少し決意の二月一日
冬休みが終わり、あっという間に二月一日となった。
世間はクリスマス、大晦日、お正月とイベントは盛沢山だったみたい。
だけど、私と彼は平常運転だったので何事もなし。
勿論、クリスマスプレゼント交換はしたし(綺麗なペンとノートだった)、一緒に年越しもしたし、初詣にも行った。彼と一時帰国した両親(二人共、海外を飛び回っている。曰く『柊君に全部お任せ。嬉しい?』。確かに一緒なのは嬉しいけど)や親戚からお年玉もたくさん貰った。
友人達に話したら、怪訝な顔をされて一言。『え? とっても仲良いよね? 何が不満なの?』。
……違うのだ。確かに私達は仲良しではある。あるけれどっ。
言葉では中々伝えられないけど、私が彼に求めているのはこういう事じゃなくて……もっと、何と言うか……。
「どうしたんだい? さっきから、カレンダーを睨みつけたりして。ああ、月が替わったね」
「睨んでない。ちょっと、考え事してただけ」
「はいはい。早くお座りよ。折角、温かいのに冷めちゃうよ」
「もうっ!」
八つ当たり気味に、何事もなかった一月のカレンダーを破る。
当然、次は二月。そう二月だ。
……今年もこの時期が来たのね。今年こそは何としても。
ちょっとした決意を内に秘め、椅子に座る。
愛用のマグカップに注がれているのはミルクティー。優しい味がする。
「で、どうしたんだい? 帰って来てからちょっと変だよ。何かあったのかい?」
「何もないわ。ええ、本当に何も」
「そう。なら良いけれど。ああ、そういえば」
嫌な予感がする。
この話の流れ……次に出されるのは。
「今年は、何がいいかな? 去年は花束だったけど別のがいいよね?」
「……柊」
「んー? ああ、やっぱりチョコレートの方が」
「……違う」
「マカロン? 美味しいのは本当に美味しいよね」
「ちーがーうっ!」
「それなら、何かな?? 出来る限り期待には応えるけれど。余り高価な物は駄目だよ。ブランドバックとか。君はまだ学生だからね」
人差し指を自分の頬につけ、少し首を傾けている。年上なのに、そういう所作が妙に可愛らしい。
……もしかして本当に分かってないの?
「今年はいらないから、お返し」
「ええー。どうしてさ。毎年恒例だったのに」
「今までが変だったのっ!」
「そうかなぁ」
「そうよっ!」
「嫌だった?」
「そ、そんな事あるわけない。嬉しかったし、今年は何を貰えるんだろうって考えて毎年、楽しみで……ち、違うから。今のなしっ」
「そっかそっか。百合は喜んでくれてたんだ。ありがとう。嬉しいよ」
「っ」
ズルい……ズルい! ズルい! ズルい!
この人は何時もこうなのだ。私が頑張っても中々言えない事を、さらりと口にしてしまう。
そんな笑顔で言われたら、本心からそう思っていることが嫌でも分かる。
「なので、百合が嫌じゃないのなら、今年も贈りたいんだけどな」
「……だ、駄目」
「そこを何とか」
「……だ、駄目ったら、駄目」
「そっか。そこまで言うなら、今年は止めておくよ」
「……え?」
「と、言うのは嘘だよ。当日、楽しみにしておくれ」
「もうっ! ……柊は意地悪だ」
「よく御存知で。ああ、僕への誕生日プレゼントは大丈夫だからね。高校生になったのだし、色々と物入りだろう?」
「なっ!?」
私には贈る宣言をしておいて、それなの?
幾ら何でもそんなの、そんなのっ!
マグカップのミルクティーを一気に……飲み干せず、一口飲んで気持ちを落ち着かせる。
こういう時は怒ったら負けなのだ。何時の間にか彼のペースに乗せられて後悔する羽目になる。今年こそは……誕生日プレゼント以外も絶対に渡してみせるんだからっ!
「嫌。私も贈りたい」
「僕はもうもらっているよ」
「何をよ?」
「この家に来てから、毎日欠かさずこうして話をしてくれてるじゃないか。それで十分さ」
「不公平だと思う。確かに柊は大人で、私はまだ子供かもしれない。だけど、私だって……感謝してるから。嫌じゃないのなら贈らしてほしい」
「勿論、嫌ではないよ」
「なら、贈るから」
「君も頑固だなぁ。ありがと、楽しみにしておくよ」
彼が苦笑。
……良し。まだ気付かれていない。後は、当日までバレないように細心の注意を払って行動しよう。
目の前で優しく微笑む私の想い人。この人の誕生日はあろうことか二月十三日である。その翌日は――そうあの祭典。
本来なら、恋する乙女にとって勝負所な筈だけれども、今まで一度も渡せたためしがない。
十三日に誕生日プレゼントを渡して、翌日にも、と言えば、彼のことだ。絶対に受け取りはすまい。
何しろ、ここ数年は翌十四日に、彼から私へお返しがきているのだ。
確かに外国だとそういう習慣もなくない、と聞いてことあるけれど……此処は日本。嬉しいけれども、私は大いに不満だった。
なので、今年は退かぬ決意を固めている。
誕生日プレゼントは当然渡す。既に準備は着々と進行中。
そして、翌日も渡す。彼が何と言おうが「本命だから」と伝えて。
私から踏み込まなければ多分、ずっと何も変わらないから。
今の関係は本当に心地いい。まるで、今飲んでるミルクティーみたいに優しい。 けれど――それじゃもう嫌なのだ。
「また、百面相してる。何を考えてるんだい?」
「秘密よ。乙女の秘密。プレゼント、楽しみにしておいてね」
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