第2話

沖倉おきくら桜雪さゆきです。これからよろしく」

「サユ……?」


 俺は教卓に立った転校生を見て、言葉が出なくなる。


 だってこの子は――


「ヒロ……?」


 見つめ合いながら二人で固まる。

 教室のみんなはそんな俺たちを見て驚愕の表情を浮かべている。


 なぜ、俺とサユが知り合いなのか。

 そう思っているのだろう。


 一番最初に我に返ったのは先生だった。

 その先生は俺に質問を投げかけてくる。


「もしかして、沖倉さんと知り合い?」

「そ、そうです……」

「じゃ、じゃあ隣空いてるし、席はそこでいいよね?」

「俺はいいです」

「沖倉さんは?」

「…………」


 サユはぼーっとしていて声が届いていないみたいだ。


「あのぉ……沖倉さん?」

「あ、はい。なんでしょう?」

「席は日橋にちはしくんの隣でいい?」


 日橋っていうのは俺の苗字だ。


「あ、それで大丈夫です」

「じゃあ決まりね」


 綺麗に肩あたりで整えられた銀髪を揺らしながら近づいてくる。

 サユが隣の席に着き、そのまま朝の連絡は続いた。


 休み時間になってもなんて声を掛ければいいのか分からない。


 と、とりあえず話さないと……。


「ねぇサユ……」「ヒロ……」

「「…………」」


 被ったぁ!!


「なんなのこの空気……」

あかり、ピンチじゃねぇのか?」

「ぐすっ……」

「おい!泣くなって!!」


 サユと話すのがこんなに気まずいなんて初めてだ……。

 勇気を振り絞ってもう一度話しかける。


「ねぇサユ」

「なに?」

「こっちに戻ってきたの?」

「そう。前と同じ家」

「あ、じゃあ隣に越してきたのって……」

「わたし」

「じゃあお父さんも?」

「わたし一人」

「あれ?そうなの?サユさえよかったらいつでもうちに遊びに来なよ」

「行く」


 なんか昔を思い出すね。

 サユの容姿も昔から変わってないからなおさら。

 小学生かと間違われるような身長をしている。胸も……まぁ、うん。


「いきなり大翔ひろとの家に行くって話になってるぞ」

「どどどど、どうしよう!?」

「さぁな」

「逃げないでなんとかしてよっ!」

「お前の問題だろうが!自分でなんとかしないでどうすんだよ!」

「そんなっ!捨てないでっ!捨てないでよっ!」

「俺はお前の飼い主じゃねぇよ!」


 その時チャイムが鳴った。


「ほら、授業始めるぞ」


 生徒たちのダルそうな声と共に、今日も授業は始まった。



※※※



「へぇ~大翔くんと桜雪ちゃんは幼馴染なんだ~」


 昼休み。

 みんなの席をくっつけて食事を摂る。

 月の質問攻めにサユは昔から変わらない無表情と共に淡々と答えていた。

 その一部をダイジェストにするとこんな感じ。


「いつも一緒にいたの?」

「そう。よくゲームして遊んだ」

「ゲーム?」

「ああ、スマ〇ラとかマリ〇カートとか」

「仲良かったんだな」

「そうだね。サユは今もゲームしてるの?」

「ちょーしてる」

「じゃあじゃあ今度みんなで一緒にゲームしようよっ」

「月の案に賛成だな」

「俺もいいと思うよ。サユはどう?」

「いい」

「決まりだね」


 日程はサユの引っ越しがまだ完璧じゃないので未定ということになった。


「ところで、桜雪ちゃんのそのはねてる毛って寝ぐせ?」

「違う」

「ああ、これはくせ毛だよ」

「くせ毛?」

「そう。昔からこんななんだよ」


 サユの髪は左側のほんの一部分だけがぴょこっとはねている。

 チャームポイントといったところだろうか。


「サユちゃんの目って紅いんだね」

「生まれつき」

「すっごく綺麗……」

「ありがと」


 所謂アルビノってやつだな。サユはそこまで肌弱くないけど。


「桜雪ちゃんのお弁当は自分で作ってるの?」

「うん」

「おいしそう……」

「今度、作ってあげる」

「ホント!?ありがとう!!」

「どういたしまして」


 サユの料理は最高だからな。昔から。

 そう……昔から……。


 ある程度質問が終わると、先に昼食を食べ終えた祐樹ゆうきが立ち上がった。


「あ、わりぃ。俺これから部活の集まりだわ」

「野球部の方?」

「いや、将棋」

「将棋?将棋部あるの?」

「サユ、興味あるの?」

「ある。でも、ほかにどんな部活があるのか知りたい」

「ああ、たしかに」


 この学校には部活がたくさんある。


 中には顧問がいない部があるらしい。

 それだと部として成立してないと思うんだけどね。


「じゃあ放課後掲示板でも見に行こうか。案内するよ」

「行く」

「野球部休もうかな」

「いいんじゃない?そして、盛大に怒られろ」

「ひどい!」

「月はどう?」

「ごめん!用事があるのっ」

「そっか。残念だね」


 そういうわけで放課後。

 俺とサユは掲示板を見に行くことになった。



※※※



「おー」

「思ったよりいっぱい貼ってあるんだね」


 そこには、掲示板いっぱいに部員募集の紙が貼ってあった。


「いろいろある」

「そうだね」

「ゲームとかない?」

「探そうか?」

「うん」


 サユがゲーム関連のものをご所望なので俺も探すことにする。

 それにしても、たくさんあるなぁ。


 俺はちょっと気になる募集用紙を見かけた。


『注意!!やる気のある人だけしか認めません!!ここから先は、半端な気持ちで読まないでください!!』


 すごく真面目そうな部活だ。

 野球部とかサッカー部とかかな?


『放課後、すぐに活動を開始するように!サボったものはペナルティを与える!』


 ちょっと縛りすぎな気もするけど本気ならこれくらいしなきゃダメか。


『ペナルティの内容はその時の罪の重さにより、確定される!気をつけるように!活動日時は休日以外毎日!』


 ん?あれだけがっつりやりそうだったのに休日はないのか?いったいどんな部活なんだろう?


『以上!やる気のあるものはここまで連絡せよ。→LI○E ID home_go 帰宅部』


 「帰宅部かよ!!てかID!!」


 真面目な部活だと思ったら真面目に活動してる不真面目な部活動だった。

 ん?もう分けわかんないや。


「どうしたの?頭抱えて」

「あぁ、いや……。それよりどうだった?」

「あった」

「どれどれ?」


 卓球部や野球部などの紙の下に小さな紙が貼ってあり、そこにはゲーム部員募集の紙が貼ってあった。


「…………」

「これに入りたい」

「サユが貼ったんじゃないだろうね?」

「そんな好奇心旺盛の女の子をごまかすための技は使わない。私が省エネに見える?というか、わたしから誘った」


 たしかにそうだ。


「十八時までやってるみたいだし、行ってみる?」

「行く」

「本当にあるのかは分からないけどね」


 俺たちはゲーム部があるらしい特別棟四階に向かうことにした。

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