第4話
部活の終了時間になったため、俺は帰路についていた。
今回は俺の隣にサユが歩いている。
しばらく会ってなかったサユと一緒なので、ちょっとどきどきする。
俺たちは、途中の自販機で飲み物を買ってから再び歩き出した。
サユはいちごオレを買って、俺はミルクティーを買った。
前まではミルクティーとか飲めなかったけど最近はおいしく感じる。
なんでだろうね?
「ねぇヒロ」
「ん?」
「おっぱいは大きいのと小さいの、どっちが好き?」
「ぶはっ!」
俺は盛大に吹き出した。
「ヒロ、もったいない」
「誰のせいだ誰の……!」
「で、どう?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「わたしのおっぱいは小さいから。小さくても大丈夫か気になる」
「お婿さんにはなってないんだけど、なぜその質問が必要なのかな?」
「でも、未来のお婿さん」
「サユにお婿さんができなかったらって言ったじゃん!」
「できないから」
「決め付けんな!」
まったく。
サユは身内贔屓を除いたってかわいいし、これを知ってるのはまだ俺だけだけど家事というか……。ほぼなんでもできるしなぁ。
お婿さんなんて簡単にできるだろう。
でもなんだろう……サユが俺の知らない男と暮らしている姿を想像すると、なんかヤダ。
「
「なぜって……見られてたらイヤでしょ?」
「ヒロならいい」
「それはサユの感覚じゃん!それに、気持ち悪いでしょ?」
「ヒロは男の子」
「その言葉は万能じゃないから!!」
サユがちょっと……いや、かなり昔より変わったと思った瞬間だった。
「そうだ、ちょっとあのお店寄ってもいい?」
「ん?別にいいけど」
「ありがと」
そう言って、ケーキ屋に入る。
ショーケースの中にはいろいろなケーキが並んでいた。
ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン……。どれもおいしそうだ。
「これとこれとこれ」
「はい、かしこまりました~!」
俺がショーケースを眺めているといつの間にかサユは買い物を終わらせていた。
「何買ったの?」
「ひみつ」
「えぇ……」
「これからヒロの家に行く」
「あ、もう今日来るんだね。別にいいよ」
なんとなく、ケーキを買った理由が分かった。
※※※
「ただいま~」
「おじゃまします」
「あ、にぃおか……誰だ!その女の子!」
「もしかして、及愛?」
「何であたしのこと知ってるの!?」
「おぉ……おっきくなった」
「ちょっ!?やめ……!?」
そう言ってサユは及愛を撫でる。
ただし、撫でているところは、胸である。
「離せい!」
「わっ」
「もう!いったい何なのさ!って……もしかしてサユねぇ……?」
「せいかい」
「最後に会ったときと何にも変わってない……」
「どこのことを言ってるのか聞かせたまえ」
「きゃー!」
そう言ってサユはまた及愛の胸をもみ始めたので話を進めることにしよう。
「いい加減にしろ」
「うにゃっ」
サユに俺のチョップが炸裂した。
「そうそう、これ」
「あ、このケーキ!もらってもいいの?」
「みんなで食べよう」
「やった♪」
「お隣さんよろしく」
「え、サユねぇがお隣さんなの?」
「そう。しかも一人暮らし」
「じゃあ今度遊び行ってもいい?」
「もちろん」
なんだかんだ仲良しな二人で見ていて和むな。
「もちろんヒロも遊びに来ていいからね?」
「機会があったら行かせてもらうよ」
「布団敷いて待ってる」
「それはなしで」
