第26話

「「海だーーーーー!!!」」

「海やねー」

「なんだよ眞智まち!元気ねぇな!」

「うちは何回も見てるからなー」

「こんなの毎日見てるなんて羨ましいです!眞智お姉さん!」

乃愛のあちゃん?ここは別荘やから、別に毎日見てるわけではおまへんよ?」


 俺の目の前には、綺麗な海と青空が広がっていた。

 夏休みの二日目にして、すでに合宿。この合宿が終わっても予定をたっぷりと入れるつもりなのだろうか?


 それにしても……。


「なんで伊花いはな先輩までいるんですか?」

「別にいいじゃ~ん。細かいことは気にしな~い。それと、萌々香ももかでいいよ~ん」

「では萌々香先輩。なんで合宿のことを知ってるんですか?」

「しつこいなぁ~。しつこい男は嫌われるぞ~?」


 はぐらかす理由でもあるのだろうか。


「ヒロ」

大翔ひろとくんっ」


 呼ばれたので振り返ると、サユとあかりが笑顔でこちらを見ていた。


「そうだな」


 そんな細かいことは気にすることはない。

 せっかくここまで来たんだ。

 ゲームだけじゃ面白くない。


「楽しむか!!」

「うん」

「うんっ!」


 どうして合宿に行くことになったのかは、顧問をゲットし、部長が決まったあの日……。

 ではなく、その週の金曜日まで遡ることになる。



※※※



 金曜日。やっと休みが待っていると思える放課後。

 テスト最終日でもあったこの日、俺たちはやはり部室でゲームをしていた。


 よく晴れた暑い日だが、そんなことは関係ない。この部屋には、クーラーがついている!


「合宿に行くぞ」

「「「合宿?」」」


 ゲームの合間に久美くみ先輩が唐突に口を開いた。

 久美先輩の言葉に、俺とサユと月が首を傾げる。


「いつ、どこに行くんですか?」

「夏休みに眞智の別荘だ」

「眞智先輩の家ってすごいお金持ちなんですね……」


 俺が代表して質問をすると、眞智先輩の家の別荘に行くことがわかった。


「でも、なんで急に?」

「あ、えっと……それはうんと……」

「"オルゲ"の大会が決まったやろ?そんためにゲームしよと思て。海で息抜きもできるよ?」


 久美先輩の歯切れが悪くなったような気がしたけど気のせいかな?

 それにしても、"オルゲ"の大会があることを知ってたのか。


「海……」

「海かぁ……」

「なんだ?泳げないとかか?」


 嫌そうな顔をしたサユと月に、久美先輩がにやりと笑いながら声をかける。

 結構思うんだけど、泳げないからと言って海に行かない人ってあんまりいないと思う。


「いや、日がちょっと」

「私はただ家から出たくないなと……」

「桜雪の言うことはわかるけど月はただの引きこもりじゃねぇか!」


 サユの肌は昔から白い。最近は良くなったみたいだけど、昔は体が弱かった。

 肌も弱かったので、海なんて絶対に行けなかった。

 だからこそ、ゲームにはまったのだろうけど。


 月に関しては、もう何も言えない。今までのイメージが崩壊していく。

 ゲーマーだって知らなかった方がよかったのかな……。


「大会か……」


 ぎゃーぎゃー騒ぎ始めるみんなを眺めながらぼそっと呟く。

 竹石たけいし先生を顧問にゲットし、部長が決まったあの日の夜。

 "オルゲ"の序列戦で、俺は上位の人に挑戦していた。

 ちょうどサユと月も挑戦していた日だ。


 俺は、四十八位の人に挑戦し、見事勝利していた。

 サユは二十三位から十九位。月は三十四位から二十八位になっていた。

 そこで全試合が終わったのだが、生放送の最後に重大発表として、"オルゲ"の大会をすると発表されたのだった。


 まだ試しのため、場所は少数。それに、大会優勝者には賞金があるだけだ。

 全国大会等はまだやらないらしい。

 ルールは個人戦で序列戦の時と変わらないと発表され、違うところと言えばリアルで対面しつつ対戦をするということのみ。

 かなり盛り上がっていたから参加者は多いと思う。


 もちろん俺とサユと月は参戦するつもりだ。

 なんと、その大会は地元でも行われるのだ。

 まさかやるとは思わなかったが、運がいい。


「大翔はどう思う?」

「えっ?何がですか?」

「どうしたんだ?ぼーっとして」

「あ、ちょっと考え事を」


 いきなり久美先輩に話しかけられてびっくりした。


「で、どんなゲームがいいと思う?」

「普通に楽しむために、ボードゲームとかもあった方がいいと思います」

「おお!それはいいな!なぁ眞智――」


 賑やかだなぁ。

 これは合宿が楽しみだ。


 この時は知らなかったのだ。

 合宿で何が起こるかなんて。

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