第20話

 ゲームは中盤、そろそろ終盤に入るという局面を迎えていた。


「ろ、六!?一、二、三、四……。あっぶない!!」

「残念。乃愛のあを破産させるチャンスだったのに」


 現在サユ、大富豪。


「私の番……。ゾロ目が出ませんようにゾロ目が出ませんようにまだ刑務所であああ!?ゾロ目じゃーん!」

「おいでおいで……ふふふ……」


 サユが手招きをしている。怖いよこの子怖い。


「さぁあかり。俺の仲間になろう!」

「や、やだよ!桜雪さゆきちゃんにあんな金額払って破産しないのなんて大翔ひろとくんだけだよ!」


 俺は一度サユの不動産に止まってしまったのだ。しかし、余裕の表情で払った。

 かなり痛手だったけどね!


 その結果俺の代わりにサユが大金持ちになってしまった。

 乃愛と月も決して貧乏というわけではないが、サユの不動産に止まったら破産してしまう可能性が高かった。


「わたしは鉄道。ここはわたしの所有地」

「もう俺の番か……」


 頼む頼む頼む頼む!!


 出た目は――九!


「ってまじかよぉぉぉぉぉ!?!?」

「にぃが!」

「大翔くんついに破産の危機!?」

「持ち金じゃ足りない……」


 持ち金でレンタル料を払えない場合、自分が所有している不動産を抵当に入れ、お金を払うこととなる。

 不動産をすべて抵当に入れても払えない場合、破産だ。


「待ちたまえ」

「ど、どうしたんだよサユ」


 計算を始めようとするとサユから待ったが入った。


「今回は払わなくていいからそれ、ちょーだい」

「この不動産を……!?」


 これまでサユの手に渡ってしまったらもう俺たちに勝ち目はないだろう。


「と、とりあえず計算させて!」

「うむ。待とう」


 なんかサユが王様みたいな口調になっているがスルーしておこう。せめてもの攻撃。


 えっと、まずこれとこれ……ていうかこれ全部抵当に入れても足りないんじゃ……。


「ヒロ、答えは出た?」

「払うぜぇぇぇ!!!」

「大翔くん払えたの!?」

「にぃ……残りの金額は?」


 ふっふっふ……。


「一ドル」

「「…………」」

「なんでそんなに憐れんだ目で見つめるんだ!ここでこの不動産を渡したらもう俺たちの勝ち目がなくなるだろう!?感謝してよ!!」


 乃愛と月の小さなわがままを言っている子供を見るような優しい目。くっそう絶対負かしてやるからな!



※※※



「六だね」

「そこあたしの不動産です」

「十一」

「そっちもあたしの不動産だよサユねぇ」

「三」

「そこは月さんと同じところだからあたしの不動産だよにぃ」

「「「…………」」」


 やたら乃愛の不動産に引っかかる!?

 乃愛は最初に取った紫色の不動産を二つ揃えて、そこにホテルを建ててそこに止まった人たちからこつこつお金を稼いでいた。


 そんな俺も何人かが不動産に止まってくれてレンタル料をいくらかもらっていた。


「こんなに周回してるのに一番高い不動産があと一つ残ってるんだよなぁ……」

「そこが怖いところだよね。乃愛ちゃんが一つ持ってるんだよね?」

「はいそうです。この残ってる青色の不動産を取ると二つ取ったことになるので、家とかが建てられます」


 ここはもともと不動産が高いので家を建てるのもお金が掛かるが、その分レンタル料がバカみたいに高い。

 家が一つ建つだけで金額が跳ね上がる。二つ目の家が建ってしまってそこに止まったらもう破産してしまうだろう。

 一発逆転の不動産とも言われるその場所は、乃愛が一つ所有していて残り一つとなっていた。


「十一だ。一、二、三……あっ!これ青色の不動産ゲット!!」

「ま、まずいぞ……」


 紫色の不動産でこつこつ稼いでいた乃愛はきっとお金がそこそこあるはずだ。あの青色の不動産に家なんて建てられたら。


「四」

「月、ありがとう」

「わたしは七」

「刑務所見学だね」

「俺は六。チャンスか……。刑務所から出られるカードだね」

「次はあたしだねっ。青色の不動産に家を建てるよ!」


 や、やばい……。


「ふふふ。さぁ誰か止まってよ~」


 悪い笑みを浮かべる乃愛。

 残りの三人はそれぞれ視線を交わす。


【やばくない?】

【仕方ない。取られたものは】

【でもどうするの?】

【止まらなければいいんだよ】

【なるほどヒロ。止まるんじゃね――】

【桜雪ちゃん!それ以上はいけない気がする!】


 視線で無駄な意思疎通をして、ゲームに戻る。

 そのまましばらくの間は乃愛が多めにみんなでこつこつ稼いでいた。


 そして、運命の瞬間。


「あっ」

「サユねぇ……♪」


 サユが青色の不動産に止まってしまった。

 さらに家の量が増えていた青色の不動産は金額が上がっていた。


 ちょっとずつ手持ち金が減っていたサユに払えるのか……。


「抵当に入れても足りない……。破産」

「ふふふ……」


 サユ脱落。


 サユが持っていた不動産は再び銀行の物となり、マスに止まることによって購入できるようになった。

 しかし、次の脱落者はすぐに現れた。


「……泣きそう」

「にぃ、ありがとう♪」


 ただでさえ持ち金が少なくて、手に入れた不動産をすべて抵当に入れていた俺に、払えるお金など存在しなかった。


 あとは月と乃愛の一騎打ちとなった。



※※※



「モノポリー楽しかったね~」

「はい!月さんに勝ててよかったです!」

「あれは悔しかったなぁ……」

「最初に負けたのが悔しい」

「俺なんか常に持ち金ビリだったと思うけどな!」


 今はモノポリーも終わり、みんなで晩御飯を食べている。

 サユと月と乃愛の三人で作ってくれた。

 その間俺は眺めていることしか許されなかった。悲しい。


 月が一緒にいるのは、今日はそのままサユの家に泊まることにしたかららしい。

 急なのによくおっけーしてもらえたよね?


「それにしても、桜雪ちゃん料理の手際すごくいいよね」

「ありがとう。かなり鍛えたから」

「そうなんだ?それってやっぱり大翔くんのため?」

「いや、う~ん……。まぁ、そう」

「?」


 月がきょとんとする。

 まぁこの辺の話はちょっとね……。


「月さんは練習中なんですか?」

「うん。ちょっとね。乃愛ちゃんも料理上手いよね!今度教えてよ」

「もちろんいいですよ!にぃからも教えてもらったらどうですか?」

「ふぇ!?い、いいの?」

「俺は構わないよ」


 断る理由は何もない。

 俺なんかでよければいくらでも教える。


「わたしも」

「え?サユはもう」

「わたしも」

「え、あ、うん」

「にぃはわかってないなぁ~」


 サユの腕はもう一流なんだけど……。

 乃愛もわかってないとか言ってるけど。

 う~んわからん。


「「「「ごちそうさまでした」」」」


 それからいろんなゲームをして過ごし、夜は更けていった。

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