もうっ!! 何なのっ、その貫通力はっ!!

「ただいま」

「お邪魔しまーす」


 千代と連れ立って帰宅。

 あれ? 

 何時もなら、すぐ「おかえり」の声がするんだけど。

 鍵もかかってたし、執筆中かしら? 


「あ、百合。そこ、メモが置いてある」

「……あら。残念ね、柊が留守ならケーキはまた次回」

「にならないわよね? だって、そのメモにばっちりと、書かれているじゃない。タルトが私を呼んでいるわっ!」


 もうっ! メモ書きにわざわざ『本日のおやつ』なんて書かなくていいのに。

 まぁ一人で食べるよりも、二人で食べた方が美味しいからいいけれど。

 家に入り、お湯を沸かす。


「千代、私、着替えてくるからね。お湯が湧いたら止めて」

「了解~。お皿とカップも用意していいわよね?」

「お願い。紅茶は私が入れるわ」

「うん♪」


 楽しみ! と満面の笑み。可愛い。

 千代に軽く手を振り、自分の部屋へ。私服に着替え、軽く身だしなみを整える。

 姿見に映る少女は――それなりに整っている方だとは思う。決して不美人じゃないし。ただ、長い黒髪も影響して、少しキツイ印象を与えるかも。先程見た、笑顔を思い出す。

 ……私にもああいう可愛らしさがあればいいのに……。

 そうすれば、もっと柊は私を好きになってくれるんじゃないかしら? だって、どう見ても千代のこと気に入ってるし。

 勿論、それは恋愛的なものじゃない……筈。多分、そうじゃないと思う。うん、きっと大丈夫。

 少し前までの私なら取り乱すところだけど、今の私は違う。何故なら、ちゃんと『可愛い』と言ってもらえてるし。からかい気味じゃなく。

 だけど、少しだけ嫉妬するのは仕方ないと思う。

 ……こんな事、千代にバレたら大変だから言わないけど。

 

 携帯を確認。通知は無し。


 走り書きのメモにはおやつの場所と、『少し出てきます。すぐに戻ります』とだけ書かれていた。何処、行ったのかしら?

 柊はきちんとしている人なので、何かあれば私に連絡がくる。今回、それがなかったのは……つまり、突発的な用事ということ。

 少し考え――放棄。分からない事に、時間を使っても仕方ないし。

 さ、紅茶を入れて、おやつにしよっと。


※※※


「美味しい。百合、貴女、紅茶まで……!」

「無理に褒めなくていいわよ。見様見真似だもの。柊に比べたら、全然なのは自覚してるし」

「柊さんと比べたら……ど、ど、どうしよう、私、勝ち目だありそうな項目がないんだけど!? ゆ、百合、私、乙女として、乙女としての……」

「大丈夫よ、千代……そんなの、私だって同じだから……」


 顔を見合わせ、同時に噴き出す。

 女子高生よりも女子力が高い男性作家って何なんだろうか。

 それでいて、ちゃんと男らしいところもあるし。

 まぁそのギャップが、その、ちょっといいんだけど……。


「百合ぃ~?」

「な、何よ」

「今、柊さんのこと、考えてたでしょ? しかも、えろいの」

「えろ――そ、そんな筈ないでしょ!」

「ええー嘘だー。はっ……そ、そうよね、ごめん! 百合はもう大人の階段を――」

「……千代?」

「はいっ!」

「あんまり、ふざけると……ね?」

「ええ~。生殺し……うん、そうよね。親しき仲にも礼儀あり、だもんね。それで? もうキスはしたの?」

「ぶふっ」


 キ、キ、キ、キ、キス!!?

 誰が? 誰と? 

 え? 私と柊が??

 …………ふわぁ。


「ちっ、何よ。もうしちゃってるのね。へぇーふーん」

「ち、違」

「なら、何処まで?」

「……千代、貴女、はめたわね?」

「えー私、学年17位だから、分かんなーい」


 目の前にニヤニヤと笑い親友を睨みつける。

 が、効果無し。くっ……。

 その時、追い詰められる私に救いの手。


「ただいま」


 玄関が開く音。

 優しい声。そして、聞きなれた足音。

 もう、何百と聞いているのに、未だにドキドキする。

 千代、何よ? その目は。し、仕方ないでしょ!


「ああ、やっぱり。いらっしゃい千代ちゃん。百合、お菓子は分かったかな?」 

「ありがと。大丈夫だった」

「お邪魔してまーす。柊さん、この林檎のタルトなんですが」

「うん。少し、甘過ぎたかな?」

「ぱーふぇくと、ですっ! 私、こんなに美味しいタルト食べたことないです!!」

「感謝の極み」


 二人が楽しそうにじゃれ合っている。

 ……いいなぁ。

 私は最近ようやく、柊に甘えられるようになったけど、未だに何処か遠慮してしまう。だけど、千代は、懐に飛び込むのがとても上手いと思う。

 ちょっと、その技術、私にもちょうだいよ。


「あ、柊さん。私に構わず、ささ、そこでむくれている百合御嬢様を甘やかしてください。ここで、援護をしておかないと、明日、学校で虐められるんです」

「おや? 百合は何時からそんな悪い子に……葵さんに怒られてしまうね」

「千代ぉぉぉ……柊もっ!」

「申し訳ありません、御嬢様。余りにも、その、分かりやすくて――」

「こらこら、千代ちゃん。そういう時はもっとオブラートに包まないといけないよ?」

「えーわかんないです。実演をぷりーず」

「仕方ないねぇ――百合」

「……何」


 身構える。二人きりの時なら、何を言われてもいい。けど、今は千代がいる。

 油断すれば――確実に一週間はからかわれる。

 大丈夫よ、百合。最近はもう耐性が



「そういうところが、本当に可愛いよ」



 あ、無理です。

 こんなの耐えられる筈ないでしょ! 

 もうっ、もうっ、もうっ!! 何なの、その貫通力はっ!!

 ――千代、取りあえず身悶えながら、テーブルを叩くのは止めてちょうだい。 

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