第21話
ピンポーン。
「やっぱり寝てるのか……」
土曜日になった今日。サユの家に
前日はゲームでたくさん遊んでいたせいで、寝るのが好きなサユはもちろん起きてこない。オルゲの序列戦はというと、俺たちの番ではなかった。月初めに行われる序列戦だが、もちろん一日で終わるわけもなく何日かに分けて行われる。
俺たちは一日目である昨日に、掛からなかったのだ。
「お邪魔しますよーっと」
と、いうわけで合鍵を使ってサユの家に侵入。
さてと、部屋に向かおうか……。
「失礼しまーす……」
そこには布団が敷いてあり、サユと月がすやすやと眠っていた。
サユがなぜか抱き枕を抱きしめているのだが、買ったのだろうか?
「二人とも起きろー」
「んむぅ……」
「すぅすぅ……」
月はちょっと動いたけどサユはぴくりともしないですぅすぅ眠っている。
なんか、すっごく悪いことをしているみたいな気がしてきた……。
「
「ん?」
月が布団からゆっくりと出てきた。
「ぶふっ!」
月を見た俺は思わず噴き出した。そのまますぐに後ろを向く。
というのも、月はただのパジャマを着ているのだが、そのパジャマがこれでもかというほどはだけてしまっていたのだ。
綺麗な鎖骨のラインが頭の中に鮮明に残っている。
ブラジャーの肩紐が見えなかったのが一番俺の中でもやもやした疑問となっているが、そんなことは些細な事だ。今はこの状況を打破しなければ。
「月!服!服!!」
「わふぅ……」
「聞いちゃいねぇ……」
月の気配がどんどん迫ってくる。
やばいやばい!
俺は部屋を出ようとして、一歩踏み出した。
しかし、その瞬間背中に柔らかい感触が……。
「ひ~ろ~と~く~んっ」
「っ!」
甘ったるい月の声が耳を擽る。
そのまま抱きしめられてしまった。
「うふ~♪あったかい~い♪」
「っ!っ!」
俺の背中に月が頬をぐりぐりしてくる。
その度に月の体も動くので、柔らかい二つの"それ"がむにゅむにゅ当たっている。
「何してる」
「っ!!」
その時、サユの声が聞こえた。
ものすごい鋭い目つきでこちらを睨めつけている。
「昨晩、お楽しみ……?」
「違う!そんなことはしていない!」
「ふーん」
「疑ってる!?」
怖い。サユが怖い。
いつもの淡々とした言葉の中にある温かみがまったく感じられない。
「早く、離れればいい」
「……!!」
俺は月を剥がそうとするのだが、まったく離れない。
というか、必死の剥がそうとするたびに強く抱きしめてくる。
「大翔くぅん……おやすみ……」
「寝るな!頼むから寝ないで!ねぇ!俺が永遠に眠ることになっちゃうからっ!」
「ヒ~ロ~……?」
「ひっ……!」
誰か助けて!!
※※※
「大翔くんごめんね?」
「あ、うん。大丈夫……」
「ふん」
「ねぇにぃ?一体何があったっていうの……?」
まさか月が朝に弱いとは思わなかった。
寝るの大好きなサユは、たっぷり寝るからなのか寝起きがいい。そのせいで機嫌が悪くなってしまっているのだが……。
「ねぇサユ、いい加減機嫌直してよ」
「ふんっ」
サユに素っ気ない態度を取られるなんて初めてだからどうしていいのかさっぱりわからない。
泣きそう……。
「今度デパートに買い物行くの付き合って欲しいんだけどダメ?」
「……行く」
「よかった」
やっとサユが口を聞いてくれた。
乃愛のアイコンタクトのおかげだな。
その間も乃愛は月に何やらアイコンタクトをしていた。
女の子の心はわからないなぁ……。
……あとで、乃愛にケーキをあげよう。
「それで、今日は"オルゲ"の対戦入ってるわけだけどどうするの?」
「練習、する」
「そう言って昨日しなかったけどな」
「大翔くんを筆頭にね」
「みんなのりのりだったじゃんか」
「そうだけど……」
実際楽しかったし仕方ないね。
そして今日は"オルゲ"の対戦。
俺もサユも月も対戦がある。
今日は挑まれる側だ。順位が高い人から順に対戦していくことになる。
俺はたしか、七十一位の人と対戦してそのあとに九十四位の人だったかな?
