変なんだよねぇ~。桜雪ちゃんはどう?」

「問題ない」

「うっそー?ちょっと触らせて?」


 そう言ってサユの髪を触り始める月。


 サユの銀髪は相変わらず綺麗だ。

 月のロングヘアもすごく綺麗だなぁ。


「すっごい……!さらさらだ!」

「えっへん」

「どういう風にしてるの?教えて!?」

「特に何も」

「信じられない!!」


 月はぷくーっと頬を膨らませ、サユの髪をそのまま触りながら学校まで歩いたのだった。

 どっちも綺麗だからいいと思うだけど、本人に言ったらたぶん怒られるやつだ。


 教室に入ると、今日は祐樹がいなかった。

 朝練なのかな?

 なぜ晴れの日は朝練がないのに雨の日はあるのか。


「…………」

「…………」

「…………」


 …………。


「いないといないで、やることがなくなって暇だよね」

「わたしも同じこと思った」

「奇遇だね。私もだよ……」


 いじれらキャラのあいつは割と重要な存在だったようだ。


「UNOでもやる?」

「やる」

「私もー」


 俺たちは結局どこでもゲームだった。


 そんなことを思いながらカードを配っていく。


「じゃあ順番はじゃんけんで」

「りょーかい」

「おっけー」


 二人の了承を得て、みんな手を出す。


 それじゃあ……。


「最初はグー!じゃんけん――」


「「「ぽん!!」」


「負けたかぁ」

「しょーり」

「桜雪ちゃんからね」

「じゃあ時計回りでいい?」

「いいよ~」


 順番はサユ、月、俺ということになった。


「さぁ――」

「絶対言うと思った。何回目だよ」

「しょぼーん」


 気を取り直してまず、サユがカードを机に出した。


 そのまま順番にカードを出していく。

 パスなどを含みながらも順調に進んでいたのだが……。


「ふふふ……。いくよ!!」

「「!」」


 月がドロー2を出したことにより空気が変わった。

 次は俺の番になる。


 俺は月が出したドロー2に重ねてドロー2を出した。

 続いてサユがドロー2を出し、さらに月がドロー2を出す。


 あたりに緊張が漂いながら、お互いに相手の様子をちらちらと伺う。


 サユは相変わらずの無表情だからわかりずらいけど俺にはわかる。

 まだドロー2を持っているだろう。

 問題は月の方だ。


 最初に仕掛けてきたのは月というのが重要になってくるだろう。

 最初にやっているから勝てるという自信があるのだろう。


 ただ、相手が悪かったな!


 俺はドロー2を出した。

 それに応じてサユもドロー2を出す。


 さて、月は……。


「ふふっ」

「っ!」


 笑っている……だと……!?


「ごめんね~」

「まさか……」


 そう言って月はドロー2を出してきた。


「なんちゃってね」

「えっ?」


 俺は月に答えるようにドロー2を出した!

 それに対してサユは当然のように無表情でドロー2を出す。


 もう無理だろう!


