指先の姫《ゆびさきのプリンセス》
第7話
「…………」
「…………」
「なぁ、サユ……?」
「どうしたの?ヒロ」
「こんなことわざを知ってる?三十六計逃げるにしかず」
「あ、逃げた」
遊びにきたら布団とか敷いてると思っていろいろ策を考えてきたのに何もないなんて逆におかしい!
逃げるが勝ちだ!
もう玄関の扉まで着いた!あとはこれを開けて……。
「……あれ?……あ、開かない……?」
「ヒロ、鍵はここ」
「なんで内側からも鍵なんだよ!!」
「えへへ」
「かわいいけど許さないからな!」
万事休すか……!
「きっとそうやって逃げるだろうと思って昨日交換してもらった」
「昨日!?」
"
「ヒロ、落ち着いて。いくら日曜日とはいえまだお昼だよ」
「まだってなんだよまだって!そのまだって言葉がすっごい引っかかるんだけど!」
「気にしないで。わたしも気にしない」
「するわ!」
や、やばい……。
「サユねぇ!あたしも遊びにきたよー!……あれ?開かない?」
「サユねぇいるんでしょー?開けてー」
「ちっ」
「舌打ちしたよね今!?」
サユ……恐ろしい子……。
※※※
「っていうことがあったんだよ」
「
サユと
祐樹も引きつった笑みになるほどのサユ……。今後も注意が必要だ……。
「ただいま」
「二人とも~戻ったよ~」
「おかえり」
「おかえり、二人とも」
「何話してたのー?」
「休みのときの話だよ」
みんなで机をくっつけてご飯を食べる。
今日は及愛がお弁当を作ってくれた。
「今日は部活あるの?」
「あるよ」
「急に活動的になったな」
「おかげで助かってるでしょ?」
「たしかにそうだ」
将棋部を助けたのは俺とサユだからな。
「ゲーム部ってどんなとこだったんだ?」
「空き教室を私物化してた」
「それ、大丈夫なのかよ……」
それは俺も思った。
「でも、いい先輩がいたよ」
「へぇ~どんな?」
「おっぱいでかかった」
「まじで!?」
「祐樹くん……?」
「あ、いや……」
サユ……絶対気にしてるでしょ……。
「二人ともやさしい先輩だったよ」
「二人だけだったの?」
「そうだね」
なんか変かな?
それにしても、いい先輩でよかった。
「大翔くんは大きい方が好きなの……?」
「え?なにが?」
「ヒロ、おっぱいのこと」
「またその話!?」
ていうかなんで月まで聞いてくるんだよ!
「大翔!やっぱり大きいほうがいいよな?な?」
「やかましい!お前の好みを押し付けるな!」
「なんだよ!じゃあ小さいほうが好きなのか?」
「そうは言ってない!」
こいつ、うぜぇ!
将棋部、俺が潰しに行ってやろうかっ!
「ねぇ!どっちなの!?」
「ヒロ、どっち?」
「大翔!どっちなんだよ!」
真昼間からうるさいな!おっぱいおっぱいってお前らは発情期かっての!!
※※※
「…………」
「……あっ、だめっ……」
「大丈夫、ゆっくりやるから……」
あんまり早くしちゃうと、すぐ終わっちゃうからな。
楽しい時間は長く続いて欲しい。
「もっと……やさしくっ……」
「こ、こうか……?」
サユが、身をよじりながら懇願してくる。
意外と難しいもんだな……。
「んっ……はぁ……」
「…………」
「はぁ……ふぅ……」
「…………」
「んはっ……ふぅ……はぁ……」
ちょっと待て。
「お前、わざとやってるだろ」
「人間、息はする。たまたま、ヒロの耳に当たっていただけ」
「ジェンガって妨害ありのゲームじゃないだろ」
「特別ルール」
「勝手に決めんな!!」
妙にその……あれな呼吸だったし、これはひどい妨害だよ。
「普通にやったらいつも通りで面白くない。だから、特別ルール」
「ゲームを始める前に教えて欲しかったな」
「えへへ」
「くっ……」
かわいいから許す!とか思ってないんだからね!
「二人ともすごく仲がええね。付き合ってるん?」
「ヒロはわたしのお婿さん」
「勝手に決めんな!」
「そないなんや~。仲良しなわけやね~」
「ちょっと
もう周りの人が嫌いになりそう……。
「大翔も大変だな」
「そう思うなら助けてくださいよ
「悪いけど、オレには無理だ」
「……ですよね」
久美先輩は敵じゃないだけで味方でもなかった。
「ほら、ヒロ。ジェンガ」
「あーはいはい」
ぼっこぼこにしてやる……!
※※※
「そんなに落ち込まないで」
「くそう……」
妨害のせいで十四連敗もした……。
もうやだ……。
俺たちは、前みたいに途中の自販機で飲み物を買って歩いていた。
サユはいちごオレ。俺はミルクティーだ。
「特別ルール、楽しかった」
「それじゃあゲームじゃなくてルールを楽しんでたみたいだけど?」
「その通り」
「次、憶えておいてね」
「気が向いたら」
もう許さない!
俺は決意を胸に、家の玄関のドアを開けた。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「おかえりにぃ、サユねぇ」
私服にエプロンの及愛が出迎えてくれる。
エプロンがこんなに似合う小学五年生がいるだろうか。いや、いないだろう。
「サユねぇも食べてくよね?」
「いただきます」
「たまにはサユも作ってくれよ」
「わたしの料理が恋しい?」
「うん」
「意外と素直」
だってサユの料理めちゃくちゃおいしいもん。
「じゃあ土曜日と日曜日に作る」
「あたしも食べていい?」
「もち」
「やった♪」
及愛はあんまりサユの料理を食べれなかったからね。
またサユの料理が食べれるなんてな……。
「ご飯ができるまで何しようか、サユ」
「あ、今日はもうできてるよ」
「はやいね」
「ふっふっふ!ご飯食べ終わったらみんなで人生ゲームするよ!」
「お、いいね!」
「わたしもさんせー」
夕飯を食べ終え、人生ゲームを始める。
絶対負けない!!サユにだけは!!
「さぁ、ゲームをはじ――」
「サユ、それ以上はいけない」
「はい」
「?」
きょとんとする及愛と残念そうにがっくりしているサユ。
「リンクスタ――」
「それもだめ」
「はい」
「?」
いつまでも始まらないから始めようね。
そして俺は、連敗記録を更新し続けた。
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