第6話
「ごめん、負けたわ」
「分かりきってたけどなんかむかつく」
「清々しい負けっぷり。許せない」
「本当に申し訳ございませんでした」
ここから、二人で二連勝しなければ。
~二回戦~
次の先輩はサユと同じでずっと無表情だった。
整った顔立ちにすらっとしたスタイル。身長は
胸はそこそこあるように思える。
俺、さっきから変態みたいだな。
「……よろしく」
「よろしくお願いします」
振り駒の結果、俺が先攻になった。
まず俺は▲7六歩と駒を進め、角道を開けた。
相手は、▽3四歩と駒を進め、角道を開けた。
それを見た俺は、▲2六歩と駒を進めた。
※※※
対局は終盤に入っていた。
相手の戦法は四間飛車。玉の囲いを美濃囲いにしての四間飛車だ。
対してこちらは4六銀左戦法。
現在相手の飛車を追い詰めているところだ。
俺は▲3三に歩の駒を進め、成る。
相手は4二にあった金を▽5二に進めた。
ここから、5一にある飛車を取るにはどうしたら……。
――ビリッ。
その時、俺の頭に電流が走るような衝撃が訪れた。
そうだっ!
俺は、▲2四馬と駒を進め、相手の歩を取った。
2五には相手の銀があるため、この駒も狙える。
相手は銀を取られたくないため、▽3六銀と駒を進める。
よしっ!
ここを好機と見た俺は、▲4三と金と駒を進めた。
これでこちらは、馬で飛車を狙えて、と金で金を取れる状態になった。
ふと、相手の方を見ると苦しそうな表情をしている。
この勝負もらった!
その後、相手は▽2一飛車と駒を進めた。
こちらは▲2二歩と駒を打つ。
それに対し、同じく飛車。▲2三歩と打ち、
「……ありません」
「ありがとうございました」
「……ありがとうございました」
俺の勝利だ。
「やったな
「ヒロ、ぐっじょぶ」
「ありがとう二人とも」
これで一勝一敗。あとはサユが勝てば……。
「……ごめんね
「大丈夫よ。あとはアタシに任せなさい」
あとは祐樹の姉、谷治友恵先輩。
対するこちらは
「頼むよ、サユ」
「頼んだぜ桜雪ちゃん!」
「まかせて」
本当に、頼むよ。
~三回戦~
「沖倉さんだっけ?」
「桜雪でいい」
「じゃあ桜雪ちゃん。容赦はしないわよ」
「友恵先輩。こちらも本気でいく」
振り駒の結果、サユは後攻となった。
まずはお互い角道を開ける。
相手の次の手は▲4八銀。
そしてサユの手は、▽5四歩。
それに続いて▲5六歩▽5二飛車▲6八玉▽6二玉▲7八玉▽7二玉と続いた。
ゴキゲン中飛車VS左美濃の対局だ。
「なぁ大翔」
そんな対局の中、こっそりと祐樹が俺に話しかけてきた。
「どうした?」
「桜雪ちゃん。勝てると思うか?」
「さぁね」
「おいおい」
「だって実際分からないんだから仕方ないだろう?」
谷治先輩の実力も分からなければ、サユの実力も分からないんだ。
サユが勝てるかどうかなんて分かるはずもない。
ただ、サユの……"
その間にも対局は進んでいた。
二人とも将棋盤を睨みつけ、集中しているのが見て分かる。
ただ、おかしいと思ったのはサユがゆっくりと将棋を指しているところだった。
でも、今回のサユにはそれを感じなかった。
それどころか逆に驚かされている。
そんな風にサユを心配していたその時だった。
サユが相手の飛車を取った瞬間。サユの目つきが変わった。
これは、久美先輩や俺と戦っているときに見せたあの目だ。
サユは左手の指先でクセ毛をいじり始める。
「これは……」
「桜雪ちゃん、どうしたんだ?」
「安心しな、祐樹」
「ん?どういうことだ?」
「たぶん、勝ったよ」
「は?相手の詰みでも見えたのか?」
「いや、俺には見えない」
「俺には?まさか、桜雪ちゃんは……」
相手の駒は詰んでいないように見える。というか、詰んでいないだろう。
おそらくサユはここまでの試合運びから、相手の動きをすべて読んだのだろう。
相手が迷って駒を進めているのに対し、サユは一秒と経たずに駒を進めている。
読み通り、ということだろう。
「っ……!なんで……」
谷治先輩が困惑し始めている。
「なんでなんでなんでっ!!」
やがて、谷治先輩の駒を指す手が止まった。
「……ありません」
詰んでいた。
「ありがとうございました、友恵先輩」
「ありがとうございました……」
これが……"
※※※
「いやぁ助かったぜ二人とも!いっぱい食べてくれ!」
「いただきます!」
「いただきます」
対局終了後、俺たちは祐樹に誘われ、ご飯を食べにきた。
既読無視されたので、家に帰ったらなんと言われるのか想像したくもない。
「これで将棋部も生き残ったぜ!」
「祐樹はなんの役にも立ってなかったけどね」
「すみませんでした!」
「もぐもぐもぐ……」
「それにしても桜雪ちゃん、よく食べるね」
「ごくん……。ご飯食べるの好き」
サユは見た目は小さいのによく食べる。
これは昔からなのに、なぜサユは大きくなれなかったのだろう。
「ヒロ、どこ見てるの?」
「いや、サユはいっぱい食べるのになんで大きくならなかったのかなぁと」
「やっぱり大きいのが好きなんだ」
「ねぇサユ、何か勘違いしてない?」
「だいじょうぶ。ヒロも男の子だから、仕方ない」
「その言葉に絶対的な信頼を持ちすぎだ!その言葉は万能じゃない!」
まったく。このやり取りを何回繰り返すつもりだ。
「まぁまぁ小さくても、かわいいじゃないか!」
「ありがと」
サユを口説くのは許さない。
もともとたくさん食べるサユが料理を大量に食べ尽くし、サユを口説いた祐樹に切れた俺が大量にご飯を食べたことにより、祐樹の財布が寂しくなり、一人泣いていたという話はまた別の話。
※※※
『ルナ姫~~』
『手、綺麗!!』
『さすが姫!!』
画面には、こういったコメントがたくさん流れていた。
そんな中、私は視聴者に向けゲームの手を緩めないようにしながら話す。
「そういえばね、私学校に入りたい部活が出来ちゃったの。だから、放送の回数が減っちゃうかもしれないけど、許してね?」
『まじかよ!』
『どんな部活?』
『俺もその学校行って同じ部活入りて~』
「ふふふ」
私は、笑みを浮かべながらゲームを続けた。
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