「はい」
素直でよろしい。
「もうすぐご飯もできるからにぃとサユねぇは待ってて!」
「わかった」
「ありがとう及愛」
そう言うと及愛はウインクをして、キッチンに駆けていった。
もうすぐとは言っていたものの、さすがに一人増えたので時間が掛かり、暇を持て余した俺とサユが全力でストリー○ファイターの対戦を始めたのはまた別の話。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした~」
相変わらず及愛のご飯はおいしいな。
「おいしかったよ、及愛」
「当たり前じゃん!サユねぇケーキありがと!おいしかった!」
「いえいえ」
俺は及愛と一緒に食器を洗う。その間、サユはソファで丸くなっていた。
「サユねぇは、今にぃと同じ学校に通ってるの?」
「そう。今日から」
「そうなんだ!にぃのことを末永くよろしくね」
「まかせて」
「どういう意味かな?二人とも」
及愛はどうやらサユのことを応援するらしい。
俺の気も知らないでっ。
「今更だけど今日帰ってくるの遅かったよね?サユねぇと寄り道でもしてたの?」
「あぁ、部活に行ってみたんだよ」
「にぃとサユねぇが部活!?」
「及愛、それは失礼」
「ごめんサユねぇ。でも、なんでまた」
「祐樹って知ってるだろ?そいつが将棋部に入ってるもんだから、サユがどんな部活があるのか知りたいって言い出して。そしたらゲーム部っていうのがあってそこに行ってたんだよ」
「あぁ……ゲーム部……。ってにぃ!ちゃんと勉強してよね!」
「わ、わかってるよ……」
いざとなったらわたしが教えると小さな胸を張るサユを横目に、楽しい時間は過ぎていった。
※※※
あの後、俺とサユはオセロを始めていた。
「「…………」」
お互い無言で盤を睨み付けている。
――ビリッ。
「っ!」
「っ……!相変わらず鋭い」
サユがくせ毛をいじりながら長考し始めた。
くせ毛をいじるのはもう癖みたいだな。
俺も油断なんてできない。
なんていったって目の前にいるサユは"オルゲ"の二十三位である"
「にぃ~お風呂あがったよ~。……ってまだやってたの?」
「そうだな~そろそろやめるか、サユ」
「わかった」
「あ、サユねぇもお風呂入っていきなよ!」
「いいの?」
「もちろん!ねっ?にぃ」
「もちろんだ。先に入っていいぞ」
「それはだめ。ヒロがさき」
「でも……」
「だめ」
「わかったよ」
サユがどうしてもと言うので俺が先に入ることになったのだった。
※※※
「ふぅ~……」
落ち着くな~。
寝ないように注意しないとな。
「ヒロー」
「わっ!?なに!どうしたの!?」
脱衣所に人影があった。
声と呼び方からしてサユだろう。
「お土産渡し忘れてた。これ……」
そう言って扉をちょっとだけ開けて手を伸ばしている。
俺はそれを受け取った。
でもなんで今渡すかな?
「ありがとう」
「どういたしまして」
俺は手元に視線を移す。
サユからのお土産はタオルだった。
手触りがなんとも言えぬくらい心地良い。
なんか大きいな。
ふと注意を脱衣所に向けると、まだ人影が見えた。
なんかガサゴソと衣擦れの音が聞こえる。
……ん?衣擦れの音……?
「おじゃまします」
「ちょっ!?」
サユが体にバスタオルを巻いて現れた。
俺は急いで手に持っていたタオルを腰に巻く。
「まさか、タオルはこのためとか言わないよねぇ!」
「えへへ」
「可愛いなちくしょう!」
サユのえへへがとてつもなく可愛かったので許してしまう。
わけあるかぁ!
