心眼使い《しんがんつかい》

第1話

「ぐすっ……」

「ダメだ。これは没収だ」

「なんでですか!?」


 隣では幼馴染が泣いている。

 ゲームで俺と一緒に遊ぶために習い事をさぼったから。

 大事な携帯ゲーム機を取り上げられそうになっている。


 俺は一生懸命に幼馴染であるサユちゃんの親に反抗を試みるが、


「こんなものがあるから習い事をさぼるんだ。これでは立派な女性になれない」


 立派になれない立派になれないってそればっかり言って。


「うちはお婿さんをもらわなければならない。そんな時こんな女の子ではそれも無理であろう?」


 まだ小学校二年生だっていうのに。

 そこまでする必要があるのか。


 習い事習い事ってそればっかり。


「だからこれは没収だ」

「そんなことはない!!」


 気が付いたら俺は大声で怒鳴っていた。


「なにがだね」

「立派な女性になれないなんてそんなことはない!!」

「なぜそう言える」


 俺はこいつにサユちゃんの良さを教えてやろうと思った。


 こいつは親のくせに自分の娘がどれだけすごいか分かっちゃいない。


「この間サユちゃんの手料理を食べたけどものすごいおいしかった!レストランで出る料理よりずっと!それに部屋の掃除も手伝ってくれた!俺がやるより何倍も早くてびっくりしたよ!そんなすごい子なんだよ!サユちゃんは!!」

「それでもお婿さんをもらえなければ意味がない」


 お婿さんお婿さんって。


「だったら!!」


 俺は今までで一番大きい声で叫んだ。


「誰もお婿さんに来なかったら、俺がお婿さんになってやる!」



※※※



「夢か……」


 それにしても懐かしい夢を見たな。

 もう四年も経ったのか。


 サユか……。今何してるのかな……。また、一緒にゲームしたいな……。


 そんなことを考えていると、部屋の扉が開けられた。

 そこには、私服の上にエプロンを着た小さな女の子がいた。


「にぃ!早く起きてご飯食べないと……って起きてたんならさっさと下来てご飯食べてよっ。あたしまで遅れたらどうするの?」

「ごめん乃愛のあ

「もう!しっかりしてよねっ!」


 乃愛が朝ごはん担当の日はついつい寝すぎてしまう。

 妹の乃愛は小学五年生。それなのに家事をしっかりこなせちゃう自慢の妹だ。

 ついでに俺も起こしに来てくれちゃうから寝すぎちゃうのも仕方ないよね!


「にぃ。隣の人、引っ越し終わったのかなー?」

「さぁ?」


 乃愛が作ってくれた朝ごはんを食べながら他愛もない話を楽しむ。

 こんな朝の日課が俺は大好きだ。


「まだもう少しかかりそうな気もするけどね」

「にぃもそう思う?」

「まぁそのうち挨拶に来るよ。その時は頼むね」

「任せときなって!」


 実に頼りになる妹で兄として鼻が高い。


「ねぇ及愛。まだ父さんと母さんって帰ってこないんだっけ?」

「そうだねー。あと一週間かな?」

「そういえばそうだった」


 俺たちの両親は仕事で基本的には家にいない。

 父はかなりのお偉いさん(らしい)で母はその秘書をやっているのだ。


「ところで、にぃは昨日の夜何してたの?」

「あぁ……。ゲームだよ」

「またゲーム?勉強もちゃんとしてよねっ!」

「も、もちろん!」


 今度は今より高い点数を取らなければならなそうだ。

 ますます"オルゲ"の上位を狙えないじゃないか。


 でも乃愛に無視されるようになるのは……つらい。


「乃愛はテストどうだったの?」

「ふふーん!ほらっ!」

「おぉ……!」


 乃愛が胸を張って出したきたテストはどれも百点満点だった。

 準備してあったってことは最初から自慢したかっただけだな?

