第3話

 特別棟四階、空き教室前。


「それじゃあ開けるぞ」

「うん」


 俺はゲーム部があるらしい教室の扉を開けた。

 空き教室だけあって何が入ってるのかよくわからない棚が並んでいる。

 その奥の方を見ると。


「あらぁ?おこしやす。よおきたねぇ」


 そこには長い黒髪が綺麗な巨乳の女の子がいた。


「あ、えっと……」


 俺が答えるのにおろおろしていると、サユが俺の目の前に立って口を開いた。


「ここがゲーム部?」

「そないどすえ。入部しにきたん?」

「そう」

「そらうちらも嬉しーよ」


 サユが妙にむすっとしてるのは気のせいだろうか。


「待て待てって!なぁ眞智まち!入部試験のこと忘れてるだろ!?」

「そないやったね。かんにんな」

「ったく」


 もう一人奥に部員がいたらしい。

 制服をこれでもかと着崩した大雑把そうな女の人がそこにいた。


「二人ともかんにんな。久美くみが言わはった通り、試験があるんよ。どないしはる?」

「あの、どんな内容なんでしょうか?」

「簡単どすえ。部員であるうちらんどっちゃかにゲームで勝つだけ。簡単やろ?」


 ルールは確かに簡単だった。

 この二人のどちらかにゲームで勝つだけ。

 ただ、問題が一つある。


 それは、この二人のゲームの腕前がまったく分からないということだ。


「そないいえば自己紹介しいやおへんどしたね。うちは二年の倉方くらかた眞智っていうんよ。よろしくね。まぁ聞いとる通りエセ京都弁の使い手なんよぉ」


 そう言って倉方先輩は上品に笑う。


「あっちにおるんはおんなじ学年の保戸田ほとだ久美いうんよ。口や態度は悪いやけどええ子やから仲良くしてなぁ」

「俺は一年の日橋にちはし大翔ひろとっていいます。よろしくお願いします」

「同じく一年の沖倉おきくら桜雪さゆき。よろしく」

「うんうん。よろしくねぇ」


 自己紹介を終えたところで倉方先輩に手招きされる。

 棚だらけの通路?を進んでいくと保戸田先輩が椅子に座り、大きなテレビを睨み付けていた。


 どうやら、ゲームをしているらしい。


「ほしてどないしはる?入部しはるならうちらとゲームで勝負になるやけど」


 俺はサユをちらっと見る。そこでサユと目が合った。俺たちは無言で頷きあう。


「もちろん。入部したいですし」

「わたしも」

「そないこなくっちゃ」

「ほう?オレら相手に勝利宣言とはいい度胸じゃねぇか。気に入ったぜ」


 保戸田先輩がゲームをやめ、怪しい笑みを浮かべた。


「ほな、うちが大翔くんと勝負や」

「俺が倉方先輩と勝負ですか?」

「そないどすえ。ちゅうか、眞智って呼んでくれてええよ~」

「あ、えっとじゃあ……眞智先輩……」

「まぁほしてええわぁ」


 倉……眞智先輩が残念そうにがっくりしている。


「じゃあオレがそっちのちっこいのとだな」

「よろしく」

「ゲームはそっちが決めてくれてかまわないぜ」

「いいの?」

「もちろんだ」

「じゃあ……ポケ○ンで」

「待ってろ。準備する」


 早速保戸田先輩が準備を開始する。


「保戸田先輩、手伝う」

「久美でいいぜ。そっちのも」

「俺もですか?」

「ああ」

「じゃあ久美先輩、わたしも手伝う」

「おう」


 しゃべってみると保……久美先輩もすごくいい人だということが伝わってきた。


「大翔くんは何のゲームがええ?」

「じゃあ俺はFPSで」

「FPSちゅうと……。コールオ○デューティブラッ○オプススリーでええ?」

「問題ないです」

「楽しみやなー」


 そうして俺たちも準備を始める。


 こうして俺たちのゲーム部への入部試験が始まった。



 ※※※



「「…………」」


 俺と眞智先輩はコントローラーを手に無言で画面と睨み合っていた。


 すさまじい緊張感があたりを包み込む。

 眞智先輩はどこから狙ってくるのだろうか。


 ――ビリッ。


 その時、俺の頭に電流が走るような衝撃が訪れた。


「っ!」

「えっ!?」