と、もう一度サユに抗議しようとサユを見るが、
「ちょいぃぃぃ!?!?」
サユはこちらに背を向けながらタオルを外していた。
サユの綺麗な肌が晒される。
ほっそりとした足。
ぷりっとしたキュートなおしり。
きゅっとしまった腰回り。
真っ白な背中。
俺は後ろを向く。
「しばらくこっち見てた」
「見てない」
「そういうことにしとく」
「……すみません」
「いい。ヒロも男の子」
「だからその言葉は万能じゃないって!」
後ろでサユが体を洗う音が聞こえてくる。
その度にサユの後姿がフラッシュバックして……。
そんなことを考えているとサユが浴槽に入ってきた。
「こっち見ても大丈夫。タオルつけてる」
「タオルは万能じゃないから」
「外れたら外れたでいい。ヒロだから」
「俺は良くないの!」
浴槽の中、おそらくサユはこちらを向いているのだろうが、俺はサユに背を向けている。
サユの方を見たら何するか分からないし……。
「髪洗って?」
「はい?」
「わたしの髪、洗って?」
「…………」
「ヒロ、大丈夫?」
「それを聞きたいのはこっちだ!」
何を言い出すかと思えば「髪を洗って?」だと!?
そんな至近距離で背中から見つめることになったら俺の理性が……。
「わかった、今回は我慢する」
「そうしてください」
よかった。本当に。
サユが浴槽から出ようとしたその時だった。
「ひゃっ」
サユが足を引っ掛けて転びそうになってしまう。
サユの悲鳴で反射的にそっちを見ていた俺は、
「危ない!」
そう言って飛び掛っていた。
「大丈夫か?」
「うん……。ありがと……」
「よかっ――」
俺は大変なことに気づいてしまった。
俺はサユを守るため、サユの下敷きになっているのだが、サユの顔は今俺の胸のあたりにある。
おなかのあたりには、小さいなりの主張をしている二つの膨らみの感触がある。
問題なのは、その感触の中にタオルの感触がないということ。
俺は周りを見る。
すると、なんということでしょう。
タオルが二枚――サユの肌を隠していたものと、俺の腰に巻いてあったはずのタオルが浴槽に掛かっているではありませんか。
つまり――
「きゃー」
「そんな棒読みの悲鳴初めて聞いたよ!!」
こんな状況でもぶれないサユはもはや最強だと思う。
※※※
みんなお風呂を上がってからは、リビングでくつろいでいた。
「アイスでも食べるかー」
「いいねっ!」
俺が提案すると及愛が笑顔になった。
ソファの上で背筋をピンと伸ばしている。
サユはバニラアイスが好きだったはずなのでそれをあげよう。
「ありがと!にぃ!」
「ありがと、ヒロ」
「どういたしまして」
自分のアイスを取り、ソファに座るとスマホが鳴った。
スマホを見ると、とある実況者が生放送を始めたというお知らせだった。
「サユ、この人の実況見たことある?」
「どれ」
サユにスマホが見えるようにソファの上を移動する。
すぐ隣まで移動してきたので、シャンプーの香りがサユから漂ってくる。
俺は意識をサユから画面に無理矢理持っていく。
「これこれ」
画面に映っていたのは、ゲーム画面と手元の画面。
ゲーム画面に映っているのはぷ○ぷ○というゲームだ。
手元画面には綺麗な手と、手首についているシュシュが目に付く。
「これは?」
「この人は"オルゲ"の三十四位、"ルナ"さんだよ」
"オールラウンドゲーマーズ"三十四位。
得意なゲームジャンルはパズルゲーム。
あまりにも綺麗にパズルをこなすため、誰かがコメントで「手元映して!」と言ったことがきっかけで手元も映すようになった。
実況する時は、ボイスチェンジで話すため性別は分からないが、手が綺麗なため女の子ではないかとネットでは言われている。
「すごい上手」
「でしょ?」
「パズルはあまり得意じゃない」
「知ってる」
サユはパズルが得意じゃない。
○よ○よの場合は組み立て方がいまいち分からないのだそうだ。
それでも連鎖が結構いくんだからひどい。
画面がよく見えなかったのかサユがぐぐっと近づいてくる。
今度は俺が見えないし、意識を逸らした意味が……。
「ヒロ、ぷ○○よしよう」
「お、おっけー」
それからしばらく、俺たちは○よぷ○をして遊んだのだった。
正直、助かった。
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