「こちらこそ――」


 そう言いながら月は手札から……。


「――なんちゃって、だよ?」


 ドロー2を出した。


「…………」

「…………」

「…………」


 キーンコーンカーンコーン。


 虚しくチャイムの音が鳴ったのだった。



※※※



「それでー?桜雪、決めたのか?」

「今、考えてる」

「いや、ゲームの話じゃなくてな……?」

「ん」

「部員だよ部員!!」

「い、今考えてる」

「嘘つけ!!」


 これまたいつも通り部室に来て、先輩二人とゲームをしていた俺たちだったが、チェスをしていたサユと久美くみ先輩の方から声が上がった。


「まぁまぁ落ち着いて。待つって言わはったんやからちゃんと待ってなよ」

「そうは言ってもなぁ……」

「今は焦ってもしょうがへんって。久美はもういらちなんやから」

「う~ん……」

「チェック」

「なに!?」

「集中せんから……」

「こっちも王手です」

「うそ!?」

「集中しないからだぞ」


 眞智まち先輩と久美先輩が腕を組んで考え始める。

 ちらっとサユを見るとクセ毛をいじっていた。


 読み切ってる感じだなぁ……あれ。

 久美先輩、お気の毒に……。


 まぁこっちもこっちで眞智先輩詰んでるから俺の勝ちなんだけどね。


「チェック……」

「チェック」

「……チェック」

「チェック」

「チェ、チェック……」

「チェックメイト」

「くっ……」


 久美先輩が駒を動かして置いた瞬間にサユが駒を動かすという精神的にも追い詰める終わり方でサユが勝っていた。


「こう?」

「王手です」

「こうかいな?」

「王手です」

「…………」

「それも王手です」

「詰んでるやないの!」

「すみません」

「負けました……」


 俺も眞智先輩に圧倒的勝利を収めていた。


「やっぱり勝てないよなぁ……」

「二人とも強すぎやもんねぇ……」


 先輩二人はそろって項垂れていた。


「こういうゲームで勝てないなら、二人は推理ゲームは得意か?」

「俺はあんまり……」

「よくわからない」

「そうか。じゃあやってみるか」

「いいですよ!」

「どーんとこーい」

「よしじゃあ――」


 その時、部室の扉が開いた。


「やっと見つけました!ゲーム部!」

「げっ!ってなんだ……?」

「どちらさんどすか?」

「初めまして。私は風祭かざまつり月といいます。そこにいる二人と同じクラスです」

「もしかして大翔が言ってた子ってこの子か?」

「何か大翔くんから聞いてたんですか?」

「まぁ、一応」

「それなら何も言わなくていいですね!」


 そう言うと月はにこっと笑った。


「入部させてください!」

「是非入部してくれ!」

「うちからもお願い!」

「ありがとうございます!!」


 なんかすぐに入部が決まってるー!?

 ていうかどうしてここに!?


「待って」

「なんだよ桜雪。文句あるのか?」


 文句というか質問があるよねたくさん!


「ある。大あり」


 うんうん!


「どうしたん?」


 言ってやるんだ!どうした月はここに――


「入部試験」

「「あっ」」


 そっちか!!

 ていうかこの先輩二人……本気で忘れてたのか……。


「じゃあオレと――」

「いや、うちと――」

「わたしがやる」

「桜雪!?」「桜雪ちゃん!?」「サユが!?」


 サユのまさかの宣言に俺と先輩二人が同時に声を上げる。

 サユが相手なんてしたら相当強くないと勝てない。

 これは月を部活に入れないと言っているようなものだ。


 それもやばいけど月はどうしてここが――


「それはダメ」

「そんなことはないはず。だって最初に言ってた。部員であるどちらかに勝つだけ。わたしも部員。問題ないでしょ?」

「た、たしかにそないや……」

「だから、わたしがやる」


 サユの言葉に何も言えなくなる先輩二人。

 でも、月はどう思うのだろう。


 月はサユの将棋の腕を知っている。

 ゲームにいることからゲームが結構できることも知っているだろう。

 それでも承諾するのか……。


 あれ?そういえば月に何か聞こうとしてたような?


「いいですよそれで!桜雪ちゃんと勝負!」

「いいのか?」

「もちろん!絶対負けないから!」

「わたしこそ、負けない」


 そう言ってお互い睨み合う。

 二人の後ろには燃え盛る炎が見えそうだ。


「ゲームの内容は月が決めていい」

「いいの?」

「そういうルール」

「じゃあぷ〇ぷ〇で勝負!」

「〇よ〇よりょーかい」


 サユが準備を始めた。

 その間先輩たちはこそこそと桜雪負けてくれねぇかなーとか桜雪ちゃん負けてちょうやいねーと言っていたのは聞かなかったことにしよう。


「準備完了。はい、コントローラー」

「ありがとう!」

「それじゃあ――」

「いつでもいいよ!」

「「よろしくお願いします!!」」


 対戦が始まった。

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