「わたし、今日一人しかいない」
「俺は二人だな。終わったらほかの人のを見るしかないでしょ」
「私はちょっと気になるのがあるからそれ見ようかな~」
「月が気になるプレイヤーって俺も気になるんだけど」
「パズルゲーム?」
「違うよ。格闘ゲーム」
月が得意なパズルゲームのプレイヤーかと思ったら違うようだ。
「でも、最初は大翔くんの対戦見ようかな」
「プレッシャーだなぁ……」
実は"オルゲ"の対戦はみんなできるだけ生放送するように言われている。
"オルゲ"に登録すると生放送用のソフトが配られる。それで対戦中は生放送をするように言われているのだ。
公式がそれをミラーしたり、気になるところを実況したりする。
"オルゲ"の中にはもともと実況をしていた人たちがいるので、対戦中自分で実況している人もいる。
月は"オルゲ"に入ってから実況を始めた人だ。
俺とサユはゲーム画面だけとなっている。
「わたしも見る」
「やめて!」
※※※
『さぁここは"カケル"選手得意のFPSですが、どうなりますかねぇ?』
『いつものミラクルショットで決めてくれることでしょう』
『対する相手は序列九十四位。得意なゲームはFPSとのことですが』
『たしかに立ち回りも綺麗ですしエイムもいいですが、"カケル"選手には及ばないですね』
私、
公式枠では現在、"カケル"……つまり、大翔くんの対戦を実況中だった。
私と
大翔くんも一回戦は七十一位の人と対戦して、二連勝で終わった。
この試合もこのFPSで勝てば、合計二勝で大翔くんの勝ちとなる。
いつものあれがでるのか、私はどうしても確認しておきたかった。
※※※
『おっと出ました!"カケル"選手のミラクルショット!』
『素晴らしいですね。これなのに二つ名があれなのも気になります』
『そのうち気づく人が増えてくるのではないでしょうか?』
『それもそうですね』
わたし、
公式枠では現在、"カケル"……つまり、ヒロの対戦を実況中。
わたしと月は無事勝利を収めたから、きっと月もこの放送を見てる。
ヒロは一回戦の時もミラクルショットで決めていた。
これ、自分では一体どう思っているのだろう。
わたしは――
※※※
『今回も五十六位を無事守り抜いた"カケル"選手ですが、明日は挑戦もするようで?』
『そのようですね。一体どんな試合になるのか、楽しみです』
『それでは、次の放送見てみましょう』
ビリッとした感覚。いつもそうだった。
これが来た時には体が勝手に動いて、決着がついている。
でも、俺のゲームセンスはいたって平凡。可もなく不可もなく、だいたい普通。
普通の基準は人それぞれだが、ガチ勢にはぼこぼこにされ、エンジョイ勢には完勝する、くらいと言うとわかりやすいだろうか?
『こちら、"モエ"選手ですね』
『いつの間にか順位を上げて二十七位になっていますね』
『今回も上位のものに挑戦するそうですが?』
『まずこの試合に勝てなくてはいけませんが、きっとどちらも勝ってしまうんでしょうね』
『といった具合に期待が高まっています』
その結果の二つ名だから俺はいいんだけど、なかなか二つ名で呼ばれたくないものだ。
サユと月は誰に挑戦するんだろうか。上位にはどんな人がいるのか。ふと気になった俺は公式枠の生放送が映っているパソコンの画面を見た。
『出ました!!"モエ"選手のアレンジ!』
『相変わらず綺麗なアレンジですねぇ~』
俺は驚いた。やっていたのはリズムゲームだったのだが、叩かなくていいところでばんばん叩いてしまうというものだった。ただ叩いているだけではなく、その曲に合うように叩いているのだ。
それは、そのプレイヤーの演奏がその曲に混じったような……。
俺はその曲にしばらく魅了された。
こんな相手が上位にはたくさんいるのか……。
そんな上位の一角である二十三位の"ユキザクラ"ことサユとよくゲームができる俺は幸せ者だな。
俺とサユの勝率は五分五分。
長年の付き合いでお互い何をしようとしているのか、だいたいわかるからというのが大きいだろうけどね。
今回の序列戦で、順位はどう変化するのだろうか。
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