 俺は及愛の頭を優しくなでる。


「えらいぞ」

「子ども扱いしないでよねっ!これを見習ってにぃも頑張る!いいね?」

「はい」


 今より高い点数じゃダメだ。

 今なんか比べ物にならないくらい良い点数を取らなきゃ。


「いってきます」


 ご飯を食べ終え、乃愛と登校をしていた俺は乃愛と途中で別れ、一人で高校に向かっていた。


 部活に入らなかったためにゲームの時間はまったく変わることなく、なんの問題もなく日々を過ごしている。

 そんなよく晴れた日の登校日。


「お、おはよっ!大翔ひろとくんっ」

あかり、おはよ」


 この女の子はクラスメイトの風祭かざまつり月。左手首に黄色のシュシュをつけている。

 体育の時になるとそのシュシュでゆるふわロングの黒い髪をまとめる。


 あのシュシュ、月に出会う前から見たことあると思うんだけど気のせいかなぁ。


「結局、大翔くんの隣にはどんな人が引っ越してきたの?」

「まだ挨拶に来てないし、わかんないね」


 なんで月までうちの隣に越してきた人が気になるのだろうか。


「じゃあ、こっちから挨拶に行けばいいんじゃない?」

「なんでそうなるの!?」

「サプライズ?」

「知らない人にサプライズする!?」


 月は「ん~」と首を傾げ、あごに指を当てるというかわいらしい仕草をしながら考え事を始めた。


 月がこの仕草をするときは的外れな言葉か、的を射た言葉が発せられる。

 今回は――


「じゃあプレゼント?」

「その頭はボケ以外に使え!!」



※※※



「よっ!大翔、月」

「おはよう祐樹ゆうき

「おはよっ!祐樹くんっ」


 こいつは中学の時に妙に気が合った友人で名前を谷治やじ祐樹という。

 学校では普段こいつと月と一緒にいることが多い。


「今日は朝練ないのか?」

「ないから俺と将棋しよーぜ」

「またぁ?」


 祐樹は野球部に所属しているから普段は朝練があるのだが、将棋が好きで将棋部にも入っていて、朝練がない時はいつも俺に対局を申し込んでくる。

 だが、祐樹は将棋が弱い。

 中間テスト明けだからって調子に乗ってるな?


「私も将棋したいっ」

「いやもう時間だしまた今度がいいんじゃない?」

「お前らいつもそうやって仲良くイチャイチャしやがってー。いい加減付き合えよー」


 ゲシッ。


「イッテェ!!」


 月の蹴りが祐樹の脛にヒット!祐樹はかなりのダメージを受けた!


 普段はおとなしいのに祐樹が変なことを言うと容赦なく攻撃するのが月だ。ちょっと怖い……。


「今ので思い出したけど今日このクラスに転校生が来るんだってよ」

「そうなんだ」

「そうなの?」


 なぜ蹴られて思い出すのかよくわからないけども転校生か。


「つい最近引っ越しが終わったらしいぞ」

「じゃあもしかしたら祐樹くんちの隣かも?」

「なんだ?祐樹んち隣に誰か引っ越してきたのか?」

「そうは言うけどまだ挨拶に来てないからどんな人かわからないけどね」


 もしかすると隣に同級生が引っ越して来ることになるのか。

 なんか緊張するな……。

 転校生って男の子なのかな……?女の子なのかな……?


「なぁ祐樹。転校生って男の子?女の子?」

「なんだ?気になるのか?」

「ダメだよ大翔くんっ!私がいるでしょう!?」

「月がいるとなんでダメなの……?」

「うぐっ……!?」

「月のそれらはアタックになってないんだよ……。いい加減気づけって……」

「アタック?」


 月がうーうー唸っているし、アタックの意味がわからない。

 結局転校生は男の子なの?女の子なの?


「さぁ、みなさん席についてくださーい」


 結局聞けなかった。


 みんな席に戻って行ってしまう。

 と、言っても目の前の席に月がいて、斜め前に祐樹がいるんだけどね。


「今日はなんと!うちのクラスに転校生がやってきます!」


 先生がそういうと「待ってました!」という声を筆頭にクラス中が騒ぎ始める。

 俺もドキドキしてきた……。


「それでは、入ってきてください」


 教室に入ってきた美少女に歓声が上がる。

 でも俺は、声を出せなかった。

 なぜって。驚きすぎて。


 だって教室に入ってきた転校生は――。


沖倉おきくら桜雪さゆきです。これからよろしく」

「サユ……?」


 ――四年前に引っ越して行った俺の幼馴染だったから。

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