 眞智先輩の驚きの声が部室に響き渡る。

 俺は相手の頭をスナイパーライフルで撃ち抜いていた。


「す、すごいなぁ……」

「ありがとうございます」


 このまま俺たちの勝負は続いた。


 結果を先に言うと俺が勝利した。

 というか、圧勝だった。

 眞智先輩が手加減してくれたのか、それとも……本当に下手なのか。


「大翔くん強いなぁ……。完敗どすえ……」

「ありがとうございました!」

「まぁうちゲーム全然つよないんやけどなぁ~」


 そう言って笑い出す眞智先輩。

 それが本当なのかはいまいち分からなかった。


「なんだって!?またか!?」


 そこで久美先輩の大声が聞こえた。

 こちらはサユと久美先輩がポケモ○バトルをしていた。


 "オルゲ"用にポ○モンは新しいサービスが行われている。

 そのサービスとは、ネット上に自分の○ケモンを登録することで、ネット環境さえあれば自分のポケ○ンを呼び出してバトルができるというものだ。

 サユは眞智先輩からソフトと本体を借りていた。


 そしてバトルの内容はというと……。


「全部!?全部読んでるのかよ!?」

「…………」


 久美先輩の行動はすべてサユに読まれていた。


 サユはくせ毛を指先でいじりながら、紅く輝いた瞳で画面を睨みつけている。


「っ!?……完敗だ」

「対戦ありがとうございました」


 そのままサユは相手の心を読んでいるかのように技を繰り出したり、交代したりして勝利した。


「久美がポ○モンで負けるなんてことあるんやねぇ~」

「そりゃあるさ。オレなんて大会に出たら一回戦で負けちまうよ」

「そないなことへんと思うんだけど……」

「でも桜雪は優勝とか余裕でできそうだよな」


 サユが下を向いてもじもじしている。照れてるみたいだな。

 そして俺は、そんなサユに聞きたいことがあった。


「ねぇ……サユ」

「どうしたの?ヒロ」

「"心眼使い"って知ってる?」

「っ」


 サユが肩をびくっと震わせる。

 なるほど。


「サユが……そうなんだね」

「うん」

「何の話ししたはるん?」

「もしかしてと思うが"オルゲ"か?」

「あぁ……聞おいやしたことあるわ」


 そう、サユも"オルゲ"の一人だったわけだ。


「"オールラウンドゲーマーズ”第二十三位。"心眼使い"こと"ユキザクラ"が相手となっちゃオレも勝てるわけないってわけだ」


 サユのHNハンドルネームは"ユキザクラ"。そして第二十三位の猛者だったのだ。

 序列入りしたものには二つ名が与えられるのだが、"ユキザクラ"の二つ名は"心眼使いしんがんつかい"。

 相手の心が見えているかのように相手の行動を読み、行動をしてくるため付けられた。


「ヒロだって隠してる」

「何が?」

「ヒロだって"オルゲ"なんでしょ?」

「なんでそれを……?」

「わたしのことに真っ先に気づいたからかまをかけただけ」

「…………」


 ばれてしまったか……。これは及愛のあも知らないことなのに……。


「そうだよ……。俺は第五十六位の"カケル"っていうんだ」

「そないやったんや……道理で強いわけやわ~」

「オレたちじゃ敵う相手じゃないな」

「黙っててごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ええよ~全然気にしてへんから」


 そう言って二人とも笑って許してくれた。

 いい先輩たちだ。


「ほしてどないしはるん?こんまま部活入るん?」


 そろそろ、眞智先輩の京都弁にも慣れてきたな。標準語が若干混ざってるけど。


「どうする?サユ」

「わたしは入りたいと思う」

「そっか……なら俺も入ります」

「決まりやね。これからもよろしく」

「オレのことも忘れるなよ」

「よろしくお願いします!眞智先輩!久美先輩!」

「よろしく……眞智先輩、久美先輩」


 こうして俺とサユはゲーム部に入ることになった。

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